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1、人助けは報われる

「なんだよみつる、ちょっと一人にしてくれ」

  

 ちょうど橋に差し掛かった所で剣道部員でクラスメートのみつるが息をきらしながら追い付いてきた


「はぁはぁ、少し待てよ」


「待つ義理はないからな」


「全くお前は…今日のこと気にすんなよ」


 みつるは少し微笑むと短い沈黙の時が流れた、顔を真顔に戻し俺と向き合い、気にするな、そう一言発した


「はは、無理だよ」


「無理じゃねぇよ、今日のは俺も腹が立ったぜ、俺は知ってるぜお前が影で人の何倍なん十倍努力していること」


「………あり」


「おっと礼はしばし待たれよ、ほら」


 みつるは後ろを振り返り、大荷物を持った男子の集団を指差した

 

「おーい」「サツシまてよー」「みつる!サツシ!ヤッホー」


 ぞろぞろと俺と同じ二年の剣道部員が5、6人やって来た、その誰もが俺に励ましの声をかけてくれた、どの言葉も温かく胸が優しさに溢れた


「お前ら… 」


「うわー泣いてるー」「サツシ君が泣きましたね」


「泣いてねぇーよ」


「じゃあそれはなんだい?」


「眼にごみが入ったんだ」


「うっわベタだな」「べたべたですね」


 そんなどこにでもあるような青春のひとときを過ごしていた、だが急に雲行きがおかしくなり出した


「おい、降りそうだぞいそぐか」


「そうだな」「賛成」「右に同意」「左に同意」


「いいからいくぞ!」


 急いで橋を渡ろうとしたその時俺の耳に今にも雨の音に消されてしまいそうなほど小さく弱々しい声が聞こえた


〈助け…て…〉


「えっ?今なんか言ったか?」


「ん?なんもいってないぞ」

「聞き間違いじゃないのか?」


〈助けて!〉


 今度はハッキリと耳に聞こえた、その誰にも届きそうにないSOSは俺の耳に届いた


「いや確かに聞こえた『助けて』って」


「助けて?」「なんか言ったか?」「いいや」


「ねぇあれ見て!」


 男子の一人が雨で増量していた川を指差した、指差した方向を見ると川の中に何かが見える、何かが沈んだり浮かんだりバタバタしている

 それが人間だと気づくのに少しの時間がかかった


「まさか人か!」「おいおいどうする!?」

「とりあえず警察!いや救急車!?」


 周りがパニックになって騒いでいると周りの人たちも気づき出した

 救急車を呼んだりはするが誰も川に助けには入らない、それもそのはず川の流れはとても荒く人が泳げるような環境ではなかった、入ったとしても溺れている人にたどり着く前に流されるのが関の山だ

 

 どうする、どうする、どうする、川に入るかいや俺はバカか入ってどうするこの流れの中たどり着けるわけがない、そうだロープを使おう、いやそんな物どこにあるんだよ、探している間に流されちまう

くそ!どうすればいいんだ誰か


〈誰か…たすけ…〉


 誰かじゃない!俺が行くんだ!俺にはあの子の声が聞こえた、俺にしか出来ない!


 俺は迷わず洪水のなか橋の上から飛び込んだ

 

「なっ!?サツシ!?おまえ……」

 

 後ろで驚いたみつるが何かを言っていたが、聞くより先に川の濁った水に飛び込んだ


バシャーーーン

 

 うっ!くそ!イテー!増水のお陰で高さがなくてよかった、いやそれよりあの子は


〈うぅ、……〉


 微かに聞こえる声の方に全力で泳いだ、流れのせいでどんどん体力を奪われる、何度も息継ぎをしながら不恰好ながらも進んだ


〈もぅ…だめ…〉


「だめじゃ…うぷっ、ねぇーつかまあれ」


 今にも沈みそうな所をギリギリで抱き抱えた、首元に腕を回し頭を胸に寄せてやる、俺の胸を浮き袋に溺れてた子に息を吸わしてやる  


「ゆっくり、、吸え」


「ふ、ふっ、はっ、はぁはぁ」


「そうだ大丈夫だ」


 ゆっくり川の端の方へ流れていく、川は中心の流れは強く端は少しだけ緩やかになる、それを利用してゆっくりゆっくり川から上がれるとこまでいく

 川の途中の梯子的な場所でみつるが手を降っていた


「おーいサツシ!」


 俺は梯子に掴まった


「全く無茶しやがって、ひやひやしたぞ!」


「ごめんごめん、あっ、この子を」


「ホントにわかってんのか……」


グチグチいいながらも助けた子の手を優しく握って引き上げてやる、みつるはホントにいいやつだな


「よし、次はお前だほら、」


 みつるが手を伸ばす、俺がその手に掴まろうとしたその時


「「えっ?」」


 掴もうとしたみつるの手が空振り、俺はすごいいきよいで川へ引き戻された


ザパーーン


 再び水のなかに入る、だがさっきと違いいきなりのことで息を吸えずに落ちてしまい水を飲んでしまった

 肺に水が流れ込む、何がおきたと足元を見ると大きな木に右足を挟まれていた、木とともに川を流れる、だんだん意識が薄れていった

 今までのことが走馬灯のように流れる、あーあ俺の人生ここまでかこんなことならコーチをもっとぶん殴っておくべきだったな  

 おれはその日17年という短い生涯を終えた



 


 

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