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偉大すぎる本格の師―鮎川哲也(&『本格推理』)

50音の法則は……もはや崩れたorz

 鮎川あゆかわ哲也てつや先生です。著作のすばらしさもさることながら、若手作家の育成にも注力されたことが有名です。

 作品を未読のかたも、その作風は、東京創元社の『鮎川哲也賞』の受賞作を俯瞰すれば、おのずと察することができるのでは、と思います。


 鮎川先生の生み出した、名探偵といえば、鬼貫おにつら警部です。

『りら荘事件』の星影ほしかげ龍三りゅうぞうも、快刀乱麻の探偵でカッコ良いのですが、私はぜったい鬼貫派! というのも、星影が「動」なら、鬼貫は「静」のイメージで、実直に淡々と捜査と推理を重ね、驚くべき論理の真相を導きだす意外性が気持ちいい!

 名作『黒いトランク』はあまりに精緻なアリバイ崩しですけど、長編で一番好きなのは『人それを情死と呼ぶ』です。

 この物語は、自殺したと思しき男性の義理の妹視点で大半が進み、鬼貫警部の出番は少ないのですが、だからこそ魅力が立っていると私は思います。(警部が商店街で捜査する場面が好きです)

 情死現場に、毒を混入したと思われるジュースの瓶を開けるための「オープナー」が無いことから、不自然さを見出す推理も見事ですし(これは妹がですが)、最後に物語の情景が反転するのもカタルシスを感じます。


 そして、北村薫先生が編集した『五つの時計』がですね、恐ろしく素晴らしいのですよ。

 表題作と『道化師の檻』『悪魔はここに』が好き。極めつけが、フーダニットの傑作『薔薇荘殺人事件』。読者への挑戦で、付された文章の洒落の利いたことといったら!(花森安治氏が寄せた解答もすごい!!)同じ理由で、短編『達也が嗤う』もお気に入りです。――なんと大胆なヒントの仕掛け方! これが数十年前に書かれた作品ですか。


 また、鮎川先生はアンソロジーも多く編まれています。ここで挙げる光文社の文庫雑誌『本格推理』は、公募式のアンソロジーです。


――※Danjer! ここからは光文社『本格推理』についてです。羽野の独断意見&熱がかなり入っているので、ご注意!――


 このアンソロジーをきっかけとして今も第一線で活躍する、推理作家が多く生まれていることはあまりに有名です。北森鴻、大山誠一郎、二階堂黎人、三津田信三、東川篤哉などなど。

 初期は、鮎川先生が投稿作をすべて読み、選んでいたそうです。(選評に付された鮎のイラストが良かったなあ)

 私が特に執着していたのが、鮎川先生監修、二階堂先生が編者になった『新・本格推理』から。

 図書館にあったから、というのが理由ですが、第一巻の『新・本格推理01 モルグ街の住人たち』からまあまあ傑作揃い!(制限枚数が倍増したことも要因にあるのでしょう)。第二巻(加賀美雅之先生の『樽の木荘』の悲劇は良かった!)もまたレベルが上がり……。

 第三巻『新・本格推理03りら荘の相続人』では、どエライことが起きています。

 なんと――同一作家の投稿作が【三作】も掲載されるという異例が起こっているのです。小貫風樹さんという方で、「とむらい鉄道」「稷下公案」「夢の国の悪夢」の三作品が採用されています。

 特に「とむらい鉄道」は、ダークなチェスタトン(もしくは泡坂妻夫)を連想させる短編で、推理作家協会が選ぶ年間ベストミステリにも選ばれたほどです。

 小貫さんが作家になられたという情報は得られなかったのですが、他にも青木知己氏「Y駅発深夜バス」や園田修一郎氏「作者よ欺かるるなかれ」という傑作揃いだったにも関わらず、この天才アマチュア作家一人の絢爛けんらんな活躍で、印象が薄まってしまった気すらします。こういう出来事があるからミステリの世界は面白い!

 ほかに私が気に入っているのは、第四巻の小田牧央氏「カントールの楽園で」です。

 殺人鬼が探偵役という異色の短編ですが、本編に、こういった一節が出てきます。(資料が手元にないのでうろ覚えですが)


 私は殺人鬼である。

 自分が疑われるという状況がクリアされれば、私は迷いなく人を殺す。例外なくである。


 なんていうか――ぞくっとしませんか? 

 このまるで血が通っていないような、人物をパズルのピースみたいに描写する感じ。これぞミステリ、って感じがするんです。ああ何を言ってるんでしょう私は……。

 つまり、推理小説といえど小説なのだから、人物が描けていなければならない、キャラが立っていなければいけないというのは勿論だし、大事にしている(つもり)ですが。一方で、「推理小説の最大の楽しみは【推理】なのだから、人物が描けてなくたって共感できなくたってキャラ立ちしてなくて何が悪い!」と考えている私が存在しているわけです。

 だったら「クイズを読め」という話ですよね……はい、自分もそう思います。でも、それじゃあ物足りないっていうのが、読者の我がままというか何というか。


 とにもかくも。新鋭作家のエネルギッシュな情熱が溢れた、彼らを大らかに柔らかく受け入れた偉大な器量持ちの鮎川哲也先生編・光文社『本格推理』。

 私にとって、wikiでラインナップとタイトルを眺めているだけで、泣きたくなるほど懐かしいような、そんな貴重なアンソロジーでした。(投稿経験はありません)


(2017.8.18)

――――――――――――――


「たくさん名作を読んでいるのに、ちっとも小説が上手くならない」

「読んでばっかりで描かないからだ」


 そのとおり!? どこかの作家さんがこんなことを言ってたような……(遠い目)

 怖いなエッセイ。つい、いらん口が滑りますね。

鮎川先生より、むしろ『本格推理』の方に力が入ってしまい……すみませんでした。

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