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 扉を開けてすぐに、古書特有の埃っぽさとカビに似た紙の匂いがした。たっぷりとした日差しを遮るように厚いカーテンが引かれて、電灯はついているのは本が日焼けしないためであることを咲也子に推測させるとともに、本に対して優しい図書館だなと思わせた。

 咲也子はとりあえず、といったように専門書のコーナーからジャンルは問わずに10冊ほど持ってきてほしいとティオヴァルトに伝えて、自分は絵本のコーナーへと足を運んだ。

 分厚い専門書を適当に端から10冊ほど抜き出して持っていくころには、ティオヴァルトが確保しておいた席は絵本が崩れんばかりに積み重なっていた。言葉の勉強用のものから、大衆的な童話まで裏表紙にしておいてあるそれらはもう読み終わったのだろうか。

 咲也子がふと読み終わった本から顔をあげてみると、どこか微妙な顔をしたティオヴァルトと目が合った。


「どうした、の?」

「……これ、読み終わったんなら返してくる」

「ありが、とー。それともう1回、本よろしく、ね」


 やはり読み終わっていたらしい。フードの中で青い目を光らせながらページをめくっているだけのような速度で、ティオヴァルトが持ってきた本が読まれていく。心地よい天気である今日にどこか薄暗い図書館に来る人は少なく人気は少ない。しかし少ないだけ完全にいないわけではなく、そのごく少数は分厚い専門書をハイスピードでめくっている少女に何事かとうかがっていた。

 さいわいフードの中の青い目は見えておらず、大きな騒ぎにはなっていなかった。ティオヴァルトはため息をつきながら、裏返しに置いてあった絵本を持ち上げて、絵本コーナーに向かう。


(つくづく俺には似合わねえ場所だな)


 可愛らしい絵柄で書かれたウサギとカメ、そんな本を返しながらもため息をつくと、横で絵本を選んでいた母子がおびえたように肩を跳ねさせた。失礼だと思う。

 また本を10冊ほど持ち、咲也子のもとに向かうと変な男と話し込んでいた。


「そうなんだよ! 彼女の本はなかなか読みづらくてね」

「ん。もともと知られてることをわざわざ新しい発見みたいに書くか、ら」

「彼女の研究書……というか、あれはもう自伝に近いよね。新人が誤解するんだよ」

「新人の基礎知識が試されるとこ、ろ。でも、読みづらいから、読み物としては楽し、い」

「言うね! そ。これを読んでどう思うかが魔術学校の試験にも出されるくらいなんだよ。それくらいわかりづらいよなぁ。ま、確かに読む分には楽しいがね!」


 なんか盛り上がっていた。話に入っていっていいものかどうか悩み、自分には関係ないかと割り切って咲也子に近づく。相手の男が顔をあげるのにつられたかのように咲也子も顔をあげ、ティオヴァルトに気が付いた。

 大きな黒い目をぱちりと瞬くと、ティオヴァルトの片腕に抱えられている専門書に視線を移して目を細めた。咲也子が目を細めるときはたいていが喜んで笑顔の代わりになっているということに、ティオヴァルトは最近気づいた。

 そのまま本を机の上に置いて裏表紙となって読み終わっていると思われるものを回収する。


「ありがとうね、君みたいな若い子と有意義な話ができるとは思ってなかったよ」

「楽しかった、の。ありがと、う」

「いやいや。こちらこそありがとう。本はいいよ。大いに学びなさい」


 咲也子にウインクするとカーディガンをはおりながら男は去っていった。意味が分からない。ちなみにティオヴァルトが本を戻し、咲也子のところに戻すことを繰り返して5回ほどしたときに閉館となってしまい、図書館を放りだされた。

 追い立てられながらも少しでも多くの知識に目を通して‘暴食‘を満たそうと咲也子は粘っていたが、司書の青筋の浮かんだ笑顔には耐えきれず、泣く泣く図書館を出てきたところだった。


 もうすっかり日差しは陰り、レンガ造りの家々には明かりがともされている。昨日よりも冷たい風が吹き、咲也子は集中させすぎて固まった目をほぐしながらくしゃみをした。


「……貸してやるから。早く飯食って風呂入って寝んぞ」

「ん!」


 自分の首に巻いていたマフラーを取り、咲也子に巻き付けた。少しかがんで咲也子を抱えると、2人ともお互いの体温を暖かく思いながら明かりの灯った町並みの中、止まり木へと帰っていった。

 帰り道。テントが不揃いに立ち並ぶメインストリートで、ティオヴァルトはどこか酸っぱくて甘い匂いが鼻をくすぐるテントで温めた葡萄酒を買ってあおると、咲也子には温めたミルクを買った。渡されたそれは甘い匂いがしていて、はちみつの入った甘さが心地よかった。

 

 止まり木に入って、いつも通りの場所で手早く夕食を終える。お風呂は咲也子が入った後にティオヴァルトが入って。いつも通り、咲也子が2段ベッドの下で枕元にひんの入ったカードを枕元に置いて、早々に就寝した。


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