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もし童貞がミツバチの世界に行ったら~今日は何の日短編集・3月8日~

作者: 白兎 扇一

今日は何の日短編集

→今日は何の日か調べて、短編小説を書く白兎扇一の企画。同人絵・同人小説大歓迎。


みつばちの日


全日本蜂蜜協同組合と日本養蜂はちみつ協会が制定。

「みつ(3)ばち(8)」の語呂合せ。

なお、「はちみつの日」は8月3日である。


http://www.nnh.to/03/08.html


俺は目覚めると、見慣れないベッドに寝ていた。真昼間なのにベッドで寝ている。これはおかしいことだ。俺はスーパーの帰りだったはずだ。うん。間違いない。俺の右横には品物の入ったレジ袋がある。

まぁ、兎にも角にも起き上がるしかないか。体を起こした俺は愕然とした。体が黄色い毛に包まれていた。ところどころ黒い毛も混じっている。手を出してみる。手は相変わらず……太い人間の指のままだ。触ってみると、頭には何か変な角みたいなものが生えている。

辺りを見渡す。金色の壁、八角形の部屋。上は屋根がない。青空が見える。目の前にあるドアの左には鏡がある。俺は起き上がって、姿を確認する。ミツバチだ。でも完全なミツバチではない。昔見たアニメのマ○ヤみたいな擬人化されたハチの姿だった。

「おい、新入り」

ドアが開く。俺と同じような姿をしている女がいた。茶髪に、細目。なんというかそそられない女だった。童貞の俺でもこいつには手を出したくない。

「お前、女王様に挨拶出来てないだろう。行くぞ」

「なんでお前そんな偉そうなの?女なんだからもっと優しく」

「お前、何を寝ぼけているんだ?」

女は俺の背中の羽を掴んで、ドアの外に引っ張り出した。外には廊下と無数の同じような部屋があった。間を渡るのはみんな、女の顔をしたハチ。1人も、いや、1匹も俺のようなオスバチがいないのだ。

「ハチの世界は1匹の女王蜂と無数のメスバチで支えられている。オスバチは少ない比率しかおらず、女王様と子供を設けるぐらいしか役目がない。はっきり言って役立たずだ」

役立たず。その言葉が俺の胸にズシンと引っかかる。ガン○ムじゃないが、親父にすら言われたことがなかった言葉を─この女、いやメスバチはさっさと言いのけた。それが、童貞の俺には酷く苦しい。

「とにかく、行くぞ」

メスバチは再び俺の羽を掴む。痛い痛いと叫ぶものの、この女には聞こえていないようだった。女は俺を引きずるようにして、廊下を渡る。

「女王様。新入りをお連れしました」

メスバチは一際大きな部屋の前で止まった。右左あっちこっちを曲がるため、もう道順すら覚えていなかった。案内なしでは帰れねぇ自信あるわ、これは。俺はメスバチの後ろをついていく。部屋の奥には玉座があった。

「ご苦労様です。アーマヤ」

涼しい声が聞こえた。玉座には案内役のメスバチとは比べ物にならないほど美人なメスバチがいた。見たこともないような……あり得ないぐらいの美人だ。

「貴方が、新入りですね」

「はい!」

しくった。声が裏返ってしまった。姿勢をピンと正した俺の様子に、メスバチは怒る事もなく顔もしかめずに、にこやかに笑っている。

「私はこの巣の女王です。女王様と呼ばれています。よろしくお願いします」

「よ、よ、よ、よろしくお願いします」

俺は面接試験の時ぐらい丁重な礼をする。面を上げなさい、と女王様は口を開いた。俺は顔を上げる。やっぱりクソ可愛い。何だろう。気品もあって……本当に女王様だ。

「それじゃ、アーマヤ。この子を元の部屋へ」

「かしこまりました」

「キャー!!!!」

耳をつんざくような悲鳴が外から響いた。

「今のはファマーの声ね!どうしたの!?返事をして!」

女王様は玉座の下からサポートセンターの人が付けるようなマイクを取り出し、大きな声でファマーという子に呼びかける。

「ス、スズメバチが……キャッ!」

「ファマー?ファマー!」

マイクから音が途切れた。女王様の顔は青くなった。

「スズメバチって相当やばいやつっすよね?速くなんとかしないと……」

「でも、私……どうすればいいのか分かりません。ミツバチにはスズメバチを倒す技があるんですけど、それが分からないんです」

「なんで!?」

「最近人間がスズメバチを倒しすぎて、使わなすぎて……その技を忘れてしまったんです」

「はぁ!?え、じゃ、何?アーマヤも分からないのか?」

「女王様が分からないものを私達が分かると思うか!?大体、お前は分かるのか?」

「分かるわけねぇだろ!突然ミツバチの世界に飛ばされてきたんだから!」

「飛ばされてきた?何を言ってる?」

アーマヤは首をかしげる。悲鳴が外で上がっている。どうしましょう、どうしましょうと女王様はうろたえている。なんだろう。こういう表情もなかなか乙だ……いや、それどころじゃないな。

どうするか。どうしようか。頭を巡らせていた時にふと光が見えた。

「待って……俺、アレ持ってるわ」

「は?」

「アーマヤ!俺の部屋まで案内して!」

アーマヤは俺の前を走っていく。アーマヤの背中を追う。色んな方向に曲がっていって、さっきの部屋にたどり着いた。枕のところに、白い袋が置いてあった。白い袋からアレを探す。あった。缶に入ったアレが。

俺達二人に影がさす。背中が震えた。俺はゆっくりと見上げる。上には、体の大きいデカいハチがいた。俺と同じような姿だ。だが、顔は頬に傷がついていて、まるでヤクザのようだった。

「ス、スズメバチ……」

「おらおらおら!獲物になれ!まずはそのメスバチからだ!」

スズメバチは急降下してきた。ひっ!とアーマヤがしゃがむ。俺は缶を構える。プシューっと音と共に、白い煙が放出された。

「こ、これはなんだ……?体がうごかねぇ……」

スズメバチは俺の前に倒れた。最初は手足を動かしていたが、徐々に動かなくなっていった。

「殺虫剤だよ。スズメバチにも効くやつだったんだな」

「お、お見事……」

俺が作ったわけじゃないけどな。スズメバチは顔を床につけて、いよいよ動かなくなった。やった。どうにか危機を救った。

「大丈夫か?」

俺はアーマヤに手を差し出す。アーマヤは手を近づけた。が、強い力で俺の手を振り払った。

「痛っ!何すんだよ!」

「一人で立てる!余計な心配をするな!オスバチのくせに!女王様に報告に行くぞ!」

アーマヤは膝についたホコリを払り立ち上がって、スズメバチの羽を掴む。なんだよ。冷たい奴だな。俺は廊下に出たアーマヤの跡を追う。

「……ありがとな」

小さな声でアーマヤはそう呟いた。後ろから見える耳はすっかり赤くなっていた。



「戻りました、女王様」

玉座の周りを歩き回る女王様は足を止めた。当然だ。さっきまでどうしようどうしようと言ってた敵が死体となって現れたのだから。

「ア、アーマヤ。貴方が倒したの?」

「いえ、ここにいるオスバチが」

本当にありがとうございます!女王様は輝いた顔で、俺に礼をした。本当に何をしても美しい、可愛い。

女王様は俺の方を見つめていた。頬が赤く染まっていた。は?これはもしや……?

「アーマヤ。二人にしてくれる?」

来たぁぁぁ!恋愛フラグやぁぁぁ!これなんてエロゲだよ!

「かしこまりました」

アーマヤは何一つ抵抗せず、部屋から出て行った。ありがとう。アーマヤ。別にお前のこと少しも好きじゃないけど。

「さっきはありがとうございます」

女王様は玉座から立ち上がる。あぁ、どうもとあえて冷たく振る舞う。ここで犬のように尻尾振って反応してたら舐められてしまう。女王様は俺に近づいて、抱きついた。

「私ね、強いオスバチが好きなんです」

耳元で熱い吐息と共に、その言葉が漏れる。

「だから……ね?」

細い指で腰のあたりをなぞる。そっか。さっきアーマヤが言ってたな。オスバチは女王蜂と子どもを設けることしかしないって。ということはあんなことやそんなことをするということか?

とうとうこの瞬間が来た!俺は!童貞を!捨てる!卒業できるぞおおおおお!

「女王様。先ほど交尾を済ませたオスバチ、どうしましょう」

別のメスバチが入ってきた。なんだよ、いいタイミングで。

「マニュアル読んでないんですか?生殖器を切り取るんですよ。すぐに死にますから」

は?生殖器?切り取る?すぐに死ぬ?

かしこまりました、とメスバチは出て行く。女王様は何事もなかったかのように俺を見つめた。

「す、すみません!そういうことは出来ないです!あの、でもその代わりスズメバチとか敵が来たら、その分の働きをするんで!許してください!」

俺は女王様を振り払って、頭を下げる。まぁ、いいでしょう。女王様は微笑んで、玉座に戻った。


こうして俺は(おかしな)ミツバチ社会で働くことになった。

俺が童貞を捨てるのはもう少し先の話……いや、来世に期待するしかないようだ。ごめん、母さん。

ご閲覧ありがとうございます。本日はちょっと趣きを変えました。ビックリしたかな。

さて、今回一番楽しかったのは調べ学習です。サンゴの日の時も調べているのが楽しかったのですが、今回も負けず劣らず楽しかったです。ミツバチに興味を持った人は下のサイトへ行ってみてください。


https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ミツバチ

http://www.ooba-beekeeping.co.jp/honey_book/


キャラ名の由来を紹介します。(とは言っても2人しか名前が明らかになってませんが)

アーマヤは(ミツバチ)マアヤの文字を並び替えて、ファマーはハチの研究で有名なファーブルとマアヤの始めの文字をくっつけました。単純ですね。すみません。


最後に、本当にありがとうございました。

また、明日。

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