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 しばらく見つめていると、呪印の動きがわずかにずれ、いくつか重なっていることが分かる。


(呪印が2つ……いや、3つか)


 解読が難しいと思われたそれは単純な呪いが3つ重なって、みたこともない呪印のように見えていただけだった。これならいつでも解けそうだ、と満足したように視線を外した咲也子に、舌打ち以外で口を開かなかったティオヴァルトが低く声をかける。


「おい、やめとけ。神殿の加護持ちにすら解けなかったんだ。役に立たないやつをパーティに入れる必要なんてねぇだろ」


 それに、人に対しているのにも関わらずフードも取らないやつは信用ならないと言う。

 乱雑な言葉遣いと無遠慮ともいえる言葉に館主がもう1度たしなめようと声を出そうとするのを腕を前に持ち上げることで制した。


 確かにそうだなと、と思ってフードの裾を持ち上げて顔をあらわにさせる。ぱさりとフードが取れる音とともに縫い跡と傷跡がある、幼い少女の顔が現れた。驚いたように目を見開くティオヴァルトはしかしすぐに顔を歪めた。


「この子がい、い」

「え?」

「この子が、ティオヴァルトがい、い。だって、」


 どこか呆然とした顔をさらす館主に再度告げる。

 館主越しに指していた指を下げて、ティオヴァルトに何度目になるかわからないが視線を合わせた。瞬きの一瞬だけ瞳を青く染めさせることで、歪めている顔は嫌悪からではなく困惑からだと魔力の流れが咲也子に告げていた。

 

 天井につるされたシャンデリアがきらりと光ったあと、雲が太陽を隠してしまったのか急激に部屋の中が暗くなる。

 ざわりと、その小さな体の存在感が膨れ上がる。もう、息をすることすら許されてはいないのではないかと感じるほどに。告げられる一言が、何よりも貴いものなのではないかと考えさせられるほどに。その存在は強く清廉だった。

 何より、威圧を持って包容するかのように、全ての支配を許されるただ1人の存在を思わせる絶対的存在感で。



「君のしてきたその努力は、無にかえされるべきではないでしょう?」



 肉刺がつぶれてかたくなった、傷だらけの手を見ながら。

 ささやくように告げたその言葉。それだけは、咲也子にとってのなによりもの正義だった。

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