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第7章 7=7 もしも

このエピソードは元勇者視点です

 ユウトは眠りから覚めるとゆっくりとまぶたを開けた。

 眠りから覚める時にユウトは何時も淡い期待を抱く、今までのことが全て悪い夢ではないかと。

 しかし周りを見渡し、自分が付けている黒い仮面に手で触れて夢ではなかったことに落胆する。何度こんな思いを繰り返すのだろうか、自分が幸せな結末を迎える奇跡など起こるハズはないのに、たった1度だけの奇跡を自分はすでに使ってしまったのだから。


 「クルミ」


 ユウトはかつて愛し合ったパートナーの名前を呟いた。

 先ほどまでユウトが見ていた夢はくしくも10年の自分が女神に願いを叶える場面であった。

 もしもあの時、クルミと一緒に居ることを願っていたなら、運命は変わっていたのだろうか?

 そのことを考えない日はなかった。しかし、歴代の勇者の中では愛したパートナーと居ることを選び異世界アヴェルトで生きる道を選んだ勇者も居た。

 その勇者も結局は大切な人を失い、復讐の道へと身を落とした。

 それこそが魔女の呪いなのだろうか? どんな願いをした所で勇者となった者は必ず不幸になった。


 (それでも自分とクルミだったら)


 ユウトは心の中で思った、自分たちなら呪われた運命すらも乗り越えられたのではないかと。

 根拠など何もなかった、それでも愛した人と一緒ならばと淡い幻想をユウトは抱いた。

 もう叶うことは決して無い『もしも』に思いを馳せて。


 動くためには希望が必要である、万が一の希望でも光があるなら足を動かそうと人は思う。

しかし、ユウトにその希望はすでになかった。

 ユウトを動かす原動力は復讐だけであった。呪われた運命に自分を、そしてクルミを巻き込んだ女神へ。

 女神への復讐のために、自分を仲間に引き込むためとクルミの記憶を奪い殺した魔女へ。

 女神と魔女に対する復讐心がユウトを突き動かした。



 ユウトは魔女の命令で魔物を引き連れてとある村の襲撃へとおもむいた。

 村の襲撃は魔物たちによる一方的な虐殺であった、かつて魔女や魔物たちが人間に虐げられていた大昔の意趣返しであろう、魔物たちは喜々として人間を殺していった。

 ユウトは見るに堪えないとばかりに人が居ない方へと魔物たちの群れから離れた。


 「クソがっ」


 ユウトは吐き捨てるように呟いた。

 かつて女神が魔女と魔物を作った理由、それは人間たちの負の感情の憂さ晴らしのためのサンドバッグ的な役割であった。

 魔女と魔物は人間たちに迫害され、なぶられてきた。しかし、その大昔の事実を知る人間は今や居ないであろう。

 それでも魔女と魔物は女神を、そして人間を憎み続けていた。

 ユウトも女神を憎んでいる、そして女神の庇護の下で楽しそう笑う人間も憎かった。それでも年端もいかない子供を嬲る魔物たちには怒りを禁じ得なかった。


 「それでも、俺は…」


 ユウトが今回連れていた魔物の中には魔女とテレパスで声を届ける力を持つ魔物が居た。

 その魔物が居る限り魔物を殺すことは出来ない、連れた魔物全員を殺してもそれが魔女に伝われば全てが終わる。

 魔女から借りた呪いの力を失えば自分は何の力も無い人間になる、復讐を成し遂げる牙を失う訳にはいかない、魔女に媚びへつらい続けなくては。


 (今の自分を見たら、クルミは何と言うであろうか…)


 ユウトは自分が酷く情けなく思えた。

 そんなユウトは小さな家畜小屋に入った、わらが敷き詰められたその小屋に家畜の姿はなかった。

 村の人間の悲鳴や助けを求める声に耳を塞いで全てが終わるのを待った。


 ユウトが魔女に与えられていた役割は引き連れた魔物たちを倒すような人間が居た場合、その人間の排除であった。

 言わば用心棒のような役割である。

 今回の村ではユウトの出番があるような強敵が現れることはなかった。


 「誰だ」


 ユウトは近くで微かに動く気配を感じて咄嗟に声を上げ、戦闘態勢を取った。


 「こっ、ころっ、殺さないでください。

  おっ、お願いします」


 藁の下から震えた泣き声で命乞いをする声が聞こえた。

 声から予想するに女性であろう、それも子供ではないだろうか?


 「チッ」


 ユウトは舌打ちをした。

 自分が何気なく入った小屋に人が、それも子供が隠れていたのだ。

 ユウトは自分が原因で見つかっては寝覚めが悪いとその場を離れようとした、立ち去る前に隠れていた子供に声を掛けに近寄った。


 「このまま隠れていろ、この場所なら見つかる可能性も低いだろうからな」


 「本当ですか?」


 藁の下から10歳前後くらいの少女が顔を出してきた。

 その少女の顔を見てユウトは驚愕した。

 その藁の下に居た少女は自分がかつて愛したパートナーであるクルミに驚くほど似ていたのである。


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