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第7章 7=9 最後の分岐点

このエピソードは元勇者視点です

 ユウトは選択を出来ずにいた。

 クルミの娘であるセイラを殺したくない、殺すなどできようハズもない。しかし、魔女に反旗をひるがえすわけにはいかない。

 反旗を翻したことを魔女に悟られれば自分の復讐が、歴代の勇者たちが積み上げてきたことが、全てが瓦解する。

 復讐と目の前の少女の命を天秤にかけ、ユウトは決断出来ないでいた。


 「この少女は魔女様の役に立ちたいと、魔女様の下僕になりたいと言うので連れてきた」


 ユウトは咄嗟とっさに出任せを口にした。

 何とかこの場を乗り切れれば、そんな淡い期待のユウトを目の前の魔人は一蹴した。


 「残念ながら魔人殿、その小さな人間は殺すように魔女様は仰っております。

  魔人殿がらないなら私が、ただ殺すのは勿体無いので美味しく頂きましょうか」


 魔女の側近の魔物がセイラに近づこうとするのをユウトは間に割って入って阻んだ。

 その時に襲撃した村の方からユウトが引き連れた魔物たちがこちらに向かって来る、村を殲滅せんめつし終えた魔物たちがユウトの場所へと戻ってきてしまったのだ。

 ユウトが連れた十数人の魔物と魔女の側近である魔物を前にユウトは歯を食いしばって事態が好転するための方法を思考した、しかし現状を打開する策が都合よく浮かぶハズもなかった。


 「まだ人間が居るじゃねえか、まだ遊び足りなかったから丁度いい玩具おもちゃだぜ」


 十数人の中の魔物の1人がセイラに目を付けると不気味に顔を歪めて愉悦ゆえつした。

 その姿を見たセイラが再びユウトの方に震えて身を寄せた。


 (俺は、俺は…)


 ユウトは心で葛藤する。しかし、思考をする時間は残されてはいなかった。

 先ほど顔を歪ませて喋っていた魔物がセイラに手を伸ばした、それを見たユウトは考えるよりも先に体が動いていた。

 セイラへと伸ばした魔物の手を切り飛ばすために動いたハズのユウトの剣、しかしユウトの思いとは裏腹に剣は別の方向へと動いた。


 「えっ!?」


 セイラは状況が分からずに目を丸くして声が出た。

 ユウトの剣は魔物ではなくセイラの小さな体へと突き刺さった。

動いたユウト自身何が起こったのか理解出来ずにいた、そんなユウトの脳内に声が響いた。


 (復讐を、復讐をしなくては。邪魔となる者は、全て排除を)


 黒い仮面の中に居る歴代勇者の声がユウトの頭にガンガンと響く、歴代の勇者たちはユウトの体を使って復讐の妨げになる者、セイラを亡き者とするためユウトの体を動かした。

 そんなことを知らない目の前の少女は、自分を剣で貫いたユウトにすがるような目でなお見つめていた。

 ユウトは目の前の少女をガバッと抱擁ほうようすると、少女の耳元でささやいた。


 「大丈夫だ、魔物の目を欺くために仮死状態に、少し眠るだけだから。

  俺は女神様と知り合いなんだ、だからセイラが目を覚ましたら女神様にお願いしよう。

  お母さんとお父さんが生き返るように、セイラが次に目を覚ました時にはまた、家族で

  一緒に居られるから。

  だから、今は少し眠るんだよセイラ」


 ユウトは目の前の少女の頭を優しく撫でた、その間にもユウトは呪いの力で目の前の少女が苦しむことのないように、痛みがないように死へと導いた。

 目の前の少女はユウトの子供騙しな嘘を信じたのだろうか? ただユウトにはセイラが最後に微笑んだ様に見えた。

 それはユウトが望んだ願望が見せた幻だったのだろうか?


 (何が女神だ、何が魔女だ、何が勇者だ)


 ユウトにとって歴代勇者たちは同じ痛みを分かち合う、今のユウトの唯一の仲間だと思っていた。しかし、仲間などではなかった。

 ただ同じ復讐という理由で共に行動をしているだけの存在だった、復讐のために周りを利用し、不幸を振りまく魔女と何も変わりなどない。

 女神も、魔女も、勇者も、この世界も、存在などすべきではない。ユウトの考えは其処へと行きついた。


 (セイラは最後に希望を抱いて眠れたのかな、最後くらいは安らかな気持ちであって欲し

いな。

  女神や魔女や自分を含めた勇者はそんなことは許されない、許しちゃいけない。

  苦痛に顔を歪めて死ぬべきだ)


 ユウトは自分の心がどす黒く濁っていくのを感じた、女神や魔女だけでなくこの世界と歴代の勇者の破滅をも望んで。



 ユウトは知らない、自身では止まれないと思っていた復讐の螺旋から引き返す道が今まで多々あったことを。

 ユウトは知る由もない、セイラとの出会いがその選択肢の最後であったことを。

 そして、最後の選択を誤ったユウトの運命はこの時終わりへと続く道を決定付けた。




~~~同時刻、魔女の住まう居城にて~~~


 「まさか自分の手で殺すとはな、実に面白い見世物であったわ」


 魔女は何時も腰を下ろす玉座へ座り、1人愉快そうに笑っていた。

 ユウトが少女を抱きしめる場面を見た魔女は、自身が座る玉座の肘掛けをバシバシと叩いて腹を抱えて笑っていた。


 「実に残念じゃ、アヤツが仮面を付けていなければ悲痛に歪む顔を拝めたというのに」


 魔女は残念そうに独り言をこぼした。

 魔女にとって人間の絶望した様が、悲痛に打ちひしがれる様子を見ることが何よりの娯楽であった。


 「アヤツがもう1人の黒い仮面の魔人の正体を知ったらどんな顔をするじゃろうか?

  考えただけで興奮してしまうのう、その時は是非、仮面の下の表情を直にみたいものじ

ゃな」


 魔女は自身の唇を舌で舐める、唇は舌の唾液でイヤらしく光を反射した。

 しかし魔女は知らない、ユウトが少女を殺したのは自分の意志ではなく黒い仮面の中の歴代勇者であったことを。

 そして、黒い仮面の中に潜む歴代勇者の存在が魔女自身の明暗を分けることを。

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