第8章 8=9 真実を知るために
このエピソードは元勇者視点です
ツムギともう1人の黒い仮面の魔人、トールとの戦いから1週間程の時が流れ、先代勇者のユウトはようやく黒い仮面を付けた人物が自分の最愛していたクルミの弟であることを突き止めた。
「死んだハズじゃなかったのか?」
ユウトは10年以上前の自分の記憶の糸を辿った。
トールは前回の魔女との戦いで自分を魔女が居る元へと送り出すために多くの魔物を1人で足止めした、自分の目で確認したわけではなかったが魔女を倒し終わった後でトールが足止めしていた魔物たちが流れ込んで来た、その時に魔物たちは確かに口にしたハズだ。
(あの人間を殺すのに時間が掛かり過ぎたと、魔物たちは悔しそうに確かに口にした)
ユウトは当時の記憶を思い返し、悔しそうに拳を握りしめた。
魔物たちが嘘を言っているようには感じられなかった、それにトールの性格からいってどんなに傷を負おうとも魔物たちを通すとは思えない、それこそ死ぬか気を失うかでもしない限りは。
(仮に生きてたと仮定して何故魔女の下で動いていると言うのだろうか?)
ユウトはトールが魔女に従う理由を想像する。魔女に願いを叶えてやるなどと言った甘言に乗せられたのか?
それとも姉が死んだのは女神のせいだとでも嘘を教えて女神への復讐に導いたのか?(最初の事の発端は女神が原因であるので全部が嘘ではないが)
どんな理由があるにせよ、姉であるクルミのための行動であろう。トールが動く理由は常に大好きな姉のためが全ての男であったからな、そんなことを思い出してユウトは苦笑した。
(クルミが殺された理由が勇者である自分のパートナーであったと知ったらトールは自
分のことも許さないだろうな)
ユウトはそれでも構わなかった、トールに殺されるのであれば仕方ない。
しかし、それは女神と魔女に復讐を終えた後でなければならない。そうでなければ今まで自分がしてきたことが無意味になる、かつての仲間を手にかけて、愛した人の娘まで手にかけた。
それらが無意味になることだけは絶対にしてはいけない、ユウトはそう固く誓った。
(もしもトールが魔女に操られていた場合はどうするか)
ユウトはもう1つの可能性を考えた。
魔女は人間を操ることが出来る、ユウトは黒い仮面の中に居る歴代勇者たちからその情報を既に仕入れていた。
トールが魔女に操られているならば救いたい、しかし魔女に弓を引くわけにはいかない。
魔女に弓を引くときは確実に魔女を殺すことが出来なくてはならない、魔女の加護の付与がなくなれば自分の復讐は頓挫する。
(クソッ)
何も出来ない状況をユウトは内心で毒づく。
とりあえず自分がすべきことは現在の状況を正確に把握することである。トールが自分の意志で魔女に協力をしているのか?
はたまた魔女の操り人形となっているのか?
(未来さえ自由に見通すことが出来れば)
未だに初代勇者の瞳が力を取り戻さないことに苛立ちを覚えながら、ユウトはトールが居る場所を目指した。




