第8章 8-13 崖の決闘
ツムギは先代勇者が指定した場所へと訪れた。
その指定場所は断崖絶壁の崖でその下は早い流れの川から先は滝となっている場所であった。落ちたら助かるのは難しそうだと話を聞いてツムギは思った。
「待ってたぞ、勇者候補」
「ルティは何処だ」
平たい岩に腰掛ける先代勇者のユウト姿を見たツムギは、自分の視界にルティの姿が見えずユウトに問い質した。
ユウトがゆっくりと腰掛けていた岩から腰を上げた。
「安心しろ、向こうの方で眠って貰ってるだけだ、手は一切出してないから安心しな」
ユウトはツムギの右側の数百メートル離れた林の方向を指差した。
「どうせ仲間を連れて来たんだろ? 早く助けに行かせたらどうだ、魔物を数体配備させ
てるから、そいつらを倒さないといけないけどな」
「ヴィルヘルム、フラン、ルティのことは任せたぞ」
ツムギはユウトに仲間を密かに連れていることを見抜かれているので、大声で後ろのほうで姿を隠していた2人に大声で伝えた。
「オッケー、任せといてよツムギ君」
「ルティさんを助けたらすぐに加勢に戻りますから、頑張ってください」
ヴィルヘルムとフランはツムギに大声で伝えるとルティが捉えられている場所へと急いで向かった。
ツムギはユウトの言葉を素直に信じるのはどうかと思ったが、何故かその言葉は嘘では無いと感じた。
いや、そもそも人質として有効に使う方法などいくらでもあるはずだ、それなのにまるで自分をおびき寄せるためだけにしか利用しようとしなかったユウトに、ツムギは何処か悪い奴ではないのではと甘い考えが頭を過った。
「さて、お前の仲間が魔物を殺してあの少女を助けて戻るまでには早くても十数分は時間を稼げるだろう。
前に会った時から仲間の人数は変わってないようで助かった、仲間の数が増えてれば一
対一の戦いに邪魔が入りかねないからな。時間的に他から救援を求める時間もないしな」
「こっちとしてもルティを人質に手も足も出せない状況にされるよりは大分マシだ。
それぐらい汚いことをやる奴じゃなくて、少し見直したくらいだぜ」
「自分が人質になったことで無抵抗のお前を殺せばあの少女は一生後悔しながら生きることになる。
出来ればもう勇者候補とそのパートナーが不幸になるのはなるべくなら見たくないんでな」
ユウトの声のトーンは低く、これからまるでやりたくないことを無理にしなくてはいけ
ないような憂鬱な口調であった。
しかしその憂鬱なトーンで喋るユウトはどこか高揚感を隠してるようにツムギは感じた。
そしてユウトは何故か誰もいないハズの後方をチラチラと気にする素振りを見せることにツムギは違和感を覚えた。
「お前が今此処で死ぬことはお前にとっての救いとなるのさ、何故なら俺自身が勇者候補の時に死んでいれば良かったと思っているからな。
俺の身の上話をしようか、勇者候補であるお前も歩むことになるかもしれない可能性のある未来の話さ」
ユウトは今まで自身に起こったことをツムギに話始めた。




