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第6章 6-5 邂逅する2人

 ツムギたちは日の出と共に村の入口へと集まった。

まだ皆眠気が少し残っているようだったが2人を除いて全員が集まっていた。

 まだ来ていなかったのはルティとヴィルヘルムであった。ヴィルヘルムは分かるがルティがまだ現れていないことにツムギは妙な胸騒ぎがした。

 ツムギは急いでルティが居るはずの部屋へと向かったが、そこはもぬけの殻であった。

 ツムギは急いで皆の下へ戻ると事情を説明してすぐに出発してルティの後を追い掛けようとしたが、ヴィルヘルムがまだ来ていないことに気付きすぐにヴィルヘルムを叩き起こしに向かった。


 「もう少しだけ寝かせてよ~、ちょっと前まで飲んでてさっき寝たところなんだからさ~」


 そんなのん気なことを言っているヴィルヘルムにツムギはルティが部屋に居ないことを告げた。ルティは1人で昨日の晩に先代勇者のユウトが目撃された場所へと向かったことは明白であった。

 ヴィルヘルムも急ぎ支度を終えて他の皆が待つ村の入口に行く、全員が揃いルティの後を追い掛けた。


 「気持ち悪いよ~」


 ヴィルヘルムはまだ酒が大分残っているのか気持ち悪そうに体を横にして死んでいた。

 ツムギたちが村を出てから時間は大分過ぎて太陽は真上へと昇り、一行は軽い休憩を挟んだ。

 ルティが昨夜の夕食後に村を出発してたとするならば、ツムギたちが村を出発してから約半日近い時間差がある。今までのことからルティはかなりのハイペースで進んでいるであろう、ツムギたちが急いだとしてもルティに追い付くことは難しかった。


 「ジャック、先代勇者は自分のことを心配してくれてる女の子に対して危害を加えたりしないよね?」


 「さあな、昔のユウトなら死んでもそんなことはしなかったが、今のアイツは何を考えているのか全くわからねえ」て


 ユウトの望んでいた答えとは別の答えがジャックから返ってきた。

ルティから聞いた話の先代勇者と現在の周りから聞く先代勇者は大きくかけ離れていた、ツムギはルティが心配で仕方なかった。

 ツムギは女神の加護で本来の数倍の力を使える、自分1人ならばルティに追い付くことも可能かもと考えて1人で先行することを提案した。

 しかし戦力を分散することは殆どの者が賛成をしなかった。

 それでも譲らないツムギに対してユナのパートナーのライオスが代案としてパーティーを2つに分けることを提案した。


 「僕はあまりお勧め出来ないけど、仕方ないか」


 ヴィルヘルムはそう言うと横にしていた体を少し起こすと気持ち悪そうに口を手で押さえた、言葉だけでなく他の物が口から出そうになったためである。

 ルティを先行して追うのはツムギとジャックの2人となった。

 フランもルティが心配だったので一緒に行きたかったが、体力的に無理であるため諦めて後から追い掛けることにした。


 「これを持って行ってください。距離が空きすぎると通信出来ないですが」


 フランはそう言うと小さな法螺貝ほらがいのような物をツムギに渡した。

 それには風の魔法が付与されており、言葉を風に乗せて少し遠くの同じ道具を持つ者まで声を届けることが出来るトランシーバーのような物であった。

 ツムギとジャックはルティが向かったと思われる先代勇者の目撃があった辺りの場所へと急いだ。

 ツムギは短い休憩を挟みながらハイペースで進んで行った、力だけでなく体力もツムギ本来が持つ体力よりも多くはなっていたが、無限にあるわけではないので休憩は避けられなかった。


 「くそっ」


 ツムギは弾んだ息を短い休息で整えながら毒づいた。

 馬が手に入ればもっと早くにルティに追い付けるだろうが、異世界アヴェルトで馬は希少なために特別な伝令などでしか使うことを許されていなかった。

 馬を使うための申請だけで何日も時間を要し、許可を出すのはその地区を治める賢人会のメンバーを説得する必要まであるのであった。

 日は傾き夕刻となったがツムギはルティに追い付くことが出来ず夜が差し迫っていた。


 「夜の暗闇で人を1人探すのは容易じゃないがどうする?」


 ジャックに問われたが、ツムギの答えは決まっていた。

 ツムギの様子を見てジャックは小さく、そうか、と言うと捜索を続行した。

 日は完全に沈み、その後も何時間と探したがルティと出会うことは出来なかった。

 ジャックは仮眠を取ることを提案するがツムギは拒んだ、しかしジャックはまた日が昇ればまともな休息を取らずに探し続けるのであるから、夜の今の内に少しでも休めと強く言われてツムギは渋々と承諾して一時間ずつ仮眠を取ることにした。


 「お前はパートナーのことが好きなのか?」


 ジャックに突然予想もしなかったことを尋ねられて、ツムギは慌てた。

 ツムギに取ってルティは大切な存在となっていた、しかし口に出して言うには照れくさく、顔を赤くしてしどろもどろしていた。

 そんなツムギを見てジャックは軽く笑った。


 「お前を見てると昔のユウトを思い出す。少しお前とユウトは似ているのかもな?

  ユウトのパートナーだったクルミはお人好しでおっとりしてて、お前のパートナーとは正反対だけどな」


 ジャックはそう言うと早く休めとツムギに促した。

ツムギはとても眠れる心境ではなかったが、目をつぶり必死に寝ようとした。もしかして夢の中でルティを捜しだすヒントを見るのではないかと淡い期待を抱いて。


 「おい、起きろ、そろそろ行くぞ」


 ジャックに起こされてツムギは目覚めた。

 ツムギの淡い期待はあっけなく裏切られた、期待をしていた夢を見ることは叶わず目を覚ますこととなった。

 ツムギは肝心な時に使えない自分のよくわからない力に腹を立てながら、ルティの捜索を再開した。

 太陽が昇りまた真上に差し掛かっていたが、ルティと出会えずにいた。


 「こっちよ」


 ツムギは声が聞こえたような気がしてそちらを振り向いたが誰も居ない。空耳かと思いツムギは向き直ったが、ツムギが見ていた方向にジャックも視線を移した。

 ジャックは目を細めて遠くを見ている。


 「あれは人か?」


 ジャックの疑問混じりの言葉を聞き、ツムギもさっき空耳が聞こえた方をよく見た。

 しかしツムギには何も見えない、ツムギはジャックに何か見えるのかと尋ねると、ジャックは人か分からないが何かが居るようだと答えた。

 それを聞くとツムギはその方向へと走り出した、ジャックもツムギの後を追う。

 数百メートル走ったとこで黒い仮面を付けた人間が立っていた、その足元に横たわっていたのはルティである。

 それを見たツムギは我を忘れて黒い仮面の魔人へと切りかかった。


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