第5章 5-6 先代勇者のパートナー
ルーアンの村に着いたツムギの足はピタリと止まった。
ツムギの様子が少し変であることに気付いた他の3人がツムギの方に視線を向ける。
ツムギは大きく深呼吸すると足を無理矢理動かした。
しかしルーアンの村は小さく住む人間は十数人程度しか住んでおらずあっという間にルーアンの村の探索は終わってしまった。
「本当に此処がルーアンの村なの?」
「だから廃れた村だって言ったじゃない」
ツムギの疑問にルティがアッサリとそう答えた。
ツムギは肩透かしを食らった気分であった。ルーアンの村で何か途轍もない何かが待ち受けている予感がしたのだが勘違いであったのかとツムギは胸を撫で下ろした。
ツムギはこのとき自分の服が冷や汗でびっしょりと濡れていることに気付いた。
「とりあえずルーアンの村に着いたし今日は此処で休みましょう。情報収集や食料の調達はあまり期待できなそうだけど一応当たってみるわよ」
ルティが行動を決めると他の3人はそれに従った。
宿などの泊まる施設は無かったが親切な村の住人の家に泊まらせて貰えることになった
ツムギたちは久々に屋根のある場所で眠ることができた。
夜が明けて日が昇るとツムギたちはルーアンの村にこれ以上留まる理由がなかったので次の場所を目指して出発することにした。
「何もなかったね、美味しい特産品も珍しい観光名所も」
ヴィルヘルムは残念そうに言った。
「アンタね、私たちはノンビリ観光旅行してるんじゃないわよ」
ヴィルヘルムの発言にルティはイライラした口調で釘を刺した。
ツムギはそんな2人のやり取りを聞いていて少しホッとしていた、ルーアンの村にたどり着いたら今までの全てが壊れてしまいそうな不安感に襲われていたのが嘘のようである。
ルーアンの村から出発してから少しして初老の女性 (60~70歳くらいであろうか)とすれ違い言葉を交わした。
「おや珍しい、この辺で旅人と出会うなんて半年ぶりかしらね」
初老の女性はそう言うと半年近く前に出会った男の話を始めた。
その男はこの先の離れた所に住む夫婦の話を聞くと急に取り乱しその場から駆け出した、その夫婦と知り合いだったのかその男は酷く動揺していたらしい。
「なかなかのハンサムな男だったから私がもう少し若ければお近づきになったんだけどね」
初老の女性は笑いながら冗談半分でそんなことを言うと、その夫婦の一家と仲が良かったらしく夫婦の一家が描かれた(夫と妻と娘の)絵を取り出しツムギたちに渡した。
ツムギはその一家の絵を見たが幸せそうなごく普通の一家に見えた。
しかし、その絵を見たルティは驚きの声を上げた。
「嘘、何でクルミ様が?」
ルティの言葉にツムギは自分の記憶を辿った。何処かで聞いた気がする名前だが思い出せない。
ルティはその一家の知り合いなのだろうか?
ツムギはルティに尋ねた。
「クルミ・エルフリーデ、先代勇者のユウト様のパートナーよ。
ユウト様が魔女を倒した後、暫くして行方不明になったの」
先代勇者とそのパートナーは仲睦まじかったとルティから聞いていたツムギは少し寂しい気持ちにさせられた。
異世界に呼ばれた勇者候補たちは魔女を倒したら元の世界に強制的に戻されるらしい、離れ離れになれば別の誰かと結ばれて当然のことかもしれない。
魔女を倒せばツムギは元の世界に戻れる、しかしルティにもう会うことは出来ずにルティは他の誰かと結ばれるのであろうか、ツムギはそう思うと胸が締め付けられる思いであった。
「その奥さんの名前はクルミっていうのかい?
10年近く前にこの辺で記憶喪失で見つかってね、自分の名前すら憶えてなかったのよ」
初老の女性はそう言うと昔を思い出すように少し遠い目をした。
「クルミ様は記憶をまだ取り戻せてないんですか?今は何処に?」
ルティはそう問い詰めたが初老の女性は少し口ごもると、重そうに口を開いた。
「4~5年前に盗賊に襲われて殺されたよ、一家全員ね。
結局奥さんの記憶は戻らなかったけど幸せそうだったよ、家族に囲まれてね」
ルティは肩を落として見るからに落胆していた。
するとツムギは突然と駆け出した、初老の女性の話を聞いてツムギは何かを思いだしたかのように走り始めた。
ツムギの突然の行動に仲間の3人は茫然としていたが、我に返りツムギを追いかけた。
「ちょっと~、ツムギ君何処に行くんだよー」
ヴィルヘルムはそう叫ぶがツムギの耳には届かない、ツムギは風のように駆けて行った。
ツムギは暫く走るととある場所で足を止めた、其処には何もない。しかしツムギは何も無い一点をジッと見つめていた。
ツムギは何処からか声が聞こえた気がした。
「これは復讐だ」
ツムギはその声を聴くと苦しくなり目の前が急に暗くなった、そして固い地面へと倒れた。




