番外編 初めての感情 前編
このエピソードは魔女視点です
私は魔女である。魔女というのが名前でないとしたら、私には名前はまだ無い。
私は女神によって生み出された存在だ。
私の生み出された理由は人々の怒りや憎しみ、そういう物のはけ口となるために生まれたそうだ。
私を見ると人間は蔑み、乱暴を働く。私には感情を与えられなかったので、それが辛いと感じることは無い。
今日も人間に殴られ、蹴られ、そして中には刃物で私を刺す者もいた。
私はどれだけ傷を負おうと死ぬことは無い、女神が私をそう作ったからである。
私の容姿は人間たちから見ると醜いらしい、女神は私を人間たちと全く違う容姿にすることで罪悪感などを生まないようにしたのだろう。
今日も人間に殴られ蹴られた、仕事が上手くいかなかったらしい。
今日も人間に棍棒で何回も殴られた、旦那が別の女と浮気をしたストレスの発散に。
私が生み出されたことで人間たちの間の争いごとは少し減ったらしい、女神の狙い通りなのであろう。感情の無い私にはどうでもいいことだ。
私は今日も1人だ、感情の無い私に取っては特に何の問題も無い。
遠くで人間同士が笑い合い親しげに名前を呼び合っている。
私もあの輪の中に入れば笑えるのだろうか? それとも女神から感情を与えられなかった私には無理なのだろうか?
それから私は何故か人々が笑い合う姿を遠くで眺めるようになった。
私は今日も人間に暴力を振るわれボロボロとなっていた、体が傷を修復するのに時間はさして掛からないから対した問題では無い。
ある時に1人の幼い人間が私のもとにと来た。
「いつも1人ぼっちだよね? 一緒に遊ぼうよ」
幼い人間の男の子、少年は私の手を引いて仲間のもとへと小走りで向かった。
私は自分が魔女であると告げたが少年はそれがどうして1人で居る理由であるのか分からない、そう言って構わず私の手を引いた。
私は何故だか何時もより足取りが軽く感じられた。
少年は私を連れて遊び仲間の輪に加わろうとした。
「何で魔女と一緒に居るんだよ?」
「魔女と一緒に居るこいつも悪い奴だ」
少年の遊び仲間たちは次々と少年を攻めた、そして少年は袋叩きにされて殺されてしまった。少年には親が居なかった、だから魔女が悪い存在だと教えられてこなかったのだ。
私の手を引いてくれた少年が殺されて死体となった姿を私はただ見ていた、感情の無い私にはどうしようもないことだ。
しかし、その時に魔女は自分の中から何かが零れ落ちた気がした。
この日を境に魔女に異変が起こった。
それが異世界を滅ぼす始まりとなることを、まだ誰も知らない。




