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第8章 8=10 死人

 トールが自分の意志で魔女に従っているのか? はたまた魔女に操られているのか?

 1番手っ取り早い方法としては魔女に問い質すことであろう、しかし魔女が口を割る望みは薄いことをユウトは知っている。それどころか、魔女は自分をたばかる可能性が大いに有りうる。

 魔女は自分の思い通りにことを運ぶために都合の良い嘘を並び立てる。たちの悪いことに真実と嘘を織り交ぜるので自分1人であったら嘘を見抜くのは難しかったであろう、その点に関してだけは歴代の勇者たちにユウトは感謝した。

 時間は掛かるが仕方なく、ユウトは真相を知るためにトールの尾行を開始した。


 (どう判断すげきか?)


 ユウトはトールを尾行して丸2日間が過ぎた。その間のトールの様子を見る限りは本人らしからぬイメージを受けた、しかし確信を持てる程ではなかった。


 (魔女に無理やり力で操られているとしたら、付けている黒い仮面を破壊しなくちゃなら

ない。

魔女の言葉に踊らされているならば、魔女の監視の届かない所で話をするだけで事は足りるんだがな)


 ユウトはこれ以上尾行しても判断は付かないだろうと諦め、トールの前に直接に顔を見せて判断しようとした。しかし、その時に初代勇者の瞳の力が戻るのを感じた。


 (もうあの時のような過ちは犯さない)


 ユウトはクルミの娘を殺した時のことを思い出し、自分の心の中で誓った。

 初代勇者の瞳で未来を見たユウトは魔女に新たな怒りを覚えた、そして自分が取るべき行動を理解した。


 「やっぱりお前はあの時に、既にもう…」


 ユウトは呟くとトールたちが居る前へと歩み出た。

 ユウトの姿を見たトールの横に居る魔物がユウトに声を掛けてきた。


 「あら、誰かと思ったら先代勇者ちゃんじゃない。どうしたのかしら?」


 「俺以外に黒い仮面の魔人が居ると聞いて見に来たのさ、魔女様の側近殿」


 トールの横に居た魔物、ディルビルの質問にユウトは素っ気なく答えた。

 ディルビルのユウトに対する態度は何処か、敵意と警戒が見て取れた。


 「あらあら、それはご苦労様ね。

  そう言えば知っているかしら? 私と同じ魔女様の側近のウァサゴって魔物が居たで

しょ。初代勇者の瞳を取り込んだ奴よ」


 「ああ、居たな、そんな殺されたマヌケな魔物が」


 「ウァサゴを殺した犯人は状況から言って、外部犯とは考えづらいのよね。

  内部でウァサゴのことを殺すチャンスのある奴ってそう多くないのよね、先代勇者ち

ゃんは犯人の心当たり誰かいないかしら?」


 ディルビルの言動はあからさまに自分に対して疑いを持っていることが伝わってくる、しかしユウトにとっては既にどうでも良いことであった。

 ユウトはディルビルなど見向きもせずにトールの居る場所へと歩みを進め、トールの前で足を止めた。


 「悪いな、下らないことに巻き込んで」


 ユウトは小さくそう呟くと自分の黒い仮面取り剣を抜き、その剣でトールを貫いた。

 トールの体は九の字へと曲がった、そしてトールが付けていた黒い仮面が地面へと、カラン、と音を立てて転がった。

 十数年ぶりに見るトール顔を見たユウトは唇を強く噛んだ。


 「相変わらず遅いんだよ、この、マヌ…ケ…」


 トールはそう言って地面へと倒れ込んだ。ユウトはトールの言葉を聞いて驚きの表情を浮かべる。

 十数年前に死んだハズのトールが昔のような口の悪さを自分に向けて言ったのは、ユウトの願望が生んだ空耳だったのか? 最後に本当に命がよみがえったのであろうか?

その答えを知るすべなどもう存在はしないが。


 「何をするのよアンタ、気でも狂ったの?」


 ユウトの突然の行動にディルビルは抗議の声を上げた。ユウトはどうでも良さそうにチラリとディルビルに視線を少し移し、すぐにまた地面に横たわるトールに視線を戻した。トールを見るユウトの目は何処か悲しげである。


 「私が前回の女神との戦いで殺し、せっかく取って置いた素体なのに」


 「そうか、十数年前にトールを殺したのはお前だったんだな」


 ディルビルの言葉を聞いてツムギはポツリと呟いた。

 ユウトは未来を見通してトールが既に十数年前に死んでいることを知った。その死体を魔女が操っているだけだということを、歴代勇者たちの蓄積した情報の中にも死んだ人間まで操れるということは掴んではいなかった事実であった。

 ユウトは黒い仮面を付け直し、ディルビルに今度はしっかりと視線を移した。


 「足手まといになると判断したから処分した、文句があるなら魔女様にでも告げ口したら

どうだ? 側近殿」


 「このイカレ野郎が」


 ディルビルの口調は先ほどまでとは打って変わる。

 ユウトの小馬鹿にした口調にディルビルは苛立った、しかしユウトに叶わぬと判断したディルビルはこの場から引こうとユウトに背を向けた。しかし急激に体が重くなるのをディルビルは感じた。


 「やっぱりお前はここで死んどけ」


 ユウトは背中を見せたディルビルをその場で切り殺した。

 あっけなくディルビルは地面へと転がる死体へと変わった。


 「良かったな、魔女が操る新しい死体が出来上がったぞ」


 物言わぬ死体となったディルビルにツムギは吐き捨てるように言った。


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