第5章 5-5 女神が持つ様々な顔
ツムギ一行は南南西へと進路を取ってから1週間ほどの時間が過ぎ、ようやくルーアンの村へと残り僅かの距離にまで来た。
旅の途中で魔物と戦うこともあった、やはり魔女の居る地へと近づくほどに魔物たちは屈強になっていた。それでもヴィルヘルムの加入により戦いで苦戦らしい苦戦をすることはなかった。
ツムギも戦いの経験を積んで最初と比べたら驚くほど強くなった、ルティも勇者候補のパートナーとなるために今まで導師タウの下で修練を積んだ強者だ、フランの魔法も強力だ。それでも3人の力とヴィルヘルムの力の差は頭1つ分も2つ分もの差があることは否めなかった。
「なんで他の世界から勇者候補を呼ぶ必要があるんだろ?」
ツムギは独り言をポツリと呟いた。
「何か言った?」
「いや、何で女神様は他の世界から人を呼ぶ必要があるのかなって?
異世界に居る実力者に女神様の加護を与えた方がずっと楽に魔女を倒せるんじゃない かなって?」
ルティに独り言を聞かれたのでツムギは他の3人にも聞こえるように質問をした。
「何か理由があるんじゃないの?
まあ女神様のすることなんだから間違いはないわよ」
「そうですよ」
ツムギの問いにルティが答えるとフランもルティに同意した。
異世界の人間でないツムギには理解は出来なかったが、女神は異世界の神様なのだから異世界の人間が信頼するのも当然なのだろうと思った。
しかしヴィルヘルムはツムギにだけ聞こえるようにボソッと喋った。
「たとえ女神様が異世界の人間を多く殺そうとも、異世界の人間の半数以上は必要なことなのだろうと納得すると思うよ」
ヴィルヘルムのたとえ話にツムギはドキリとした。
ヴィルヘルムは前に歩くルティとフランとの距離は少し開けてツムギに問いかけた。
「異世界の女神至上主義に他の世界から来たツムギ君にはどう見えるのかと思ってね」
ツムギはヴィルヘルムの質問の意図に考えを巡らした。
もしも自分が女神を悪く言えば良からぬ疑惑を持たれるのではないかと。
「安心してよ、女神様を批判したからって賢人会の連中に報告したりしないからさ。
異世界の大半の人間は女神様は何一つ間違いを犯さないと考えてるのが納得できなくてね」
ヴィルヘルムの言葉はツムギにとっては意外であった。
ヴィルヘルムは異世界で剣聖などと呼ばれている存在だからてっきり女神を信仰していると思っていた。
「意外そうにしてるね、賢人会のメンバーも剣聖も女神の巫女も全部女神様の神託によって決められるだ。でもそんな権力を突然与えられたら私利私欲に走る人間も出てくるのが普通さ」
ヴィルヘルムが何を言いたいのか分からなかったのでツムギは黙って話を聞き続けた。
「先代の剣聖は偶々僕の父親だったんだ、剣聖に選ばれるのは血縁とかは関係ないから偶然なんだけどね。
僕の父は才能があるとは言えなかったけど真面目でね、剣の修練は欠かしたことはなかった。
剣聖に選ばれてから父が剣を振るうのは自分の都合を押し通すための暴力でしか振るわなくなってしまってね。」
ヴィルヘルムはそこまで話すと少し黙ってしまった。
そして再び話を始めた。
「父は好き勝手に生きるようになって暫くして、不慮の事故で命を落としたんだ。
父の死を悲しむ者はいなかったけど喜んだ人間は大勢いた。
父が死んでから暫くして僕が剣聖に選ばれた、それから知ったことだけど権力におぼれて私利私欲に走った者の多くは不慮の事故で死んでるんだ」
ヴィルヘルムは偶然ではないと思っていた。
ヴィルヘルムが女神に不信感を持っているようにツムギには聞こえた。
「異世界では女神様が間違いを起こせばそれは闇から闇に葬られるようにできている。 それが正しいのか僕には分からないけど真実が知りたいんだ。
立場的に勝手に動き回ることができなくてね、ツムギ君の旅に同行できたことは感謝してるよ」
ヴィルヘルムは言いたいことを言い終えたのか、話を終わらして足を速めた。
「何やってんのよアンタたち~、ルーアンの村が見えたわよ~」
ヴィルヘルムと話をしていて前を歩くルティたちと距離が離れていたのでツムギも慌てて前を行くルティたちを走って追いかけた。
ツムギは異世界で女神を信仰する者、不信感を持つ者、魔女のように敵意を持つ者と色々いることを知ったが自分は女神をどう思っているのだろうと疑問に思った。




