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第7章 7-4 残念なパーティー

 ルティとリーナは睨み合い周りの空気がピリピリとしていた。

 ツムギは戦闘にでもなったら大変だと勇気を持って2人の間に入った。


 「あの~、取りえず食事でもしながらお話しません?」


 勇気を振り絞って声を出したツムギに対して2人はキッと睨み付けた。ひと睨みでツムギは蛇に睨まれた蛙のようにその場に硬直した、女性2人のひと睨みでツムギの心はぽっきり折れるとツムギは椅子に座り、テーブルの木目を数える作業に入った。


 「貴様が誰かは知らん、が貴様ごときに私を止められるとでも思っているのか?」


 「アタシもアンタが誰か知らないわ、でもデカイ口叩くと後で恥かくわよ」


 リーナが先に口を開くとすかさずルティが言葉の反撃に出る。

 そんな2人を見かねてフランが2人の間に割って入り事態は少し落ち着きをみせた。その間もツムギはテーブルの木目を数える作業に精を出していた。


 「こちらはリーナ、私と同じお師匠様の下で修業をしていて風の魔法ならお師匠様に引けを取らない程です。

こちらはルティさん、目の前の椅子に座って居るツムギさんのパートナーです」


 フランは2人が自己紹介をしないので代わりに軽い他己紹介をした。

 フランとリーナは一回り近く歳が違いそうだがまるで姉妹か友達のような接し方だ、普段自分たちと接するフランとは違う一面をツムギは見たような気がした。

 そしてフランはリーナにこれまでの旅で得た情報を伝えた、魔女の下僕となっている黒い仮面の魔人が先代勇者であること(リーナは既に自分でその情報は手に入れ知っていたが)。

 そして先代勇者の身の上に起こったことを。

 しかしその話を聞いた後でもリーナの態度は変わることはなかった。


 「先代勇者の戯言など信じれんな、それに万が一その話が事実だとしても奴はかつての仲間を手にかけ、何の罪も無い人間を大勢殺している。

  奴は止めなければならない存在だ」


 「だからって殺す必要が何処にあるのよ」


 リーナの言葉にルティは激昂して大声を出し、テーブルをドンッと強く叩いた。


 「お前たちは既に止めようとして失敗したのだろ?

  それに先代勇者の話が真実ならば、奴は殺されでもしない限り復讐は辞める可能性は低いだろうしな。

  それと先代勇者の暗殺は私だけでなく多くの者に伝達されている、賢人会が決めたことだ」


 ルティはリーナの話を聞いて落胆した。

女神の腹心である導師タウは死に、女神の伝達の役目の巫女であるセリーヌは昏睡状態

である、現在の異世界アヴェルトの最高決定権は賢人会が握っている。

 その賢人会の決定は今や絶対であった。


 「やあ~皆おはよ~、良いベッドだからつい寝すぎちゃったよ」


 ヴィルヘルムがいつも通り遅い起床でツムギたちの居るテーブルへと手を振って歩いて来た、椅子に座り食事と昼前だというのに酒も一緒に注文をした。


 「あれっ、僕ほどじゃないけどこちらの綺麗な女性は誰なの?」


 「こちらは私と同じお師匠様の弟子のリーナです」


 リーナはヴィルヘルムを見ると首を傾げた。


 「お前は男?いや女なのか?」


 リーナが疑問に思うのも仕方なかった、今し方起きてきたヴィルヘルムの服装は男女両方が着れる服装だ、その上ヴィルヘルム自体が男とも女とも取れる顔立ちなので初見の人間は判断に迷うであろう。


 「僕は男だよ、まあ女性より綺麗だから間違えてもしょうがないけどね」


 リーナはヴィルヘルムを一瞥いちべつした、その後ツムギを見てルティを見た。

 リーナはフランの肩に手をポンと置いた。


 「大変だったなフラン、色物のパーティーと旅をすることになって」


 「ちょっと、誰が色物よ。ツムギはともかく私まで色物の枠に入れんじゃないわよ」


 (いや、俺も入れないでくれよ)


 リーナの言葉にルティが抗議の声を上げる、ツムギは口には出さずに心の中で抗議の声を上げた。


 「本当だよ、色物なんて他の2人はともかく僕に失礼だよ」


 (主にお前が色物筆頭なんだよ)


 ヴィルヘルムはぷんぷんと怒ったが、ツムギは声に出さずにツッコミを入れた。

 そんな様子を見てリーナは呆れていた。


 「ナルシストの変態、魔女側に付いた先代勇者の肩を持つ女、そして私にあっさり負けた勇者候補。これだけ残念なパーティーも珍しいがな」


 リーナの言葉を聞いたルティとヴィルヘルムが一斉にツムギに視線を移した。

 ツムギはバツが悪そうにテーブルの木目を数えるフリをした。


 「ツムギ君あっさりと負けたんだ?勇者候補なのに。ぷぷっ」


 「何やってんのよツムギ、あんな女にあっさり負ける何て勇者候補の名が廃るわよ」


 ヴィルヘルムは笑いを堪えながらにやにやとし、ルティは激昂していた。

ツムギはその話が出ないことを祈っていた、大人しく話が終わるのを願ったが祈りは届かず予想した通りツムギは窮地に立たされた。


 「剣を持って行くのを忘れてて、始めから剣があれば遅れを取ったりしなかったよ。多分」


 「戦いに身を置く者が武器の帯刀を忘れるなんて、僕はなさけなくて涙が出そうだよツムギ君」


 (お前なんか帯刀してることの方が少ないくせに)


 ツムギの言い訳にヴィルヘルムが笑いを堪えて涙目である。普段から武器を帯刀しないヴィルヘルムにツムギは心の中でツッコミを入れた。


 「まあツムギ君ごときを基準に評価されたら困るんだよね」


 「そうよ、ツムギが間抜けだから負けただけで実力で負けた訳じゃないわよ」


 何時も意見の合わないルティとヴィルヘルムだがこんな時には息をピッタリと合わせていた。ツムギは声を出して抗議したかった、しかし無駄であることは分かっていたのでテーブルの木目を数える作業に戻った。


 「それに僕たち4人の中でツムギ君は最弱さ」


 「そうよ、ツムギに勝ったくらいでいい気になんじゃないわよ」


 「ツムギさんは十分強いと思いますよ、それに少なくとも私よりは間違いなく」


 ヴィルヘルムがどこぞの四天王のようなセリフを吐くと、ルティもそれに同意しリーナを威嚇する。

 フランはそんな2人の流れに乗らずに冷静に意見を述べた。


 「いいんだよフランちゃん、負けたツムギ君をボロクソ言っとけば少なくとも僕たちはツムギ君より強いと相手も思うだろうからさ」


 ヴィルヘルムはニッコリと笑い、笑顔でフランに言い聞かせた。

 ツムギはヴィルヘルムやルティの言動を見ているとリーナが言う通り、このパーティーのフラン以外は残念な集まりに思えてきた。


 「それに黒い仮面の魔人を暗殺する件は僕にも下されていてね。

  僕よりも弱いであろう君が出来るのかな?」


 ヴィルヘルムはニヤリとわざとらしく笑って見せた。


 「面白い、武器を持っていないようだが言い訳は聞かんぞ」


 「僕を間抜けなツムギ君と一緒に考えない方がいい」


 ヴィルヘルムの挑発にリーナは臨戦態勢を取った。

 ツムギはヴィルヘルムの実力が桁違いなことは知っていた、しかしリーナの人間離れした機敏な動きを体験したツムギとしてはどちらが強いのか判断しかねた。

 とりあえず先ほどの会話を思い出し、器の小さなツムギはヴィルヘルムが負けるように心の中でリーナの応援をすることにした。


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