第5章 5-8 本当に憎いのは?
ユナたちの話によれば黒い仮面の魔人である先代勇者は勇者候補の命を狙って動いているとのことだ。
その1人目にユナは運悪く選ばれたらしい、ジャックはその際タイマンで先代勇者を撃退したがその代償に片腕を失ったとのことだ。
「ホントに先代勇者のユウト様だったんですか?」
ルティは重たい口調でジャックに質問した。
「ああ、間違いなくユウトの奴だった」
ジャックはルティの質問に淡々と答えた。
しかしルティは納得できないとジャックに再び質問を繰り返した。
「ユウト様本人だとしても魔女に操られていた可能性はあったんじゃないんですか?」
「絶対とは言えないが操られていたようには見えなかった、魔女に操られていた人間を見たことがあるが大抵感情が無い人形みたいになるんでな」
ジャックの言葉はルティには信じられない、信じたくないものであった。
ルティにしてみれば当然である、自分の尊敬する、親愛なる人物が魔女の下僕となり多くの人間を殺しているのだから。
ジャックは更に先代勇者のユウトと戦った時のことを話した。
「ユウトの奴は復讐だと言ってたな、愛する人間に裏切られた、自分は10年前の失敗をやり直すだとかな」
ジャックはユウトが愛していたといえばユウトのパートナーのクルミが思い出された。
偶然かにしては出来過ぎだが丁度その時、行方不明であったクルミの情報が舞い込みこのルーアンの村にジャックたちはやってきた。
ジャックたちが情報収集をしているとルティたちも自分たちと同じく情報収集をしていたため、情報を交換してユウトが何故魔女側に付いたのか想像することができた。
「今ある情報を整理すると、先代勇者のユウトさんは再び異世界に戻ってきてパートナーのクルミさんが昔の約束をたがえて別の方と結ばれた。
それに絶望したユウトさんは魔女に忠誠を誓い今度は魔女に自分の願いを叶えて貰おうとしていると」
フランが情報をまとめて皆に説明した。
「そしてユウトさんのパートナーのクルミさんはユウトさんとの約束をたがえた訳ではなく、クルミさんは記憶を失っていたので他の方と結ばれて家庭を築いてしまったと」
フランはルーアンの村の近くで出会った初老の女性から得た情報を付け加えて答えを導いた。
他の人間も得た情報を加味すればフランがまとめた答えであろうと納得した。
「じゃあユウト様の誤解を解きましょ、かつてたった1つの願い事を異世界のために使ってくれたような人なんだから誤解を解けば女神様のためにまた魔女を倒してくれるハズよ」
「そうかな?
本当に魔女が願いを叶えるかは別として、もう一度やり直すチャンスがあるなら僕は魔女だろうと何だろうと僅かな可能性に縋りたいけどね」
ルティの発言にヴィルヘルムは否定の意見を述べた。
「アンタと一緒にしないでよ!
ユウト様は自分がどんなに傷だらけになっても他の誰かを守るために戦ってた人なのよ、そんな優しい人なのよ」
ルティは唇を噛み締めて涙が流れるのを必死に堪えて言った。
そんなルティを見て誰も否定の言葉は口にしなかった。
他の皆はフランが導いた答えに納得していたがツムギだけは違った、先代勇者のユウトは本当に自分のパートナーを憎んでいるのだろうか?
ツムギの中に自分ではないような誰かの感情が胸を満たした。
(本当に憎いのは……)
ツムギは自分の中の何かが囁いたような気がした。




