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ゆるい短編

黄昏の街

作者: 閑古鳥

「久しぶり」

 そう言ってあいつは笑った。そういえばしばらく会ってなかったなと思い返して久しぶりと返す。何で会ってなかったんだっけ?少し疑問に思ったけれど全然思考がまとまらない。まあいいか。今気にすることでもないな。疑問を霧散させてあいつへと向き直る。

「遊びに行こうぜ」

 あいつは昔と同じ表情で、昔より成長した姿で昔と同じようにそう言った。懐かしいなと笑いながら俺はそれに応える。何をして遊ぼうか。ああ、でもきっとあいつと一緒なら何だって楽しいんだ。


 楽しい時間はあっという間に過ぎて、夕焼けが街を赤く染めていく。じんわりと寒さが忍び寄って来て軽く腕を擦った。また遊びたいなと思いながらそういえば何でいきなりあいつと会ったんだろう?と疑問が過ぎる。今日はどうしてか上手く考えが纏まらない。ぐるぐると考える頭にふと声が届いた。

「あ、なんだ。もう終わりか」

 俺の少し後ろを歩いていたあいつがそう呟いた事に気づく。何のことだろうと振り返ると夕日を背負ったあいつの表情が見えなくなって、ゆらりと何かが揺らいだ気がした。体は確かに見えるのに顔だけが黒く塗りつぶされたように判別できない。笑っているのかそれとも泣いているのかさえわからない。ゆらりゆらりと黒い影があいつの体を包み込んで、まるで影法師のように黒い輪郭がそこに立っていた。

「さよなら。また来世で会えたらいいな」

 あいつはただその言葉だけを残して消えた。あいつだったはずの黒い影は夕日に溶けたように姿を消した。初めから化かされていたのかそれとも俺の目がおかしくなったのかはわからない。さっきまで居たはずのあいつはもう俺の目に映ることはなく気配も痕跡も何一つ残さずに消えてしまった。

 ああ、そうか。ここは黄昏の街。死者と生者が交わる場所。あいつ、俺にさよならを言いに来たんだ。


 目が覚めて少し顔に違和感を感じ、こめかみのあたりに手を触れた。パリパリとした感触が手に伝わってくる。寝ている間に涙を流していたんだろうか。悲しい夢でも見たんだろうか。けれど何も覚えてはいない。少し胸のあたりが苦しいけれどきっとそれも気のせいなんだろう。

 さあ今日も一日頑張らないと。


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