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第8章 8-14 後悔

 先代勇者のユウトはこれまで自身に起こった経緯をツムギへと語った。

 ツムギは既にある程度の事情を把握していたつもりであった、しかしユウトの口から語られる話はツムギの胸を締め付けた。


 「自分で起こした不始末を俺に押し付けて神を気取る女神が憎い。

  全てを知っていたのに、賢者の仮面を被って俺を破滅へと導いた導師タウが憎い。

  自身の復讐のためにクルミの記憶を奪い殺した魔女が憎い」


 ツムギはユウトから痛いほどの憎悪を感じた。

 そしてこの時にユウトは女神だけでなく魔女も憎んでいるのだと知った、そして魔女を憎む理由が勇者となった人間のパートナーを魔女が不幸へと巻き込むという事実を。


 (じゃあ俺が勇者になったらルティが不幸な目に遭うのかよ)


 ユウトの話を聞いたツムギは心の中で呟いた。ルティを不幸にしたくない、魔女を倒せば自分だけでなくルティも不幸になると聞いてツムギは魔女を倒そうという気持ちが完全に消えた。


 「たった一つの願い事で異世界アヴェルトを救おうと決めたのは俺だ、でも今は後悔してる。

  復讐のためにかつての仲間に手にかけようと決めたのも俺だ、でもそれを悔やんでる」



 ユウトはまるで懺悔でもするように嘆いた。


 「今では10年以上前の戦いで死んでいれば良かったと思ってる、そうすればクルミを不

幸に巻き込むこともなかった。

あの時に死んでいればこんな俺を未だに心配してくれている仲間に剣を振り下ろすこ

ともなかった。

命懸けで異世界アヴェルトを救おうとした結果がこれなら、俺は頑張るべきなんかじゃなかった」


 ユウトの嘆きは止めどなく溢れた、それを聞いていたツムギは何故だか胸が締め付けられる。

 自分も勇者候補という立場で他人ごとではないから胸を締め付けられるのだろうか?

 ツムギはまるでユウトの感情が自分の中に流れ込むかのような感覚に襲われた。

その時にツムギの頭の中で声が聞こえた、それはまるで頭に直接語りかけられているよだ。ツムギは激しい頭痛に襲われて目の前が歪む。


 (憎い、憎い、俺から全てを奪った奴らが憎い。復讐を、奴らに復讐を)


 ツムギの頭に誰かが語り掛ける。ツムギはその声を聞くと胸が締め付けられて息を吸うことも困難な状況となった。

 ツムギは立っていることすら難しくその場に膝を突く。突然のツムギの異変に目の前で相対していたユウトはいぶかしんだ。


 「っが、…ハァ、ハッ」


 ツムギが苦しんでいる姿を余所にユウトは剣を抜いた。


 「理由は分からないが俺にとっては好都合だ。すぐに楽にしてやるよ」


 ユウトがそう言うとツムギは体が急に重くなった、ユウトの闇の魔法で更に弱体化させられたツムギは指を動かすことも困難となった。

ユウトは剣を振り上げるとツムギに向かってその剣を振り下ろそうとした。

 ツムギは剣を何とか握って防ごうとする、しかし指を動かすことすら困難なツムギに取っては視界にユウトを映すだけで精一杯であった。

その間もツムギの中で声が鳴り響く。


 (憎い、憎い、全てが憎い)


 その頭に響く声に洗脳でもされるようにツムギは全てが憎く感じ始めた。目の前の不遇な立場のユウトもツムギは憎く感じた。

 そんな中でユウトは剣を振り下ろした。しかしユウトの剣がツムギに届くことはなかった。

 ユウトは突然見えない爆発でも受けたように大きく後ろに弾き飛ばされた。


 「お前、今何をしたんだ?」


 突然の出来事にユウトは狼狽ろうばいした。

 ユウトは周りを見回すがツムギの他に誰もいない。ユウトは改めて目の前のうずくまってまともに動くことすら出来ないツムギに視線を戻した。


 「今のは魔法か? だがありえない、弱体化させている間は魔法もまともな威力など発

揮は出来ないはずだ、だから導師タウも殺すことが出来たんだ」


 ユウトはまともに受け答えすらままならないツムギを余所に1人で怒鳴った。

 しかしユウトは突然動きをピタリと止めた、ユウトの頭に1つの可能性が頭を過った。


 「1つだけ弱体化の影響を受けづらい魔法があったな、同じ属性の魔法。闇魔法なら。

  お前は、魔女側の人間なのか?」


 ツムギはユウトが何か自分にとんでもない疑いを掛けているのが耳に入ってきたような気がした、しかしツムギは苦しさでまともに頭が動かずにその場に蹲ったまま何も出来ずにいた。


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