表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼノツインズ -Xeno twins-  作者: 五味
2/2

第7話 黒課金!ソーシャルゲームは悪魔のゲーム?!


 双子の小学生、檜山(ひやま)姉妹は超能力少女(サイコ・ガール)である!


 2人を付け狙う黒科学団は、国家転覆を企む悪の秘密結社である!


 檜山姉妹は日本の平和の為、今日も「黒科学団」と戦うのだ!



 * * * *


 放課後。


 かもめ第三小学校の校門前には、いつものように友達と下校する檜山姉妹の姿があった。


「ふわあ、今日も良く寝たわ」

「私もー」


 檜山姉妹の姉・百合とその友達が、大きな欠伸をしながら会話している。


(おいおい……)


 普段から真面目に授業を受けている妹の咲は、心の中で姉にツッコミを入れていた。


「深夜アニメを見てると、学校で眠くなるから大変なのよねぇ」

「わかるー」


(どんな小学生だ……)



「あら?」


 ふと百合が顔を上げると、

 前を歩く同級生が熱心にスマホを操作していることに気が付いた。


「なにしてんの? あんたたち」

「何って……ブラマスだよ」


「ブラマス?」

「ソーシャルゲームだよ。 今、流行ってるんだから!」


「そういえば……。 みんなやってるわね」


 百合が辺りを見回したところ、同級生の殆どが同じゲームで遊んでいるようだった。


「学校にスマホ持ってきちゃダメなんじゃないの……?」


 咲は同級生の校則違反を咎めようとしたが、


「えー? カタいなあ、咲ちゃんは」

「バレなきゃいーんだよ!」


 彼女らはそんなことお構いなしの様子だった。

 それどころか、


「てゆーか、檜山さんたちまだスマホ持ってないの?」

「ブラマスやったことないとか情弱ぅ~」


「!」


 スマホを持っていないことで、逆に仲間外れにされてしまった。

 それを聞いて、いっぱしのゲーマーを自負する百合は、ムキになって反論する。


「な、なによ!

 ソシャゲなんて、ゲームじゃないわよ! あんなモン!!」


「あははは、貧乏人の僻みだ~」


 複数の同級生に笑われ、ますます苛立つ百合。


「フン! ……くだらない!」


 咲の手を取り、捨て台詞を吐いて、その場を後にした。



 * * * *


「ただいま~」


 しばらくして、自宅に到着する檜山姉妹。


「おかえり。 百合、咲」


 夕飯の支度をしていた母が声だけで出迎える。



「ねーーー、スマホ買って買って買って~~~~~~~~!!!」


「?!!」


 すぐさま台所に立つ母親の腕にすがりつく百合。


「何言ってるの? いきなり……」

「ちゃんと勉強するから~~~」


 突然の要求に驚く母親。


「…………」


 甘えくさる姉の姿を見た咲は、無言のまま呆れ顔で突っ立っている。


「小学生のうちからそんなもの、必要ないでしょ!」

「要るよ~。 咲が迷子になっても連絡とれるじゃん」

「私?!」


 思わず声を上げる咲。


(別に私らはテレパシーがあるんだから、迷子になることなんてないだろ……)


 親にも聞こえないように、小声で呟く。

 明らかに、咲をダシにスマホを買ってもらおうという百合の魂胆だった。


「毎日、咲の世話もするからさ~~~!」

(あたしゃペットか?!)


「う~ん、仕方ないわねえ……。 ちゃんと面倒みるのよ?」

「母さんまで?!」


 自分の扱いの酷さに、密かにショックを受ける咲だった。



 * * * *


 そして……。


 数日後、まんまと両親を説得し、スマホを手に入れた檜山姉妹。


「イッヒヒヒ……これであのバカどもに私の偉大さを思い知らせてやるわ……!」


 不気味な笑いを浮かべる百合。

 その横にいる咲の手にもスマホが握られていた。


「私は別に要らなかったんだけどねえ……」


 と、そこへ先日の同級生がやってくる。


「あっ、こんにちは。 ビンボー姉妹!」

「今日はメンコ遊びでもするの?」

「キャハハハハ!」


 今日もスマホを片手に檜山姉妹をおちょくろうとしたのだが……。


「あら? なにか言ったかしら?」

「?! ああっ、あれは最新型のスマホだ!」


 百合にスマホを見せつけられ、驚く同級生たち。


「さらに……」


 百合はスマホを操作して、みんなが遊んでいたゲームを起動する。


「げえっ! あれはブラマスの限定SSR!」


 百合が見せたのは、無課金で遊ぶ同級生たちにはまず手に入らない、

 超レアキャラクターのデータだった。

 しかもそのダブりが8枚。


 実は、百合はスマホを手に入れてからすぐ、密かにお小遣いで課金していたのだ。


「どこでそれを?!」

「私にも分けてください、百合さま!!」


 レアキャラのトレードをせがんで、一転して百合の前にひざまづく同級生たち。


「フフフ、じゃあ私の靴を舐めなさい」


(恐るべし……子供の社会)


 そのやりとりを傍から見ていた咲は、同級生の変わり身の早さに閉口する。


 言われた通り、ベロベロと靴をなめる同級生。

 優越感にひたる百合と、あきれる咲……。



 そのはるか遠くには、人知れず子供たちの様子を眺める者もいた。


「キッヒッヒ……。 我々のゲームも、順調に浸透しているようだな……」



 * * * *


 ──数週間後。

 既に百合は、ソシャゲの力で同級生のほとんどを舎弟としていた。


 しかし、そんな百合の天下も長くは続かなかった。


「く、くそう! また新しいレアが追加されている!」


「しかも、今までよりずっと強いぞ……。 すぐに課金しないと……!」


「今度こそ10連ガチャで当ててやるわよ!」

「──って、またカスレアかい!」


「く、くそっ……!」

「もはや来月だけでなく、再来月のお小遣いも前借りするしか……!」


(……あーあ、完全にハマってるよ)


 完全に目がイっている姉を、いつものように引きながら眺める咲。

 それに気づいた百合は、鬼の形相で妹に食ってかかった。


「──っていうか、咲!!

 アンタの小遣い貸しなさいよ!!!」


「?! やだよ! 絶対返ってこないじゃん!!」


 当然、咲は拒否するが、その程度で引き下がる百合でもない。


「いいから貸せぇ!」

「貸さないと、お前の好きな人をテレパシーで読み取ってみんなに言いふらすぞ!」

「うわぁ、ズルい!! やめてよぉ!」


 2人が取っ組み合いの争いをしていると、

 後ろから既に百合の舎弟と化した同級生たちが、息を切らして走ってきた。


「百合ちゃん、大変!」

「ブラマスのニュース見た?!」


「え?」


 何のことか分からない百合は聞き返す。



「実は、ネットでブラマスのプログラムが解析されたんだけど……」

「新しいSSRはガチャの宣伝だけして、100%出ないように設定されてたんだって!!」

「なっ……なにい?!!」


 ガーン!! それを聞いて、大きな衝撃を受ける百合。


「ネットで炎上してるわよ、広報部長のツイッターとか……」


「お、おのれクソ企業めが……! 本社に乗り込んで爆破してやる!」


 先ほどまでガチャで爆死していたのが、企業の陰謀によるものだと知り、激高する百合。


「……そういえば、このゲームどこの会社が作ってるんだ?」


 ふと気になって、広報部長のツイッターを確認する。


「──って、あっ!」


------- 

@BlackScience

名前:ブラマス広報部長@黒科学団

所在地:東京都中野区某所ブラックサイエンスコーポレーション

自己紹介:秘密結社『黒科学団』の運営するゲーム「ブラックマスター」の宣伝用アカウントです。

     ユーザーから搾取した金で国家転覆を企んでいます!

------- 


「少しは隠せよ!!!」


 横から見ていた咲は、思わず突っ込んだ。




 * * * *



 ──ブラックサイエンスコーポレーションが本社を置くテナントビル。


 その一室に、札束に埋もれ、金を数えている男がいた。


「くくく、ゲームにハマる馬鹿共のおかげで、組織の運営資金が貯まる一方だぜ」


 と、そこへ。


「くぉら、クソ科学ども!!!」


 バァン!!! ──と、勢いよく扉が蹴破られた。


「てめーら、いたいけな小学生のこづかいを……」


「一体なんだと思ってやがる!!!」


 血の涙を流しながら入ってくる百合。

 その後ろには、あまり乗り気ではなさそうな咲の姿もあった。


「な、なんだ? 廃課金のバカが乗り込んできたのか? 警備の連中は何をして……」


 突然の来訪者に驚く組織の男。


「そんなもん倒したに決まってんだろッ!

 この会社が黒科学のもんだってのはわかってんだよ!」


 百合が凄む。

 そこまで言われて、男も目の前の子供の正体に気が付いたらしい。


「! そういうことか……。 まさか、この作戦でゼノが釣れるとはな」


 言うや否や、男はカッと目を見開き、全身に力を込めた。


「むううううううん」


 みるみるうちに、男の身体が膨れ上がっていく。


「!!」


「どこかの誰かにハッキングなどされなければ、もっと完璧な作戦になったものを……」

「だがもう充分に稼いだ! 仕方がない、この作戦はキサマらを殺して完了ということにしよう!」


 黒科学団の男は、ソシャゲ超人『モバフィリア』へと変態を遂げた。


「咲っ、やるわよ!」


 いつになくやる気をみせる百合。


「OK、黒科学が相手なら私も手を貸すよ!」


 先ほどまで積極的ではなかった咲も、相手が黒科学の超人であることを確認すると、

 悪に対する正義感から闘志を燃やした。


 †


 先手を取ったのは超人の方だった。


「ソシャゲアタァァァァック!!!」


 両腕に取り付けられた機械から、ナイフのように切れ味の鋭いキャラクターカードを噴出する。

 檜山姉妹は、その攻撃を見切り、間一髪でかわした。


「ちっ、外したか!」


「へへっ、これまで何度も戦ってきたんだ! その程度の攻撃、あたるもんか!」


 そう言って咲はドヤ顔をするが、ふと横を見ると──

 そこには、地面に突き刺さったカードを拾い集める百合の姿があった。


「──って、なに集めてんだ!!」

「う、レアカードを見るとつい……」


 さらに、集めたカードを確認した百合は呟く。


「あっ、セコい! よく見たら、これ全部カスレアじゃない!!」

「だからもう拾うのやめろって!」


 こんな時に何をしているんだ! と、咲が怒る。


 その隙をついて、モバフィリアは咲にさらなる攻撃を仕掛けた。


「よそ見なんてしてんじゃねえ!」

「!」


 敵に背後を取られた咲。 危ういかと思われたが──


「サイコカッター!!」


 即座に地面を蹴り上げ、超能力を用いて得意の真空波を巻き起こす。


「ぐあっ!?」


 攻撃によって、超人の右腕が切り落とされた。

 それを見た百合は、調子よく妹を褒める。


「よくやったわ、咲! さすが、私の下僕ね!」

「はあ?! いつから?!」


 ツッコミもほどほどに、咲は超人に念動力で圧縮した空気をぶつけ、追撃を始めた。


「サイコボール! サイコシュート!」

「ぐおっ、ぐおおっ!」


 着実にダメージを受ける超人。

 だが、その目はまだ死んではいなかった。


 †


 咲が倒れた超人にマウントを取って、言う。


「さあ、観念しろ黒科学……! 降伏すれば、命までは取らない!」


「フッ…… フフフ」


 しかし、超人は不敵に笑う。


「これで勝ったつもりか?」

「なに?」


「これが何かわかるかッ」


 超人が残された左手を使い、懐から何かを取り出す。

 咲は咄嗟に身構えた。


「?!」

(まさか、この建物の自爆ボタンとか……?!)


 このテナントビルには、黒科学団以外にも多くの企業が入居している。

 もし、ビルごと爆破されたら、罪もない大勢の人が犠牲になってしまう……。

 最悪の事態を想定をする咲。


「ああっ、あれは!」


 その時、百合が声を上げた。


「あれは、幻のレアカード、『業火のフランベルジュ』!!」


 超人が掲げたのは、ブラマスのキャラクターカードだった。


「お、おう……」


 価値の分からない咲は困惑する。


「くくくっ、ゼノよ! この限定レアカードが欲しくないか!」

「ほ、欲しい!!!」


 即答する百合。


「オレの部下になるというのなら、こいつを幾らでもくれてやろう……」

「だが、オレに逆らうのなら、

 後ろのコンピューターに保存されている貴様のゲームデータは、

 すべて消し去ってやる!!」

「なんですって?!」


「く、くぅ~~~~~~!」

「咲、攻撃しちゃだめよ!」


 データを盾にとられ、身動きが取れなくなる百合。


「はあ~~~~~~~? なに言ってんだよ!」


 これ以上ないくらい呆れた声を出す咲。


「黒科学退治が最優先でしょ!」

「いや、でも……」


「廃課金やめるいい機会じゃない!」

「しらないしらない!!」


 咲の正論に、思わず耳を塞ぐ百合。

 予想以上に双子が揉め始めたのを見て、逆に戸惑う超人であったが、


「しめた、くらえサイキ!」


 この機を逃すまいと、渾身の一撃を繰り出した。


「サイコブレード!!」


 だが、先ほどと同じように、冷静な咲の蹴り上げ真空波によって対処されてしまう。

 左手も切り落とされ、両腕を失った超人。


「ああっ、咲! なんてことするのよ、このポンコツ!」


 先ほどとは打って変わって、超人に攻撃する妹をなじる百合。


「うるさい!!」


「……もー、全部やっちゃうからね!」


 怒った咲は、後ろのコンピューターをぶち壊そうと、真空斬りの構えを取る。


「「えっ、ちょ……」」


 百合と超人は慌てて咲を止めようとするが、

 ビュン と咲が腕を一振りした瞬間、


 ズガガガガガガガ!!


 大きな音を立ててサーバーコンピューターは崩れ落ちた。


「あああああああああ~~~~~~~っ!!!」



「ひどい、ひどすぎる! ひとでなし~~~~!!」


 咲の腕にすがりついて、力なく抗議する百合。


「うっさいな、もう!」


 これ以上相手にしていられない、という表情で咲が言う。


「もう全部壊したからね! いくらゴネたって返ってこないよ!」

「……………………」


 百合はデータを失くしたショックから、その場にへたり込んでしまう。

 超人も同じく放心状態となり、両者の間に沈黙が流れた。


 ──しばらくして、百合は立ち上がり、小さく呟く。


「わかったわよ、咲……」


「!」


「ありがとう…………眼が覚めたわ」


 目を血走らせ、憎悪に満ちた表情で感謝の言葉を述べた。


「めっちゃ怒ってる!!!」


 †


「もとはと言えば、黒科学(こいつら)がソシャゲなんて作るから……」

「そうそう」


 百合は、逆恨み気味の怒りをサイコパワーに変え、敵に思いっきり投げつけた。


「フルパワー……」


「サイコキネシス!!!!」


 超人は、「課金したのは自己責任……」などと言いかけていたが、

 最後まで喋る暇もなく百合の攻撃にさらされた。


「ギョエアアアアアアアアア!!!」


 サイコ粒子を浴びた超人は哀れ、塵となって消えた。




 ──ひと息ついて。


「……ごめん、姉さん」


 咲が、ブラマスのゲームデータを壊したことを謝る。

 姉に恨まれることを覚悟していた咲だったが、


「いいのよ」


 百合にしては珍しく、物わかりの良いセリフが返ってきた。


「今回のことは勉強になったわ……」


 百合はため息まじりに言う。


「つぎ込んだ小遣いは、授業料だったと思うことにするわ」

「姉さん……」


 いつもとは違う表情の姉を見て、どこか感心する咲。


「さ、帰るわよ」


 またひとつ黒科学の作戦を打ち砕き、檜山姉妹は家路についた。



* * * *


 後日……。


 放課後、近所の公園で遊んでいる檜山姉妹と同級生たち。


「もうソシャゲブームも終わっちゃったね」


 すっかりソーシャルゲームにも飽きてしまい、楽しそうにメンコ遊びをする同級生。

 それを横目に、檜山姉妹が会話していた。


「ウワサによると、あのゲームそのものにも一種の催眠効果があったらしいわよ」

「へえ、それもやつらの作戦の一つだったわけだ」


「じゃあ、姉さんがハマったのも仕方ないのかも……」


 そこまで言って、咲は、先ほどから姉がスマホばかりいじっていることに気付く。


「ところで、それ何してんの?」

「……別のソーシャルゲーム」

「だめじゃん!!」


「もうやらないんじゃないのかよ?!」


 信じられないという顔で姉を見る咲。


「良いじゃない! 課金して弱者をいたぶるのが楽しいのよ?!」


「まずそのねじれた性格をなんとかしろ!!!!」


 咲の声が、青空に虚しくこだました。



……つづく。




 * * * *



【次回予告】

度重なる百合の高慢な態度に、ついに本気で腹を立てた咲。

咲の言葉がキッカケとなり、双子は生まれて初めて大喧嘩をしてしまう。

そんな中、黒科学団の新たな刺客、ネクロマンサーのサラが襲ってきて……?!


次回、ゼノツインズ 第8話

「黒離間! 軋轢生じた姉妹の絆」

ご期待ください。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ