第5章 5-2 ヴィルヘルムの任務
ツムギたちは魔女が住まう城がある最西端を目指して旅立つことにした。
ルティの話によると魔女の支配する土地は暗黒の地と呼ばれ、異世界全体の二十分の一占めているらしい。
かつては百分の一もなかったが、女神との戦いの度に徐々に魔女はその勢力図を伸ばした。その立役者が黒い仮面を付けた魔人であるらしい。ツムギはふと疑問が浮かんだ。
「魔女と女神の戦いって二百年近く続いてるんだよね?
黒い仮面を付けた奴って人間なの?魔物なの?」
ツムギの質問にルティは困った。ルティ自身が知っていることは魔女に付き従う人類の敵であるということだけであった。
ルティが困っているのを見てフランが助け舟を出す。
「黒い仮面を付けた魔人については殆どが謎に包まれています。ただ現れた時期は初代勇者が魔女を倒した後らしいですが。
それと今までは黒い仮面の下の素顔を見た者はいないと言われていましたが」
フランはチラッとルティの方を見ると中途半端なところで話を辞めてしまった。まるでその先の話をルティには聞かせたくないかのように。
フランが言いにくそうにしている様子を見たヴィルヘルムが言葉を引き継いだ。
「なんでも黒い仮面の下は先代の勇者だったらしいよ」
ヴィルヘルムが言うとルティは鋭い目付きでヴィルヘルムを睨み付けた。
「なんで先代勇者のユウト様が魔女に与するのよ!
それに黒い仮面の魔人は、少なくとも百年以上昔からいるでしょうが」
ルティはそう言うと今にもヴィルヘルムに飛び掛かかりそうな勢いである。
ルティが先代勇者を敬愛していることを知っているフランが言いずらそうしていた理由がツムギにも理解できた。
ヴィルヘルムは最近知り合ったばかりなので知らないのも無理はない、しかし知っていてもヴィルヘルムなら空気を読まず言うのではないかとツムギは思った。
「黒い仮面を付けた奴が同一人物とは限らないでしょ?
仮に複数の人間が黒い仮面を付けてたとしたら可能かもしれないよ?」
ヴィルヘルムがそう言うと、ルティは怒りで顔が引きつっていた。
ツムギは何とか場を落ち着かせようと必死に頭を働かしたが何も思い浮かばない、そもそもそんな噂が何処から出たのか疑問に思いヴィルヘルムに尋ねた。
「今まで黒い仮面の下は誰も見たことないって話だったのに、どうして今回はそんな噂が流れたの?」
「噂の出所は聖都で導師タウ様が殺された時に居合わせた複数の人間が見ているらしいんだ。
複数の人間が目撃したことから見間違いの可能性は低いと思う。ただ魔物の中には顔を変えることができる魔物もいるから、魔女側が動揺をさせるための偽物の可能性の方が可能性は高そうだけどね」
ヴィルヘルム自身も先代勇者の偽物である可能性が高いのを承知していることを知りルティも少し冷静さを取り戻した。
そしてヴィルヘルムはツムギたちの旅に同行するもう1つの理由をツムギたちに説明した。
「僕はツムギ君の監視役を命じられているけど実はもう1つ任務があってね、そっちが最重要の本命の任務なのさ」
「もう1つの任務って?」
ツムギはヴィルヘルムが珍しく真剣な表情をしたので気になって尋ねた。
「黒い仮面の魔人を殺すことさ」
ツムギは一瞬ドキリとした。
夢の中では自分もまた黒い仮面を付けていたことを思い出して。




