第1章 1-2 勇者の卵
導師タウの話を聞いて大体の内容は理解した。この異世界は女神が納めていて平和である。そこに魔女と言う悪者が、悪魔や魔獣(総称して魔物と言うらしいが)などといった手下を連れて異世界を滅ぼそうとしているのである。
その魔女を倒す為に他の世界の人間を異世界に呼んだらしい。そして呼ばれた人間は勇者候補、つまり勇者の卵であり、魔女を倒すことが出来た者だけを勇者と呼ぶそうだ。
魔女を倒した勇者には一つ願いを叶えることが出来るらしい。
そして魔女を倒さなければ元の世界に帰ることは出来ないそうだ。
話を聞く限り王道ファンタジーである。目的は分かっていて、魔女を倒さなくてはいけないのだ。敵を倒すには勿論武器が必要である。
「それでは諸君に女神様が加護を与えた武器を授けよう、この武器でなければ魔女を倒すことは出来ん」
自分の心を読まれたかのように、ナイスタイミングで武器の説明を始めた導師タウ、導師ともなると心を読むことなど容易いのかと、本気で考えてしまう。
ここまで余りにも王道過ぎて少し肩透かしを食らった気分だが、ここでピーンと来た。
ここで変わった武器を手にした奴が最終的に魔女を倒す流れではないだろうか、武器と言ってるのに盾を渡されたりとか。
変な武器を貰えないかとワクワクしている俺に対して、憐れんだ目で見ている導師タウの視線を、俺が気付くことはなかった。
「それでは勇者候補の3人はワシの前に出よ」
導師タウの言葉を聞き間違いたかと思い、尋ねる。
「今3人って聞こえたんですが、6人の聞き間違いですかね?」
導師タウは少し驚いた表情をしたが、すぐに納得をしたように首を縦に振り事情を説明する。
「お主には説明しておらんかったか、今いる6人の中で勇者候補は3人じゃ。残りの3人はこの世界の住人で、魔女を倒す為にお主たちを補佐するパートナーと言ったところじゃよ」
実際の勇者候補は3人と聞き、またもやモチベーションが上がってきた。1/3なら自分が魔女を倒し、勇者に選ばれても不思議ではない。
「ふむ、武器を渡す前に、少しお互いのことを知るために自己紹介を始めると言うのはどうかの?」
導師タウが言い終わるやいなや、デカい声が割って入ってきた。
「おい爺さん、そんな無駄なことやってないで武器を早く寄越せよ。魔女とやらの首を持って来ればどんな願いも叶えてくれるんだよな?」
乱暴な言葉で喋る奴だなと、自分の横の男をチラリと見る。180~190㎝ぐらいは有りそうな身長で、赤く染めた髪をピンと立たせ、シルバーアクセサリーをジャラつかせている。
道端で会ったなら道を開けてしまいたくなる人種だ。もし彼が自分のパートナーならば、旅に出る前に早くも心が挫けそうだと身震いする。
「頼もしい限りだが、物には順序という言葉があるんじゃよ、近藤 礼恩君よ」
隣の怖そうな男はレオンと言うらしい。
レオンのさっき言った言葉を思い出してみると、レオンは武器を寄越せと言っていたことから、俺と同じでここに呼ばれた人間みたいだ。
俺の冒険が始まる前に終わらなくて良かったと安堵した。
「魔女を倒せさえすればいんだよな、邪魔なライバルである他の勇者候補を殺しちゃいけないなんてルールはないんだよなあ?」
レオンの言葉に耳を疑う。
パートナーでないことに安堵したのも束の間、さらに状況が悪くなっている。女神は何を考えてこんな危険な奴を選んだんだよ、と心の中で盛大に突っ込む。
「ふむ、物騒な考えじゃが、禁止はされてないのう」
導師タウは面白い冗談だとばかりに笑って答える。
もう一人の勇者候補と思しき女の子の顔が青ざめている。
異世界に来て、敵と戦ってすらないのに危険を感じるとは、やはり冒険に危険は付き物らしい。まさか、味方側に危険を感じるとは夢にも思わなかったが。




