第一項 その二つに束ねし両の髪、海馬の深遠に眠る君。
まえがき
藪から棒だが、みなさんはツインテールに対してどのような印象をお持ちだろうか?
魅力的なヒロイン? それともヒロインを追いかけるライバル? 脇役の中で存在感を放つ隠れたヒロイン? 恐らくどれも当てはまらないのではあるまいか。そう思ってしまう筆者が、そのツインテールに対してひとつの疑問を抱いたのである。その疑問とは? そしてその答えとは?
これは筆者がツインテールという存在を理解できないままに、その正体を探るべく苦悩し、自らの精神を極限まで追い込んだ果てに記した、探求の記録である。
ツインテール。それは女性、もしくは女性キャラが両側の側頭部で髪を束ねたヘアスタイルの俗称である。言うまでもなくマンガ、ゲーム、アニメ等々では大抵一人はこの髪型の女性キャラが登場するのがお約束になっている。にもかかわらず、現実では滅多に、いや、まったくと言っていいほどお目にかかることがない。もはやツインテールなど現実には存在し得ない、サブカル世界のみの空想の産物に過ぎないといった感がある。なぜか?
簡単である。そもそも現実ではほとんどありえない髪型でも、マンガ、ゲーム、アニメ等の創作の世界なら、ツインテールという髪型それだけでキャラの方向性をユーザーに伝える事が可能な、便利な記号だからである。別にこれはツインテールに限った話ではない。男性キャラでもとんがった髪は主人公、長髪ならクールな脇役、モヒカンなら瞬殺されるザコといった按配だ。取り立てて騒ぐほどのことではない。さしずめツインテールなら勝気な敵役、さらに金髪であればお嬢様の属性が付く、といったところか。
そこまで分かってんならいちいち小難しい理屈なんか並べる必要ないだろうがよ、などと野暮かつ的確なツッコミが聞こえてきそうだ。然りである。だが、筆者はあえてそこに、いや、であるからこそ、一歩踏み込んでみたいと考えてしまうのである。果たして本当にそれでいいのであろうか? 現実には存在しえない髪型でも、記号であれば作中に安易に登場させられるものなのであろうか? いやいやいや、筆者は決してそうは思わない。なにしろサブカルとは筆者など及びもつかない、天才、努力家、職人気質、いや、そんなありきたりな言葉では形容しえない化け物級のクリエイターたちが昼夜を問わず、角突き合わせて制作に携わる修羅の世界なのである。そんな世界で、「んじゃ、この女の子はサブキャラで負けず嫌いな性格だから、髪型はツインテールでいっか。作画チームも楽でいいって言ってたし」などという安直極まりない理由でヘアスタイルが決定されているはずがない! 企画会議で揉めたくないから、会議を開くまでもなくとりあえず無難にツインテールにしときました的な素人の投稿作品のノリで商業作品が製作されているわけがない!
そこには筆者など想像もつかない、創り手の熱いこだわり、緻密に組み立てられたロジック、作中では決して語られる事のない、深遠なバックグラウンドが存在するはずなのだ。我々ユーザーはそこにこそ目を向けるべきではないのか? 創り手が作品に込めたメッセージ、いや、それとは別に、作品の中に埋め込まれた暗号を解読し、伝えたいとすら意図しないテーゼを読み取る事こそが、作品を与えられたユーザーがなすべき義務ではないかと思うのである。
もちろん、それを他人にまで強要するつもりは毛頭ない。フツーに楽しんで、フツーにああ、面白かった。で、済ませてもなんら問題はない。楽しみ方は人それぞれ、それでいいと思う。作品を通して創り手の趣味嗜好の解析、プロファイリングまでするのはいわゆるオタクや廃人的楽しみ方であり、オススメできるものでもない。ましてや筆者は決してアオりたいわけでもない。「まさか、何も考えずにこの女の子キャラの髪型をツインテールにしたわけではありませんよね? 当然、深い計算があってのことなんですよね!」などとクリエイターにプレッシャーをかましまくりたいわけではない事を念のために明記しておく。