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第8章 8-7 闇の魔法

 テンションがガタ落ちしたツムギを余所に黒い仮面の魔人が剣を抜き攻撃をする素振りを見せた。

 ツムギは先ほどの汚名を返上するために剣を構えて相手の出方を待った。

 黒い仮面の魔人がツムギ目掛けて駆けた、ツムギの剣と黒い仮面の剣がぶつかる。

 ツムギはつば迫り合いをした時に自分の剣が熱を帯びるのを感じた、相手が剣に火の魔法を付与して攻撃をしたので、その熱が剣を伝ってツムギの剣まで熱くなりツムギは手が火傷したように熱くなった。


 「あちっ」


 ツムギは熱さに耐えきれず距離を取る、しかしツムギが後ろに飛びのいた場所目掛けて地面の土が槍のように鋭く盛り上がった。

 ツムギは何とか直撃を避けた、それでもカスった腕の皮が切れて血が出てきた。

 黒い仮面が再度ツムギに剣振り下ろす、ツムギは剣で攻撃を受け止めた。ツムギは熱が伝わる前に距離を取ろうとしたが今度は強い風がツムギに襲いかかった。

 かまいたちの様な風がツムギの腕や顔を小さく無数に切り裂いた。


 「先代勇者とは別人かよ」


 ツムギは相手が先代勇者と似たような黒い仮面を付けていたので同じように能力を持っているかと構えていた、思いとは裏腹に目の前の黒い仮面は相手の能力を下げるなどせずに、火、土、風といったヴィルヘルムと同じように精霊が司る四大魔法を使い戦っていた。

 ツムギはこれまで余り血を流すことは多くなかった、魔物の攻撃を食らおうとも女神の加護のあるツムギが深刻な傷を負うことはなかったからである。

それでも目の前の黒い仮面の攻撃は直撃せずとも自分にダメージ与えている、目の前の相手が女神の加護する力を上回る強力な魔法で攻撃しているということであった。


 「クソっ」


 相手の攻撃をまともに食らえば命を落としかねない、そんな風に考えるとツムギは体がこわばって動きがぎこちなくなるのを感じた。

 黒い仮面がまた攻撃をする素振りを見せるとツムギは恐怖から少し後退りした。

 ツムギは認めたくなかったが黒い仮面は間違いなく自分よりも格上の相手だった。

 ヴィルヘルムは魔女の側近の魔物であるディルビルを相手にしつつツムギと黒い仮面の戦いにも目を配っていた。


 「ツムギ君じゃあ少し荷が重いか」


 ヴィルヘルムはそう呟くと自分が相手をしている魔物を力で無理矢理、黒い仮面が居る位置まで押し込んだ。

 ディルビルと名乗った魔物と黒い仮面が近しい距離になるとツムギに向かってヴィルヘルムは叫んだ。


 「ツムギ君、その場から離れろ」


 ヴィルヘルムのいつもとは違う声の調子にツムギはすぐさま後ろに飛びのいた。


 「全てを呑みこみ、全てを焦がせ、炎風蛇火えんぷうじゃっか


 ヴィルヘルムの声と共に魔物と黒い仮面の周りを炎が取り囲む、炎は次第に回転をして数秒後には炎で燃え盛る竜巻となった。

 ツムギ少し離れた位置にいるはずなのに、それでも熱が伝わってくるのを感じた。これならば中に居た2人も無事ではないだろう、ツムギがそう思うやいなや、炎で渦巻く竜巻が中から弾けた。

 炎の中に居た魔物と黒い仮面は無傷であった。


 「やれやれ、相手するのがしんどい敵と遭遇しちゃったよ」


 ヴィルヘルムは面倒そうにぼやいた。


 「流石は剣聖ね、私が相手じゃ役不足のようだから、仮面ちゃんが剣聖の足止めをしてち

ょうだい。

私がその間に勇者候補を始末するわ」


 魔物は黒い仮面にそう言うと、戦う相手をシャッフルしてツムギへと向かってきた。

 ツムギは再度ディルビルという魔物と剣を交えた、先ほどの不意打ちでツムギは後れを取ったが今度は互角に渡り合った。

 互角であることにツムギは歯嚙みをした、魔女の側近と言うだけあって今までで戦ってきたどの魔物よりも手強かった。

しかし、魔女を倒そうとしている自分がその手下に手間取っていたら魔女など倒すことは出来ないではないか自分を鼓舞した。


 (そうだ、魔女は俺が倒さなきゃいけないんだ)


 ツムギは自分が突然魔女を倒そうとなどといった思いが込み上げてきたことに驚いた。

 異世界アヴェルトに来た当初ならいざ知らず、少し前までは魔女を倒すことを他の勇者候補に押し付けようとしていたのに。

 魔女を自分が倒さなくては、といった思いが急に自分の中に生まれたことにツムギは驚き一瞬戦いから注意が逸れた。

 その一瞬の隙を逃さずに魔物が攻撃を仕掛けた、互角であった戦いは一転してツムギは劣勢へと立たされた。


 「終わりよ、勇者候補」


 戦いはディルビルという魔物の一方的な攻撃をツムギが凌ぐ形へと変わっていた。

 同程度の実力同士の戦いで、一度傾いた状況を変えることは困難であった。

 ヴィルヘルムは黒い仮面と戦いこちらに加勢する余力はなさそうだ、ルティとフランは村で溢れていた魔物の数体がこちらにきたのでその対応で手一杯であった。

 ツムギは自分でこの状況を打破するしかなかった。

 ツムギは魔物の攻撃を凌ぐことが次第に難しくなっていた、ツムギは一方的な防戦に苛立った。


 (邪魔なんだよ、その腕)


 ツムギは自分を攻撃する魔物の腕?のような尖った部分を邪魔に思い、憎しみ交じりで魔物の腕が千切れて飛ぶ妄想が頭を過った。

 するとツムギを攻撃していた魔物の腕は見えない壁にぶつかったように後ろに弾かれた。

 魔物が一瞬体制を崩した所をツムギは反撃に出た、しかしツムギの剣はあっさりと魔物に防がれた。

 難なく防いだように見えたが魔物は何故かツムギから距離を取り離れた。


 「アンタなにしたのよ?」


 魔物は信じられないといった様子でツムギに問い質した。

 ツムギは魔物の質問の意味が分からず答えあぐねる。


 「今のはアンタの仕業かって聞いてるのよ、勇者候補。

  アンタから一瞬だけど、闇の魔法の力を感じたわよ。闇魔法は魔女様の加護によっての

み使える力のハズよ、魔女様の対極の女神の加護を受けた勇者候補のアンタが何で使

えるのよ?」


 ツムギは目の前の魔物の慌てようから何かとんでもないことが起こったように見受けられた、しかし、ツムギは事態を飲み込めずにいた。


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