終章 end-1 再び聖都へ
先代勇者のユウトとの戦いから1週間の時が過ぎた、ツムギたち一行は馬車に揺られながら異世界の首都である聖都シャイナスへと向かっていた。
魔女の居る城を目指していたツムギたちが何故スタート地点であった聖都へと戻っているかというと、事態が急変したからであった。
「馬車って初めて乗ったけど結構揺れるのね」
ルティはやることがないのか暇そうに誰とはなしに語りかけた。
異世界の道で舗装されている場所は規模の大きな村の周辺程度なのでどうしてもデコボコの道が多いために馬車での移動は適さなかった。(そもそも馬が少なく貴重な異世界では馬車や馬に乗れる人間は極限られた少数だけであった)
「本当だよな、フランが魔法を掛けてくれてなかったら絶対に酔ってるよ」
ツムギはルティの言葉に同意した。
ツムギとルティは馬車に乗る前にフランから平衡感覚を補助する魔法を付与された。
女神の巫女の弟子であるフランと、剣聖という地位のヴィルヘルムは馬車に乗る機会が今までで何回もあったらしく、馬車に乗るための注意などは良く分かっていた。
「この揺れに何日も耐えないといけないとか最悪だよ、まあ他の勇者候補たちも同じ立場
だから文句は言ってられないけどさ」
ツムギは自分たちだけでないと自身に言い聞かせて酷い揺れを我慢した。
勇者候補とその仲間、そして腕に覚えにある者たちは全員聖都へと招集の命令が下された。命令を下したのは賢人会の連中であった。
聖都に強者たちを招集した理由は魔女が聖都を目指して攻め上がって来たからであった。
今までの女神と魔女の戦い、神魔戦争では魔女が居城を出て戦うことは無かった。無論理由は、進軍するよりも城で迎え打つ方がリスクが少ないからである。
魔女自らが進軍するということは今回の戦いがそれだけ魔女に自信があるからであろう。
賢人会の放った斥候によると魔女自身が百近い魔物を率いる本軍、そして魔物が10数人程度で構成された小隊が少なくとも9組は斥候が確認をしたらしい。
斥候が見落とした魔物の小隊もあるなら数はそれ以上に上るであろう。その数を迎え撃つならば少しでも有利となる聖都での戦いを賢人会は選択したようだ。
ツムギは馬車の酷い揺れを紛らわすために外の景色を眺めていた。
現在馬車で走っている道はツムギが魔女の居城を目指して旅した時に通らなかったルートなので、ツムギは初めて見る景色を楽しんだ。
(あれっ?)
ツムギは通ったことのない道なのに見覚えがあった。
また既視感か、ツムギにとってはもう珍しいことでもなかったが、今回は何故か妙にソワソワと落ち着かない気持ちになった。
(もう少ししたら村があったハズだよな?)
ツムギは来たことの無い場所で何故かその先に村があると思った。そしてその村に誰かが居たような気がした、自分にとって大切な存在が。
ツムギの予想通りに少し進むと村が見えた、その村からは幾つもの不審な火の手が上がっているのがツムギの目に飛び込んだ。




