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第7章 7-2 悪夢

 ツムギは目を開けた。

 しかしツムギは自分が夢の中に居ることが何となく分かった。

 夢のようで夢でないような、現実であるようで現実でないこの不思議な感覚。異世界アヴェルトに来てから見るようになった奇妙な夢だ。


 女神の巫女であるセリーヌが黒い仮面を付けた人物に襲われた時、ツムギが魔物の軍団の囮となる前の晩に見た時、そして魔女が生まれた地と言われていたルーアンの村の近くの家を見て倒れた時に見た不思議な感じの夢だ。


 「あれっ?」


 しかしツムギは妙な違和感を感じた、ツムギは水面に映る自分の姿を見てその理由がようやく分かった。

 今まで見た夢の中で自分は先代勇者のユウトが付けていた黒い仮面を付けていた、しかし今の夢ではツムギは黒い仮面を付けていなかった。通りで視界が今までの夢よりも開けて見えるはずである。


 「あれっ、此処は」


 ツムギは辺りを見回すと見覚えのある景色であった。今までの夢では自分が見たことの無いはずなのに見たことがある、既視感デジャヴの感じる夢であるのに、今回は少し昔に見たことがある景色だ。

 ツムギは横を向くとルティが隣を歩いている、その状況と景色を見てツムギはポンと手を叩いた。


 「最初のスタート地点だ」


 ツムギはがっかりしたような、少し安心したような気持ちになった。

 もしもこの不思議な感覚の夢を誰かが自分に見せているのなら、もしかしたらこの先の旅に何かヒントになるのではと淡い期待を抱いていた。

 しかし異世界アヴェルトに来たばかりの頃の夢を見てツムギは肩透かしを食らった気分であった。

 それでも最初の頃の期待や興奮などを思い出してツムギは顔がほころんだ、ユウトから話を聞かされた今のツムギには、異世界アヴェルトは不安と不信感しかないのだから。


 「オカシイな?」


 今見ている夢と覚えている記憶と細かい所が微妙に違うようにツムギは感じた。

 夢なのだから別に普通なのだろうか?

それとも9ヶ月近い前の記憶などそれほど当てにならないのだから、不思議ではないのだろうか?

 しかし些細とは言えない違いがこの後ツムギの夢の中で起こった。


 ツムギは異世界アヴェルトに訪れてその日のうちに聖都にとどまらずに旅へと出た、しかし夢の中のツムギとルティは聖都に宿を取り、聖都を拠点にして戦いのノウハウを覚えていこうとした。

 それはツムギが異世界アヴェルトに訪れた時にルティに提案された、今までの多くの勇者候補が取ってきた合理的な方法だった。


 「駄目だ、そこに留まったら」


 ツムギは聖都で何が起きたか知っている、先代勇者のユウトが黒い仮面を付けて大勢の魔物を連れて攻め込んで来ることを。

 しかしツムギの声は届かない、ツムギは思い通りに指1つ動かすことはできなかった。

 ツムギは映画を見ている観客の様に、ただ夢の中の自分の視点から出来事を見ていること以外出来ることはなかった。


 その晩の内に黒い仮面を付けたユウトは聖都を襲撃した、導師タウは殺され聖都はボロボロとなった。

 そして最悪なことに黒い仮面を外したユウトを見てルティがユウトの前にその身を晒した。ルティはユウトに説得をこころみるがその試みは失敗に終わり、ユウトの剣でルティは切りつけられた。

 ルティに命の別状は無かったが、この先消えることのない大きな傷跡を心と体に残すこととなった。


 「ヤメロ、やめてくれよ・・・」


 ツムギは夢の中で何度も叫ぶ、がその声は虚しく響くだけであった。



 夢から覚めたツムギの全身は汗でびっしょりと濡れていた。着ていた服だけではなくベッドのシーツまでも大量の汗で濡れてしまった。

 ツムギは着替えてシーツを干しに外へと出ることにした、他の皆はまで寝ているので起こさないように注意を払いながら。

 ツムギが外に出ると太陽は昇り始めたばかりで辺りはまで少し薄暗さを残していた。


 「さてと」


 ツムギは自分のシーツを干すと気分転換に村をぶらつくことにした。

 村の大半の人はまだ寝ているであろうが、チラホラと仕事の準備などの支度をしている人が見受けられた。

 まばらな人の中をツムギは当てもなくぶらつく。


 ツムギは歩きながら自分がさっきまで見ていた夢のことを考えていた、今まで自分が見てきた夢と違って既に起こったことを見たのは何故なのだろうか?

 今の不安な心境が見せた悪夢だったであろうか?

それとも、もしかして自分が異世界アヴェルトに来たときに聖都に留まることを選択していたら、起こっていたかもしれない事なのだろうか?


 「まさかね」


 ツムギはそんな馬鹿な、と思ったが心の中で今朝の夢のことがどうしても頭を離れなかった。

 考え事をしながら歩いていたら泊まっていた宿から大分離れたことに気付いたツムギは、そろそろ戻るかと回れ右をして来た道を戻ろうとした。

 そんな時に前からマントにフードが付いた様な服装の人物が、(顔をフードで隠していて顔は分からないが)手に持っている紙と自分を交互に何度も見ていることにツムギは気付いた。

 ツムギは自分の方に歩いて来る人物を少し不審に思ったが、構わずに来た道を戻ろうとした。


 「もしかして、勇者候補の1人か?」


 不審な人物はツムギに話しかけてきた、声の感じから女性であるようであったがツムギは警戒した。

 魔女側に加担している人間、通称魔人は色々な所にいるから気を付けろというルティの言葉を思い出し、ツムギは万が一に備えて臨戦態勢をとった。


 「あっ」


 ツムギは間抜けな声を出すと何時もあるはずの場所に剣がないことに気付いた、今朝の夢のことで頭が一杯で女神から授かった剣をベッドの横に置いてきたことを今更気付く。


 (剣よ)


 ツムギは心の中で剣を呼ぶと剣は少しのタイムラグ(1~2秒程度の)でツムギの手元へと現れた。

 しかしその1~2秒の間にフードを被った女は7~8mはあったツムギとの距離を一瞬で詰めた。その動きは人間とは思えない程であった。


 「少し聞きたいことがあるだけだ」


 そうフードの女は言う、しかし言葉とは裏腹に女は短剣をツムギの喉に突き付けている体勢であった。

 ツムギは女神の加護のある自分なら短剣で刺されても平気なのではと考えた、そんなツムギの考えを知ってか知らずか、フードの女は言葉を続ける。


 「ちなみにこの短剣には強力な風の魔法を付与している、女神様の加護があろうとも大怪我は必須だぞ」


 「アンタ何者なんだよ?」


 「私のことはどうでもいい、こちらが聞きたいのは黒い仮面を付けた魔人の行方だ」


 突然の出来事にツムギたちの周りで仕事の準備をしていた村人たちは、手を止めて何事かと様子を伺っていた。


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