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第7章 7-6 先代勇者の殺し方

 ツムギたちが(正確にはヴィルヘルムとリーナだが)騒ぎを起こした宿から10分程歩いたところで少し先の方からいい匂いが漂ってきた。

 食事にありつく直前で騒ぎが起きたためツムギたちは空腹であった、昼食には少し早いがいい匂いが漂ってきた食堂で食事をしながら先ほどの話の続きをすることにした。


 「それでもう1人の黒い仮面の魔人って何なのよ?」


 食堂の席に着くなりルティはリーナに詰め寄った。

 リーナはそんなルティを適当にあしらって食堂のメニュー表と睨めっこしている、ツムギも今は腹に何か入れたかったので早々と料理を注文した。

 注文をウェイトレスに伝えるとリーナはルティの先ほどの質問に答えた。


 「先代勇者とは別に黒い仮面を付けた奴が現れたらしい、私が直接見たわけではないがな。

  目撃した奴の話では背格好は先代勇者とそこそこ似ていたらしい、まあ同じような格

好をして仮面を付けてれば似てるのも当然だがな」


リーナは冗談でも言うように軽く笑って話した。


 「ただ両者の付けてる黒い仮面は多少違うがな、先代勇者は顔全体を覆う仮面だがもう1

人は顔の上半分を隠すような仮面らしい。

  厄介なのはもう1人の黒仮面の奴もかなりの強さらしいぞ?

  勇者候補の1人が負けた何て噂も流れてるしな」


 リーナの言葉にツムギは耳を疑った。

 勇者候補の1人とは誰のことであろうか?

 その話の詳しい続きをツムギはリーナに聞こうと身を乗り出した、しかしツムギとは別の声が割って入った。


 「お待たせしました~、ご注文の料理で~す」


 タイミングの悪い所でウェイトレスが料理を運んできた。ツムギは料理よりも勇者候補の誰が戦ったのか気になったが、仕方ないので食事をしながらリーナに詳しい話を聞こうとした。


 「食事中は喋るな、黙ってろ」


 リーナは喋り掛けたツムギを睨み付けてキツイ言葉を投げた。

 ツムギは仕方なく食事が終わるのを待った、腹が減っていたのもあってか食事は予想以上に美味しかった。

 しかしツムギが食事を終えてからすでに15分以上の時間が経っていた。ツムギ以外の皆もすでに食べ終わっている、ただ1人リーナを除いてだが。


 「ちょっと何時まで食べてるのよ」


 リーナが5度目の注文をウェイトレスに頼んだ時にルティの怒りが爆発した。

 ツムギは何とかルティをなだめようと頑張った、リーナの機嫌を損なえば情報自体が手に入らなくなることはルティ自身も分かっていたが我慢の限界であった。

 ルティもウェイトレスに追加の注文を頼むとやけ食いを始めた。


 「さて、食事も済んだし先ほどの話の続きに戻るか」


 リーナは7度目に注文した料理を平らげた後に口を開いた。

 3度目の追加注文を無理矢理口に押し込んでテーブルに突っ伏していたルティがガバッと起き上がった。


 「さっさと先代勇者のユウト様ともう1人の黒い仮面の魔人の関係性を教えなさいよ」


 「もう1人の黒仮面の奴は最近現れたんだぞ、私が知るわけないだろ」


 ルティの質問をリーナが一蹴する、ルティは怒りでプルプルと震えていた。


 「じゃあ負けた勇者候補って誰?ソイツは無事なの?」


 ツムギは負けた勇者候補というのはユナでないかと思った。

 勇者候補の中で現在の戦力で1番劣っているのは多分ユナである、ツムギたちと別れた時と同じなら状態ならパートナーであるライオスとの2人旅だ。狙われるとしたら1番可能性は高いであろう。


 「名前までは知らん、分かってるのは髪が赤い男だということだ」


 リーナは余り興味がなさそうに語った。

 勇者候補の中で赤い髪などレオンしか居ない、ユナとライオスが無事であることに安堵はしたが今度はレオンの容態が気になった。

 ユナ以外の2人の勇者候補とは良い関係性を築いたとは言いづらかったツムギであるが、無理矢理に異世界アヴェルトに召喚されて面倒を押し付けられた同じ立場としては、他人事とは思えない。


 「負けたと言っても手強い敵だったので早々と撤退したとのことだ、まともに戦った訳ではないらしい」


 ツムギはリーナの話を聞いてホッとしたが、多少痛い目にあえばあの性格もマシになったかも知れないと少し残念であった。

 結局、新しく現れたもう1人の黒仮面についてはほとんどが分からなかった。リーナ自体が師匠であるセリーヌの仇の先代勇者を追っているので、もう1人の黒仮面には基本的に興味がないようだった。


 「そう言えば先代勇者ってそんなに強いの?」


 ツムギは思い出したように先代勇者についてヴィルヘルムに尋ねた、珍しくヴィルヘルムが弱気な発言をしたのが気になってツムギはその話を聞くタイミングをはかっていた。

 リーナを倒したヴィルヘルムが勝てないような相手ならば、リーナに後れを取った(ツムギ自身負けたとは認めてないが)自分では先代勇者の相手にならないと言うことになってしまう。

 先代勇者とまた剣を交える可能性の有るツムギはそのことが気になっていた。


 「1対1で戦えば異世界アヴェルトで勝て奴は居ないんじゃないかな?」


 ヴィルヘルムは異世界アヴェルトで最強の様に先代勇者を評価した。

 ツムギはヴィルヘルム自身が先代勇者と戦ったことが無いはずなのに何故そこまで評価するのかが疑問であった。


 「何でそんなこと言い切れるんだよ」


 「ツムギ君は導師タウって知ってるよね?」


 知っているも何もツムギたち勇者候補を異世界アヴェルトに召喚した爺さんである(正確には女神の命令で女神の力を媒介しての召喚であるが)、異世界アヴェルトに来てツムギが最初に会った人物である。ツムギはもちろん知っているとヴィルヘルムに答えた。


 「女神と魔女を除けばあの爺さんが異世界アヴェルトで1番強いんだよね、だから爺さんを殺した先代勇者に1対1で勝つのは不可能に近いわけさ」


 「流石ユウト様よね」


ヴィルヘルムの言葉に何故かルティは自慢気に同意した。

ヴィルヘルムの言葉を聞いたツムギは最初にルティが言っていたことを思い出した、導師タウは女神側の最高戦力であると。

 導師タウは見た目も普通であったし、ツムギが異世界アヴェルトに来て早々に殺されたのでツムギはどうにも信じられなかったが本当だったらしい。

しかし今の話を聞いたツムギは疑問が浮かんだ。


 「リーナに仲間って居ないの?もしかして1人で先代勇者と戦うつもりなの?」


 ツムギはリーナに尋ねるとリーナはニヤリと笑った。


 「勝つ勝算も無しに戦うほど私はバカじゃないさ、私1人で先代勇者をる算段があるから奴の足取りを追っている」


 リーナは自身たっぷりに言い切った。

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