第7話 黒課金!ソーシャルゲームは悪魔のゲーム?!
双子の小学生、檜山姉妹は超能力少女である!
2人を付け狙う黒科学団は、国家転覆を企む悪の秘密結社である!
檜山姉妹は日本の平和の為、今日も「黒科学団」と戦うのだ!
* * * *
放課後。
かもめ第三小学校の校門前には、いつものように友達と下校する檜山姉妹の姿があった。
「ふわあ、今日も良く寝たわ」
「私もー」
檜山姉妹の姉・百合とその友達が、大きな欠伸をしながら会話している。
(おいおい……)
普段から真面目に授業を受けている妹の咲は、心の中で姉にツッコミを入れていた。
「深夜アニメを見てると、学校で眠くなるから大変なのよねぇ」
「わかるー」
(どんな小学生だ……)
†
「あら?」
ふと百合が顔を上げると、
前を歩く同級生が熱心にスマホを操作していることに気が付いた。
「なにしてんの? あんたたち」
「何って……ブラマスだよ」
「ブラマス?」
「ソーシャルゲームだよ。 今、流行ってるんだから!」
「そういえば……。 みんなやってるわね」
百合が辺りを見回したところ、同級生の殆どが同じゲームで遊んでいるようだった。
「学校にスマホ持ってきちゃダメなんじゃないの……?」
咲は同級生の校則違反を咎めようとしたが、
「えー? カタいなあ、咲ちゃんは」
「バレなきゃいーんだよ!」
彼女らはそんなことお構いなしの様子だった。
それどころか、
「てゆーか、檜山さんたちまだスマホ持ってないの?」
「ブラマスやったことないとか情弱ぅ~」
「!」
スマホを持っていないことで、逆に仲間外れにされてしまった。
それを聞いて、いっぱしのゲーマーを自負する百合は、ムキになって反論する。
「な、なによ!
ソシャゲなんて、ゲームじゃないわよ! あんなモン!!」
「あははは、貧乏人の僻みだ~」
複数の同級生に笑われ、ますます苛立つ百合。
「フン! ……くだらない!」
咲の手を取り、捨て台詞を吐いて、その場を後にした。
* * * *
「ただいま~」
しばらくして、自宅に到着する檜山姉妹。
「おかえり。 百合、咲」
夕飯の支度をしていた母が声だけで出迎える。
「ねーーー、スマホ買って買って買って~~~~~~~~!!!」
「?!!」
すぐさま台所に立つ母親の腕にすがりつく百合。
「何言ってるの? いきなり……」
「ちゃんと勉強するから~~~」
突然の要求に驚く母親。
「…………」
甘えくさる姉の姿を見た咲は、無言のまま呆れ顔で突っ立っている。
「小学生のうちからそんなもの、必要ないでしょ!」
「要るよ~。 咲が迷子になっても連絡とれるじゃん」
「私?!」
思わず声を上げる咲。
(別に私らはテレパシーがあるんだから、迷子になることなんてないだろ……)
親にも聞こえないように、小声で呟く。
明らかに、咲をダシにスマホを買ってもらおうという百合の魂胆だった。
「毎日、咲の世話もするからさ~~~!」
(あたしゃペットか?!)
「う~ん、仕方ないわねえ……。 ちゃんと面倒みるのよ?」
「母さんまで?!」
自分の扱いの酷さに、密かにショックを受ける咲だった。
* * * *
そして……。
数日後、まんまと両親を説得し、スマホを手に入れた檜山姉妹。
「イッヒヒヒ……これであのバカどもに私の偉大さを思い知らせてやるわ……!」
不気味な笑いを浮かべる百合。
その横にいる咲の手にもスマホが握られていた。
「私は別に要らなかったんだけどねえ……」
と、そこへ先日の同級生がやってくる。
「あっ、こんにちは。 ビンボー姉妹!」
「今日はメンコ遊びでもするの?」
「キャハハハハ!」
今日もスマホを片手に檜山姉妹をおちょくろうとしたのだが……。
「あら? なにか言ったかしら?」
「?! ああっ、あれは最新型のスマホだ!」
百合にスマホを見せつけられ、驚く同級生たち。
「さらに……」
百合はスマホを操作して、みんなが遊んでいたゲームを起動する。
「げえっ! あれはブラマスの限定SSR!」
百合が見せたのは、無課金で遊ぶ同級生たちにはまず手に入らない、
超レアキャラクターのデータだった。
しかもそのダブりが8枚。
実は、百合はスマホを手に入れてからすぐ、密かにお小遣いで課金していたのだ。
「どこでそれを?!」
「私にも分けてください、百合さま!!」
レアキャラのトレードをせがんで、一転して百合の前にひざまづく同級生たち。
「フフフ、じゃあ私の靴を舐めなさい」
(恐るべし……子供の社会)
そのやりとりを傍から見ていた咲は、同級生の変わり身の早さに閉口する。
言われた通り、ベロベロと靴をなめる同級生。
優越感にひたる百合と、あきれる咲……。
そのはるか遠くには、人知れず子供たちの様子を眺める者もいた。
「キッヒッヒ……。 我々のゲームも、順調に浸透しているようだな……」
* * * *
──数週間後。
既に百合は、ソシャゲの力で同級生のほとんどを舎弟としていた。
しかし、そんな百合の天下も長くは続かなかった。
「く、くそう! また新しいレアが追加されている!」
「しかも、今までよりずっと強いぞ……。 すぐに課金しないと……!」
「今度こそ10連ガチャで当ててやるわよ!」
「──って、またカスレアかい!」
「く、くそっ……!」
「もはや来月だけでなく、再来月のお小遣いも前借りするしか……!」
(……あーあ、完全にハマってるよ)
完全に目がイっている姉を、いつものように引きながら眺める咲。
それに気づいた百合は、鬼の形相で妹に食ってかかった。
「──っていうか、咲!!
アンタの小遣い貸しなさいよ!!!」
「?! やだよ! 絶対返ってこないじゃん!!」
当然、咲は拒否するが、その程度で引き下がる百合でもない。
「いいから貸せぇ!」
「貸さないと、お前の好きな人をテレパシーで読み取ってみんなに言いふらすぞ!」
「うわぁ、ズルい!! やめてよぉ!」
2人が取っ組み合いの争いをしていると、
後ろから既に百合の舎弟と化した同級生たちが、息を切らして走ってきた。
「百合ちゃん、大変!」
「ブラマスのニュース見た?!」
「え?」
何のことか分からない百合は聞き返す。
「実は、ネットでブラマスのプログラムが解析されたんだけど……」
「新しいSSRはガチャの宣伝だけして、100%出ないように設定されてたんだって!!」
「なっ……なにい?!!」
ガーン!! それを聞いて、大きな衝撃を受ける百合。
「ネットで炎上してるわよ、広報部長のツイッターとか……」
「お、おのれクソ企業めが……! 本社に乗り込んで爆破してやる!」
先ほどまでガチャで爆死していたのが、企業の陰謀によるものだと知り、激高する百合。
「……そういえば、このゲームどこの会社が作ってるんだ?」
ふと気になって、広報部長のツイッターを確認する。
「──って、あっ!」
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@BlackScience
名前:ブラマス広報部長@黒科学団
所在地:東京都中野区某所ブラックサイエンスコーポレーション
自己紹介:秘密結社『黒科学団』の運営するゲーム「ブラックマスター」の宣伝用アカウントです。
ユーザーから搾取した金で国家転覆を企んでいます!
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「少しは隠せよ!!!」
横から見ていた咲は、思わず突っ込んだ。
* * * *
──ブラックサイエンスコーポレーションが本社を置くテナントビル。
その一室に、札束に埋もれ、金を数えている男がいた。
「くくく、ゲームにハマる馬鹿共のおかげで、組織の運営資金が貯まる一方だぜ」
と、そこへ。
「くぉら、クソ科学ども!!!」
バァン!!! ──と、勢いよく扉が蹴破られた。
「てめーら、いたいけな小学生のこづかいを……」
「一体なんだと思ってやがる!!!」
血の涙を流しながら入ってくる百合。
その後ろには、あまり乗り気ではなさそうな咲の姿もあった。
「な、なんだ? 廃課金のバカが乗り込んできたのか? 警備の連中は何をして……」
突然の来訪者に驚く組織の男。
「そんなもん倒したに決まってんだろッ!
この会社が黒科学のもんだってのはわかってんだよ!」
百合が凄む。
そこまで言われて、男も目の前の子供の正体に気が付いたらしい。
「! そういうことか……。 まさか、この作戦でゼノが釣れるとはな」
言うや否や、男はカッと目を見開き、全身に力を込めた。
「むううううううん」
みるみるうちに、男の身体が膨れ上がっていく。
「!!」
「どこかの誰かにハッキングなどされなければ、もっと完璧な作戦になったものを……」
「だがもう充分に稼いだ! 仕方がない、この作戦はキサマらを殺して完了ということにしよう!」
黒科学団の男は、ソシャゲ超人『モバフィリア』へと変態を遂げた。
「咲っ、やるわよ!」
いつになくやる気をみせる百合。
「OK、黒科学が相手なら私も手を貸すよ!」
先ほどまで積極的ではなかった咲も、相手が黒科学の超人であることを確認すると、
悪に対する正義感から闘志を燃やした。
†
先手を取ったのは超人の方だった。
「ソシャゲアタァァァァック!!!」
両腕に取り付けられた機械から、ナイフのように切れ味の鋭いキャラクターカードを噴出する。
檜山姉妹は、その攻撃を見切り、間一髪でかわした。
「ちっ、外したか!」
「へへっ、これまで何度も戦ってきたんだ! その程度の攻撃、あたるもんか!」
そう言って咲はドヤ顔をするが、ふと横を見ると──
そこには、地面に突き刺さったカードを拾い集める百合の姿があった。
「──って、なに集めてんだ!!」
「う、レアカードを見るとつい……」
さらに、集めたカードを確認した百合は呟く。
「あっ、セコい! よく見たら、これ全部カスレアじゃない!!」
「だからもう拾うのやめろって!」
こんな時に何をしているんだ! と、咲が怒る。
その隙をついて、モバフィリアは咲にさらなる攻撃を仕掛けた。
「よそ見なんてしてんじゃねえ!」
「!」
敵に背後を取られた咲。 危ういかと思われたが──
「サイコカッター!!」
即座に地面を蹴り上げ、超能力を用いて得意の真空波を巻き起こす。
「ぐあっ!?」
攻撃によって、超人の右腕が切り落とされた。
それを見た百合は、調子よく妹を褒める。
「よくやったわ、咲! さすが、私の下僕ね!」
「はあ?! いつから?!」
ツッコミもほどほどに、咲は超人に念動力で圧縮した空気をぶつけ、追撃を始めた。
「サイコボール! サイコシュート!」
「ぐおっ、ぐおおっ!」
着実にダメージを受ける超人。
だが、その目はまだ死んではいなかった。
†
咲が倒れた超人にマウントを取って、言う。
「さあ、観念しろ黒科学……! 降伏すれば、命までは取らない!」
「フッ…… フフフ」
しかし、超人は不敵に笑う。
「これで勝ったつもりか?」
「なに?」
「これが何かわかるかッ」
超人が残された左手を使い、懐から何かを取り出す。
咲は咄嗟に身構えた。
「?!」
(まさか、この建物の自爆ボタンとか……?!)
このテナントビルには、黒科学団以外にも多くの企業が入居している。
もし、ビルごと爆破されたら、罪もない大勢の人が犠牲になってしまう……。
最悪の事態を想定をする咲。
「ああっ、あれは!」
その時、百合が声を上げた。
「あれは、幻のレアカード、『業火のフランベルジュ』!!」
超人が掲げたのは、ブラマスのキャラクターカードだった。
「お、おう……」
価値の分からない咲は困惑する。
「くくくっ、ゼノよ! この限定レアカードが欲しくないか!」
「ほ、欲しい!!!」
即答する百合。
「オレの部下になるというのなら、こいつを幾らでもくれてやろう……」
「だが、オレに逆らうのなら、
後ろのコンピューターに保存されている貴様のゲームデータは、
すべて消し去ってやる!!」
「なんですって?!」
「く、くぅ~~~~~~!」
「咲、攻撃しちゃだめよ!」
データを盾にとられ、身動きが取れなくなる百合。
「はあ~~~~~~~? なに言ってんだよ!」
これ以上ないくらい呆れた声を出す咲。
「黒科学退治が最優先でしょ!」
「いや、でも……」
「廃課金やめるいい機会じゃない!」
「しらないしらない!!」
咲の正論に、思わず耳を塞ぐ百合。
予想以上に双子が揉め始めたのを見て、逆に戸惑う超人であったが、
「しめた、くらえサイキ!」
この機を逃すまいと、渾身の一撃を繰り出した。
「サイコブレード!!」
だが、先ほどと同じように、冷静な咲の蹴り上げ真空波によって対処されてしまう。
左手も切り落とされ、両腕を失った超人。
「ああっ、咲! なんてことするのよ、このポンコツ!」
先ほどとは打って変わって、超人に攻撃する妹をなじる百合。
「うるさい!!」
「……もー、全部やっちゃうからね!」
怒った咲は、後ろのコンピューターをぶち壊そうと、真空斬りの構えを取る。
「「えっ、ちょ……」」
百合と超人は慌てて咲を止めようとするが、
ビュン と咲が腕を一振りした瞬間、
ズガガガガガガガ!!
大きな音を立ててサーバーコンピューターは崩れ落ちた。
「あああああああああ~~~~~~~っ!!!」
「ひどい、ひどすぎる! ひとでなし~~~~!!」
咲の腕にすがりついて、力なく抗議する百合。
「うっさいな、もう!」
これ以上相手にしていられない、という表情で咲が言う。
「もう全部壊したからね! いくらゴネたって返ってこないよ!」
「……………………」
百合はデータを失くしたショックから、その場にへたり込んでしまう。
超人も同じく放心状態となり、両者の間に沈黙が流れた。
──しばらくして、百合は立ち上がり、小さく呟く。
「わかったわよ、咲……」
「!」
「ありがとう…………眼が覚めたわ」
目を血走らせ、憎悪に満ちた表情で感謝の言葉を述べた。
「めっちゃ怒ってる!!!」
†
「もとはと言えば、黒科学がソシャゲなんて作るから……」
「そうそう」
百合は、逆恨み気味の怒りをサイコパワーに変え、敵に思いっきり投げつけた。
「フルパワー……」
「サイコキネシス!!!!」
超人は、「課金したのは自己責任……」などと言いかけていたが、
最後まで喋る暇もなく百合の攻撃にさらされた。
「ギョエアアアアアアアアア!!!」
サイコ粒子を浴びた超人は哀れ、塵となって消えた。
†
──ひと息ついて。
「……ごめん、姉さん」
咲が、ブラマスのゲームデータを壊したことを謝る。
姉に恨まれることを覚悟していた咲だったが、
「いいのよ」
百合にしては珍しく、物わかりの良いセリフが返ってきた。
「今回のことは勉強になったわ……」
百合はため息まじりに言う。
「つぎ込んだ小遣いは、授業料だったと思うことにするわ」
「姉さん……」
いつもとは違う表情の姉を見て、どこか感心する咲。
「さ、帰るわよ」
またひとつ黒科学の作戦を打ち砕き、檜山姉妹は家路についた。
* * * *
後日……。
放課後、近所の公園で遊んでいる檜山姉妹と同級生たち。
「もうソシャゲブームも終わっちゃったね」
すっかりソーシャルゲームにも飽きてしまい、楽しそうにメンコ遊びをする同級生。
それを横目に、檜山姉妹が会話していた。
「ウワサによると、あのゲームそのものにも一種の催眠効果があったらしいわよ」
「へえ、それもやつらの作戦の一つだったわけだ」
「じゃあ、姉さんがハマったのも仕方ないのかも……」
そこまで言って、咲は、先ほどから姉がスマホばかりいじっていることに気付く。
「ところで、それ何してんの?」
「……別のソーシャルゲーム」
「だめじゃん!!」
「もうやらないんじゃないのかよ?!」
信じられないという顔で姉を見る咲。
「良いじゃない! 課金して弱者をいたぶるのが楽しいのよ?!」
「まずそのねじれた性格をなんとかしろ!!!!」
咲の声が、青空に虚しくこだました。
……つづく。
* * * *
【次回予告】
度重なる百合の高慢な態度に、ついに本気で腹を立てた咲。
咲の言葉がキッカケとなり、双子は生まれて初めて大喧嘩をしてしまう。
そんな中、黒科学団の新たな刺客、ネクロマンサーのサラが襲ってきて……?!
次回、ゼノツインズ 第8話
「黒離間! 軋轢生じた姉妹の絆」
ご期待ください。
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