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第7章 7=8 忘れ形見

このエピソードは元勇者視点です

 ユウトは自分の目を疑った、自分の目の前の少女はクルミに似ていたのである。

 ユウトは異世界アヴェルトに再び戻ってきた時に出会った老婆の話を思い出した。記憶を失ったクルミには夫と、そして子供が、娘が居ると言っていた。


 「お前の名前は? 両親はどうした?」


 「私の名前はセイラです。両親は私が小さい時に盗賊が家に押し入った時に殺されたと聞

いてます」


ユウトは仮面の下で嫌な汗をいた、ユウトは恐る恐る両親の名前を少女、セイラに尋ねた。

 セイラは父親と母親の名前を答えた。両方ともユウトが聞いたことの無い名前であった、しかしセイラの母親は父親と出会う前の記憶を失っていたらしく、父親と会う前の母親の本当の名前は分からないと答えた。


 「大丈夫ですか?」


 ユウトの異変に気付いたセイラはユウトの身を案じて手を伸ばした。

しかしユウトはその手を払いのけた、セイラはその場から後退りをした。黒い仮面の下から覗くユウトの目に恐怖を感じて。


 (自分とは違う誰かと結ばれて生まれた子供、目の前の少女が、自分は憎い)


 ユウトの中で黒い感情が渦巻いた、何も知らぬであろう年端もいかぬ少女に憎しみを抱く自分をユウトは恥じた。それでも黒い感情は消えない。ユウトは目の前の少女に手を伸ばした。


 「きゃあっ」


 セイラは自身の身の危険を感じた、自分が両親の話をした時から目の前の黒い仮面を付けた男の様子が変わったのが何となく分かった。

 セイラは身をかがめて防御の体制を取った。

 そんな身を屈めた少女の腕をユウトは掴み引っ張った。


 「逃げるぞ、此処に隠れていても見つかる可能性がある。

  魔物共が居ない手薄な場所から村を脱出する」


 「助けて、くれるんですか?」


 ユウトはクルミの娘であるセイラを助けることにした。が、それは人助けからくる精神ではなく、贖罪しょくざいのための行動であった。

 自分がクルミを巻き込んだ罪の清算をこれでできるなどユウトは思っていなかった、それでも多少でも彼女を巻き込んだ罪を償えるのであれば、そんな考えからユウトは行動に出た。


 「どうして助けてくれるんですか?」


 「お前の母親に借りがあったんでな、その借りを返す相手が居なくなったから代わりにお

前に返そうというだけだ」


 少女の質問にユウトは素っ気無く答えた。

 ユウトは少女を連れて村の出入口付近まで辿り着いた、魔物たちの配置を知っているユウトには難しいことではなかった。

 そして此処から先は魔物は居ないことをユウトは知っている、ユウトは少女に別れを告げることにした。


 「此処から向こうの方角に進めば村がある、悪いが俺は一緒に行ってやることは出来ない。

  俺が居なくなれば奴らは俺を捜索する、そうしたらお前まで見つかる可能性がある」


 ユウトは少女にそう言うと南東の方角を指差した。

 ユウトは自分が持っていた僅かな食料と、高価な装飾品を少女へと渡した。別の村に着いたら装飾品を売って、少女の当面の生活にするように伝えた。

 この先にもう魔物は居ない、村を襲っている魔物がこちらの方向に来る者がいるならばユウトが足止めをするつもりであった。

セイラの、人間の姿さえ目撃されなければ事態は万事上手くいく、そう考えていた次の瞬間にユウトの期待を裏切られることが起きた。


 「何で、魔物が此処に」


 ユウトはその場に凍りついた、ユウトの眼前の方向から見慣れない人型の魔物がこちらに向かってきた。

 ユウトが連れてきた魔物たちの中には居なかった魔物が何故こんなところに居るのか、そんな疑問がユウトの頭に浮かんだがそれよりもセイラを目撃された以上目の前の魔物を殺さなくては、そう考えたユウトは剣に手を伸ばした。

 しかし剣に伸ばした手の動きを止めた、魔女がユウトを監視していることにユウトは気付いた。


 (何故、こんな時に魔女の監視が)


 ユウトは目で何とか捉えることのできる極小の魔物を見つけると歯嚙みした、魔女が監視のために使うその極小の魔物が見た映像はそのまま魔女も見ることができた。

 魔女が監視に使うその魔物は目視での発見は難しかった、そのため監視の魔物が出す独特の羽音を、耳を澄まして聞くことでユウトは今まで魔女の監視の有無を図っていた。

歴代の勇者たちが女神と魔女を出し抜くために集めた情報の1つである。

 先ほどまでは確かに監視はされていなかったハズだった、あと少しというところで窮地に立たされたユウトは狼狽した。


 「これはこれは、我らが魔人殿、このような所で奇遇ですな」


 目の前の魔物は白々しい口調でユウトに挨拶をした。

 

 (奴は魔女の側近の1人だ)


 黒い仮面の中の歴代勇者の1人がユウトの脳に語り掛けた。

 歴代勇者の中に目の前の魔物を知っている者が居た、魔女の側近と聞いたユウトには目の前の魔物が偶然に居合わせたなど思えなかった。

 魔女の側近であるなら魔女の命令でこの場に居るのであろう、その目的を考えた時にユウトはチラリと自分の横に居る少女に視線を移した。


 「おやおや、我らが魔人殿の横に居るのは人間ではないですか。

  実に旨そうですな」


 目の前の人型の魔物はそう言うと口が大きく裂け、裂けた口から長い舌で舌なめずりをした。

 そのおぞましい魔物の姿にセイラは小さく震えてユウトに身を寄せた。


 (クソがっ、運命の女神のイタズラか。はたまたこれも魔女の呪いだとでもいうのか?)


 ユウトは心の中で毒づく。

 そしてユウトは2択が迫られた、かつて愛した女性の忘れ形見を、守るのか?

それとも殺すのか?


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