第8章 8-3 後悔する女の子
「ごめんなさい、ごめんなさい」
ツムギは謝る声に起こされた。
周りを見渡すが誰も居ない、誰も居ないってルティたちは何処に行ったんだろうか?
ツムギは慌てて再度周りを見渡した。
しかし違和感がある、景色もハッキリとしないし何かフワフワとした感じだ。
「あっ、これって夢なのか?」
ツムギは今自分が夢の中に居ると理解した、しかしツムギが異世界に来てから見ていた妙にリアルで背筋が凍るような夢とは違った。
昔から見ているような、これは夢なのかもしれないな~というようなフワフワとした感じの元の世界にいた時に見るような夢であった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
しかし女性が、いや女の子が謝る声だけが聞こえる。
何処から聞こえて来るのかツムギは声のする方向へと向かうことにした。
声の聞こえる方に向かいながらツムギは引っかかりを感じた、喉に小さな骨でも引っかかっているよな感じだ、ご飯でも飲み込めば簡単に取れそうだがご飯が無いので取れずに無性に気になってしまう。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
ツムギはその声を何回も聞いているうちに喉の骨が取れるのを感じた。
「そっか、この声は」
ツムギは手をポン、と打つとツムギは今聞こえている声を以前聞いたことがあることを思い出した。
この声はルティが先代勇者の後を追って1人で消えてしまった時に聞こえた声だ、あの時は気のせいかと思ったが、{こっちよ}とあの声の聞こえた方向に向かってルティと出会えたのだ。
しかしあの時に聞いた声は凛としていて威厳すら感じるようであったが、今聞こえている声は似ているが酷く幼く聞こえた。まるで小さな子が失敗をしてしまい泣きじゃくるかのような。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
ツムギは気になった、謝罪を続ける女の子は一体何を謝っているのだろうか? 一体誰に謝っているのであろうか!?
ツムギにふと別の疑問が芽生えた、謝罪を続ける声を聞いたことがあると思いそれがルティが先代勇者の後を追った時の声であると納得できていた。
しかし、それよりももっと前にこの声を聞いたことがツムギはある気がした。
自分が妙な夢を見るようになった時であろうか、それとも見たことのない光景に何故か見覚えがあった時であろうか、あるいは女神の加護を宿した武器を手にした時であろうか?
いや、それよりももっと前の気がする。しかしそれよりも昔に遡ると異世界に来る前になってしまう、それならば元の世界に居た時に聞いたのであろうか?
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
ツムギはその言葉を何度も聞いているうちに脳みそが、いや脳の中の記憶を手でぐちゃぐちゃにかき混ぜられてでもいるように感じた。
この声を聞いたのはずっと昔だ、でも元の居た世界じゃない、自分はこの声を、この言葉を何時聞いたのだろうか。
ツムギはそれ以上考えることはできなかった、脳がそれ以上の思考を拒むように意識が遠のき、そしてブラックアウトした。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」
ツムギは夢と同じように誰かの謝罪の声で目を覚ました。
夢とは違いその声には聞き覚えがある、ヴィルヘルムの声である。
「いや~ゴメンゴメン、夜中は少し冷えるもんだからついね」
「何処の世界に酒飲んで寝る見張りがいるのよ」
ヴィルヘルムがペコペコと謝罪をしていた、しかし見るからに上っ面だけの謝罪である。
ルティの怒鳴り声の内容を聞いてツムギは何となく今現在起こっている事態の把握は概ねできた。
見張りをしていたヴィルヘルムが酒を飲んで見張り役の最中に寝てしまったようだ。
「ヴィルヘルムさんも反省しているようですし」
ルティの怒りを収めようとフランがルティを宥める、その後ろで見るからにダルそうに隠し持っていた酒瓶をヴィルヘルムはぐびりと1口飲んだ。
その姿が火に油を注いだのだろう、ルティの怒鳴り声の混じった説教は更にヒートアップした。
「アンタは何で今の状況で酒なんて飲んでんのよ」
「いや~、説教が長いからシラフで聞くのが苦痛でついね」
怒るルティに悪びれることなく開き直り始めたヴィルヘルム。
ツムギは何時も通りの光景を見て何故かホッとした、先ほどまで見ていた妙な夢の原因はヴィルヘルムの謝っていた声のせいで見た何の意味も無いただの夢であったのだろうとツムギは納得した。
しかし、ツムギは夢の中で謝り続けていた女の子の声を現実で聞くことになる。それは全ての戦いが終わったその時に。




