奇想天外の頂点―泡坂妻夫
アガサ・クリスティの人気根強し……!
今回も「あ」の作家さんです。
タイトル、というか冠。とても迷いました。
泡坂妻夫先生の魅力を伝えるに、「日本のチェスタトン」とか「推理小説界の魔術師」などなど色々候補はあったのですが、どれもしっくりこない……。
アマチュアの奇術師という経歴もあり、どの作品もサービス精神が旺盛で、人を驚かせる『仕掛け』が好きで大好きでたまらない――! 切にそう感じる作品が多い作家さんです。
最初から何やら熱が入っておりますが、というのも、私が好きな探偵ランキング第一位が『亜愛一郎』だからです!
(以下大好きなものを語っているせいか、やたら興奮しており見苦しい表現もあるかと思いますが、お付き合いくださいm(__)m)
『おもしろき こともなき世を おもしろく』
こちらは、幕末の志士・高杉晋作の辞世の句ですが(自分の考え方次第で人生は面白くも詰まらなくもなるという意)、大分意味は変わりますけども、
『面白き 驚きもない真相を 面白く』する――それが推理小説を執筆する醍醐味ではないでしょうか。
推理小説ってやつは、先に真相だけ知ってしまうと(ネタバレというやつですね)、たとえどんな名作でも「くっだらねえ!」と感じてしまいかねない危険なジャンルです。
その、一見「平凡な真相」を装飾する職人――私の中での一番の名人が、泡坂妻夫先生なのです。
泡坂先生はアマチュアの奇術師で、奇術に関した作品も多く書いています。
『11枚のトランプ』は奇術ショーが舞台ですし、曾我佳城シリーズは主人公が女奇術師です。
が、トリックに奇術が用いられているというわけでは必ずしも無く、『11枚~』での犯人を消去していく過程は、至極「論理的」としか言いようがありませんし。
日本推理作家協会賞を受賞した『乱れからくり』は、語ること自体ネタバレになりそうですが、「後々の発表された話題作の原点はこれだ!」と痛感させられる作品です。
さて、〈亜愛一郎シリーズ〉。
「探偵」というものは普通、立派で堂々としているものですが、亜愛一郎といったら、
『亜の声が犯行を自白する犯人のように低かったので――』(本文抜粋)
こんな風におどおどしながら推理を披露するのです。
色白で端正な顔立ち服装も立派ながら、立ち振る舞いは三枚目という何とも憎めない探偵です。
私的ベストは、『DL2号機事件』『掌上の黄金仮面』『砂蛾家の消失』『病人に刃物』。
四作も挙げてしまいましたが、これらは本当に凄いです。
何が凄いといえば、「当たり前と思われていた発想の転換や逆転」でしょう。
『病人に刃物』を例に挙げますと、被害者を刺したナイフが、誰も持ってくることができなかった――という不可能状況で、「じゃあ刃物が元々あった場所はどこだったのか?」(あぁあネタバレしそう)という驚きの真相が明らかになります。
伏線も凄まじい。関係ないと思われる事象の殆どが綺麗に収束されます。
泡坂先生の作品を読むたび、当たり前ですけど、あぁ文章が上手いなぁと感心していまいます。
四十年近く前に(!?)描かれたものとは、到底思えません。現代に通用するセンスに溢れています。
シリーズの派生、愛一郎の祖先を描いた『亜智一郎の恐慌』もおススメです。こちらは時代背景も絡んでいて、シリアス風味ですね。
余談ですが、見方によって真相がガラリと変わってしまう名人といえば、連城三紀彦先生も有名ですね。私が好きなのは、『人間動物園』。誘拐事件を題材にしていますが、とにかくオチが凄い。騙されたい人にはぜひおススメの一作です。
大好きな作家さんほど上手く語れないものですね。長文失礼いたしました。
(2016.7.17)
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いただいたコメントでも、『掌上の黄金仮面』が人気でした。ファースト泡坂妻夫としても、こちらが収録された『亜愛一郎の狼狽』がお勧めです。
ヨギガンジーシリーズは、袋とじ等があって、仕掛けがトリッキーすぎる。(でも好き。)
復刊した『湖底のまつり』を注文中。『ミステリーズ!vol.81』に収録されていた未発表作品も良かったですね~。
今回は内容がマニアック過ぎましたね……^_^; 本当に好きなものほど、愛ゆえでしょうか、稚拙にしか語れないものです。
(2017.6.17)
次の作家さんは、「い」か「き」になると思われます。でも、「あ」、まだまだいますよね。
鮎川哲也先生、我孫子武丸先生、芦辺拓先生、もしくは愛川晶先生とか。新鋭だと青崎有吾先生とか。うーむ……やはり「あ」率ハンパない…!?