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「【白紙の魔道書】答え、よ。これは<災厄>、か」

「是。この生き物は<災厄>の水属性、稀少種であると回答します」

「これを追っている者がいる可能性、は」

「是。足に枷状のあざがあること、体中に傷跡があること、毛並みの血や泥、または逃走本能や怯えなどの精神状態、稀少種であることから鑑みるに、ほぼ十全に追われている可能性 へとつながると回答します」

「そう、か」


 咲也子が触れる前に気絶してしまった<災厄>を浅瀬から引き上げ、濡れそぼった毛並みを雑草の中、草の布団の上へと寝かせる。


「問。追われる可能性があるのならば、空カードの中にいれるべきなのではないかと提示します」

「からカー、ド」

「是。テイムした魔物をいれておく器であると回答します」


 <災厄>。危険を察知し知らせてくれていた心優しい獣たち。しかし姿を見せることと災害が起こることをつなげて考えた者がいたために、不遇な種族名に分類され、迫害を受けることも多いという種族。優しさを仇で返されてしまった哀れな生き物たち。

 さらに希少種に比べ、稀少種は強さに特化しているわけでもない。希少種は戦闘用、稀少種は観賞用と言われ、色違いというだけで人気があり狩られやすいことを咲也子は母から聞いて知っていた。


(<災厄>で稀少種。こんなにかわいいのに)


 なんとも不遇な組み合わせで生まれてきてしまったのだろうか。傷がないところはないため、大きな傷にはふれないように<災厄>を撫でる。


「水よ、ここに」


 掌の上に魔力で術式を描き、文言により命令式へと変化させる。当然のように、その目は青く染まっていた。‘傲慢‘の魔力増強によって。手のひらの上に20cmほどの水球が形作られ、その中に放り込んで丸洗いにする。幸い視診では大きな傷口はなく骨折などもみられなかった。


(洗濯物みたい……)


 咲也子がそう思ったかどうかは別にして、ぺたぺたと15cmもない体躯に触れていく。前後の足を軽く握り反応があるかで感覚の有無を見、関節可動域内で折り曲げた時に痛みはないかなど全身を通して観察して。時折悲鳴ともつかない「ひんっ」と鳴き声が聞こえたが、苦痛の色が混じっていなかったため咲也子は気にしなかった。


(小さい傷はたくさんだけど、大きいのはなくて。お熱も膿んだりもしてないね。でも)


 怪我というか、特徴として腹部とひれ、左太腿に古い縫い傷があった。今はもうきちんと癒着しており離開や感染の危険性はないものの、前足を曲げた時に顔を少ししかめる程度には違和感があるのだろうことがわかった。


「命に、かかわりはないか、な。疲れか」


 自分のいる森に安息を求めてやってくる獣たち。人間に捨てられ追われ傷つけられた彼らの悲しそうな鳴き声が今にも耳元で繰り返されているように感じる。

 そんな彼らを少しでも癒したくて、咲也子は魔物医の勉強を独学でした。‘暴食‘の力を借りればあっという間に終わってしまうそれを、何度も何度も読み返した。

 咲也子の家に魔物医学の本があったということは過去のキメラの誰かもきっと、魔物を助けたいと資料を集めたのではないかと推測できた。もちろん、足らない資料もたくさんあったため、ただの娯楽として集めた可能性も否定できないが。


 咲也子は包帯からポーションまで一式の手当て道具は持っていたものの。肝心の回復ポーションの類は全て期限が切れただの腐った水へと変質していて、傷には使えなかった。

 水できれいにした後は少しでもきずか空気に触れないように包帯で巻いていく。【白紙の魔導書】を【アイテムボックス】に戻した。


「疲れていると、弱っちゃう、な」


 命にかかわりがなくても、疲労は衰弱にたやすく変わる。だから咲也子はとある決断をした。思考から戻ってくることでやっと、春のうららかさが咲也子の周りに戻ってきた気がした。

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