第8章 8-4 邪魔な存在?
ツムギたちは村の少し離れた所で足を止めた。
村に立ち寄り買い出しをするのに勇者候補であるツムギを待機させるか、それともフードなどを被り一緒に行動をするかの話し合いのためである。
「じゃあそれで決定でいいわね」
「反対、反対~」
ルティの決定にヴィルヘルムが反対の声を上げる。
ツムギたちが今から立ち寄ろうとしていた村は賢人会のメンバーの1人が取り仕切っている村であった。
ツムギは賢人会に目を付けられていることからルティはなるべくツムギを村に近づけたくなかった、そのため食料の買い出し班とその帰りを待つ待機班に分けることにした。
ツムギは勿論待機班である、そして勇者候補を1人にしとくのは心配であるためもう1人待機することになった。
「何で僕が村に入れないのさ~」
ヴィルヘルムはルティへと抗議を続けていた。
ヴィルヘルムが待機班に回された理由はいくつかあった、理由の1つとして前の村でリーナとの酒場で戦い騒ぎをおこしたこと、そして別の理由としてヴィルヘルムが村に行けばフラフラと酒場に行ったり観光を始める恐れがあった。
少し目を離しただけで糸の切れた凧のように何処に行くのか分からないことが一番の理由であった。
「でもルティとフランだけじゃ何かあった時に大丈夫?」
ツムギは最近少し心配症になっていた、リーナと出会った村で見た奇妙な夢、聖都に留まる選択としたツムギとルティを襲った黒い仮面付けた先代勇者。
あの夢を見てから最悪の瞬間が脳裏を過ぎる、ただの夢にはツムギはどうしても思えなかった。
「賢人会のメンバーが治める村だから治安はいいわよ、逆に何か問題を起こしたら村から
出ることの方が難しいわ。
それに私は勇者候補パートナーよ、アンタにだって負けないわよ。
まあ本音を言えば荷物運びに男手は欲しいけどね」
ルティはそう言うとフランと村に買い出しへと向かった。
結局ヴィルヘルムはツムギと村の外で待機をすることになった。
「はあ~、情報収集と称して酒場に行きたかったのになあ~。
退屈で死んじゃいそうだよ~」
ヴィルヘルムは寝転がりゴロゴロとしながら愚痴っていた。
「悪かったな、俺のせいで村に入れなくて」
「本当だよ~、ツムギ君が悪いわけじゃないけどこっちはいい迷惑だよ」
ツムギはヴィルヘルムへと謝罪をした。
ヴィルヘルムはプンプンと怒りながら手持ちの酒を飲み始めると、ツムギにも酒を薦めた。
「いや、俺まだ20歳じゃないし、てか異世界では年齢は関係ないのかな?」
「確か異世界では18歳くらいから飲んでいいんだったけな?
僕はあまり細かいことは気にしない性だからあんまり覚えてないや」
ツムギの疑問にヴィルヘルムは適当に答えた。
やはり異世界でも法律か何かで決められているのだな、ツムギは今更ながらそんなことを思い、ヴィルヘルムにそう話をした。
「違う違う、確か法律じゃなくて神教の方の決め事だね」
ヴィルヘルムの説明にツムギは一瞬、意味が理解できなかった。
ヴィルヘルムはツムギの顔を見て理解していなさそうなので、順を追って説明をすることにした。
「異世界には守らなければいけない法律があるんだ、法を犯
すと勿論相応の罰が与えられる。
それと法律よりも上位にさっき話した神教ってのがあるんだよ。まあ神教ってのは女
神様が決めた法ってよりは教えみたいなものかな」
ヴィルヘルムの説明はその後も続いた、説明を受けたツムギ何となく理解することができた。
ツムギは言葉の響きから元の世界の信教、(宗教を信じること)のことかと思ったが異世界では宗教と言える物は女神の存在、女神の考えこそが唯一無二のものであった。
異世界でも法を破れば罰を受ける、しかし神教に背いたところで罰する決め事はなかった。何故なら女神の教えに背く者など居るはずがないのだから。
神教に背くことは女神に背くことである、そして女神に従わないものは異世界では殺されようと文句など言えないのが異世界の常識であるらしい、その話を聞いてツムギはこの世界の異常性に背筋が寒くなるのを感じた。
「可笑しな話だよね、多くの、いやほとんどの人間が女神様とやらの姿を見たことすらな
いのにさ。
女神様を見たことがある奴なんて魔女を倒した勇者か、女神様の腹心と言われていた
導師タウぐらいだろうに。
賢人会の爺さんたちや、女神の巫女なんて要職の巫女ですら見たことはないのにね」
ヴィルヘルムは何が可笑しいというのであろうか、少し笑いながら話を続けた。
「それでも女神様の絶対的な立場が揺るがないのはどうしてだと思う?
女神様を良しとしない者、疑問を持つ者は決まって早死にするからさ。
女神様の熱狂的な信徒の手によって、あるいは信徒などが敵わないような相手には賢
人会が手練れを派遣するのさ、精剣に選ばれた僕のような手練れをね」
「何が言いたいんだよ」
ヴィルヘルムが何を伝えようとしているのかイマイチ理解できないツムギは問うた。
「僕は昔のことだけど異世界を脅かす奴を殺してたんだ、賢人会の命令で。
だけどある時に殺すように命令されたターゲットに会って疑問を抱いた、その子が危険
な存在には思えなかったんだ。
僕は賢人会に何かの間違いではないかと再度調べるように迫った、しかし賢人会は導師
タウから女神様の勅命で受けた指令だと断られた。」
ヴィルヘルムはそこまで話すと少し間を置いた。
ヴィルヘルムが殺すことを拒んだその子は後日事故死をした、ヴィルヘルムが言うには別の奴に命令が回ったのだろうと呟いた。
納得の出来なかったヴィルヘルムはその子が何をしようとしていたのか、独自に調べることにしたらしい。
そして分かったことは女神と魔女の争いの原因を調べ、そして和解することが出来ないかと模索をしていたことが分かった。
「先代勇者の奴が言っていることを頭から信じるつもりはない、だけど奴の話が本当なら
ば、女神にとって魔女との争いの原因を調べようとする存在は邪魔だったんだろうな。
魔女を生み出したのが女神だなんて知られれば、絶対であるはずの女神の立場が崩壊しかねないからな」
ヴィルヘルムはそこまで話すと、先ほどまでの険しい表情を緩めた。
「だからツムギ君も気を付けた方がいいよ、女神の奴にとっては先代勇者とツムギ君は知
られちゃ困ることを知ってしまったんだからね。
今回の勇者候補が魔女と通じているなんて騒動も、女神側の誰かが余計なことを知って
しまったツムギ君を排斥するために作為的に流された噂かもしてないからさ」
(お前も余計な事実を知ってる1人だろうが)
ヴィルヘルムのまるで他人事のような物言いに、ツムギは心の中でツッコミを入れた。
しかしツムギは今の話で知ってはいけない真実を知っているルティとフランのことが心配になった。
ツムギはルティとフランの向かった村へと顔を向けた、すると突然村から不自然な煙が何本も立ち上っていくのがツムギの目に飛び込んだ。
ルティとフランが向かった村に何か異変が起きたことは明白であった。




