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第6章 6=8 ユウトの不幸

このエピソードは元勇者視点です。

 先代勇者のユウトはツムギたちとの遭遇から少し後に魔女からの伝令があったため、魔女の居る場所へと帰路の途中であった。


 「あの勇者候補はツムギとかいう名だったか」


 ユウトはどうしてもツムギのことが気にかかっていた。奴にまるで自分のことを見透かされた気分であった。

 そんなハズはない、自分のことを理解できるのは元勇者たちだけのはずだ。女神や魔女とて自分の本心を知るハズはない、ユウトは自分にそう言い聞かせた。


 「元勇者?」


 ユウトは前から抱いていた疑問をふと思い出した。魔女を倒して勇者になった者たちは皆、自分が死んだ後に復讐を見届けるために黒い仮面に自らの人格を植え込んだ。

 しかし、ただ1人だけそうしなかった勇者が居た。未来を予知するちからだけを残して自らの人格を残さず死んだ男、最初にして最強であろう初代勇者。


 初代勇者は何故自らで復讐を見届けなかったのか?

 勇者たちは絶対に許せない存在が2人居た。いや、女神の片棒を担いでいた導師タウを入れたら3人である。

 その復讐を自ら見届けるためだけに、初代勇者以外の勇者は人格を黒い仮面にまで残すことまでしているというのに。ユウト自身も復讐自分で遂げられなければ他の勇者と同じ道を選ぶであろうに。


 この腐った世界での最初の生贄、未来を予知する力を持っていても自分の惨めな人生を予知は出来なかったのだあろうか?

ユウトは無駄なことを考えるのを其処で辞めた、200年近く前に死んだ人間のことなど今更分かるわけなどないのだから。


 「あの村か」


 ユウトは魔女の下に戻る前に魔女からの指令を1つ命じられていた。魔物の進行に抵抗する目障りな村が在り、その村を守る中心人物の暗殺である。

ユウト夜になるのを待ち、魔女の命令に従って目の前の村に侵入すると目的の人物を捜しだして息の根を止めた。

 途中で自分に気付いた者や邪魔する者は呪いで声が出せぬほど弱体化させた、ユウトに取っては難しい任務ではなかった。


 「いやああぁー」


 ユウトは立ち去る時に、自分が息の根を止めた人物に駆け寄って泣き崩れる女性がユウトの目の端に映った。

 あれは恋人?兄妹?それとも妻であろうか。ユウトは魔女の命令で人を殺すことに抵抗は薄くなっていた、見ず知らずの人間が死んでも心が動くことはなかった。

 しかし、自分が殺した人間を見て悲しむ人間を見ると胸が苦しくなるくらいの人間らしさは辛うじてユウトにもあった。


 ユウトは女性の泣き叫ぶ声から逃げるようにその場から走って逃げた。

 自分が殺した人間はあの村を魔物から守っていた中心人物らしい、いずれあの村は魔物たちに滅ぼされるであろう。人間は全員が虐殺されるだろう、先ほど泣き叫んでいた女性も殺される。


 「くそっ、くそっ、くそぅっ」


 ユウトは村から離れるとうずくまって毒づいた、自分のせいで多くの人間が死ぬ。

 今までも何度か魔女の命令で人間を暗殺し、そのせいで滅んだ村もあった。ユウトはそう考えると気が狂いそうであった。

 魔女は邪魔な人間をユウトに暗殺させる1番の理由は、ユウトが本当に信用できるか試すための踏み絵の役割が大きかった。

 ユウトはそれを理解していた、女神への復讐と魔女に願いを叶えて貰うためなら忠実な犬であると魔女に信じさせる必要がユウトにはあったからである。


 「100万人殺せば英雄か」


 1人殺せば殺人者で100万人殺せば英雄などと言った言葉がユウトの頭に浮かんだ。

 実際に100万人を殺したとしても英雄扱いされるのは魔女や、魔物からだけであろう。異世界アヴェルトの人々からは頭のいかれた大量殺人者に他ならぬ。

ユウトは10年前に異世界アヴェルトで共に笑ったり語り合った人の顔を思い出した。その人たちを殺す手伝いを自分はしているのだ、そう考えるとユウトは全てを投げ出してしまいたい、そういう気持ちになった。


 「それでも…俺は…」


 ユウトは自分に昔命を救って貰ったと言った少女のことを思い出した、名は確かルティと呼ばれていただろうか?

 その少女が自分に言った言葉を思い出す、クルミは悪くないのだと、記憶を失っていただけなのだと。その話を聞いた時にユウトは笑いそうになった、自分のパートナーでユウトにとって1番大切な女性。


 クルミが悪くないことなどユウトは知っていた、黒い仮面を付けた時に異世界アヴェルトの隠された真実を知ったのだ。

だからユウトは許すことが出来なかった、クルミが記憶を失ったのは偶然などではなかった。そして盗賊に殺されたことも偶然でなく裏で全て『あの女』が糸を引いていたことをユウトは知った。


 しかし、クルミがそんな不運に巻き込まれた原因はユウトにあった。それを知った時にユウトは絶望に叩き落された。

 クルミが不幸になった理由は1つだけであった、勇者のパートナーであったというたった1つの理由である。ユウトはその時に復讐を誓った、絶対に奴らを許さないと。

全ての発端を作り出した女神を、クルミの記憶を奪い惨殺した『あの女』を、そして勇者などになってしまった自分自身を。

 

人に取っての1番の不幸は何であろうか?

 それは自分の大切な人が自分のせいで不幸となった時ではなかろうか?


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