第4章 4-9 偶然の出来事
もう1人の勇者候補のユナは呪文を詠唱していた。もう少しで呪文は完成する、ツムギも上手く魔物の群れの注意を引いていた。総指揮を取るために同行していた賢人会の1人であるレクターも胸をなで下ろしていた。
ユナの呪文が完成する直前に何も無かった空間から人に近い形の魔物が空間を切り開き現れた。その人型の魔物は腕のようなものでユナに切りかかった、ユナの服と肉を切り裂いて血が飛び散る。人型の魔物は一撃で決めきれなかったのかもう一度腕のようなものを振りかぶって追撃をかける。
誰も突然の出来事に反応できずにいた、いや、1人だけ反応していた男がいた。ユナのパートナーであるライオスが人型の魔物に向かって行く、しかしユナが呪文に集中するために距離を取っていたことが災いした。間に合わない。
「やめろー」
ライオスは大声で叫ぶが人型の魔物は腕のようなものを振り下ろした、その凶器がユナに届く刹那にどこからか飛んできた剣が人型の魔物に突き刺さる。人型の魔物は声にならぬ声で悲鳴のようなものを上げる、ライオスは風の魔法で自分の剣の切れ味を上げると人型の魔物の首をその剣で刎ねた。
「しっかりしろユナ、大丈夫だ傷は浅い」
ユナのパートナーであるライオスはユナの傍に寄ると必死に声をかけた。
ユナは弱々しく口を開いた。
「ライオスさん、私ね…ライオスさんに伝えたいことがあったの」
「喋っちゃダメだ、後でゆっくり聴くから、まだまだ一緒に旅をしようって言ってたじゃないか」
ライオスは自分の服を破りその服でユナの傷口押さえる。ライオスにはユナしか目に入っていなかった、自分の後ろで首を刎ねたハズの人型の魔物が起き上がったことに。首の無い魔物は最後の力を振り絞りライオスを殺そうとしていた、しかしルティがそれを許さなかった。
「2人の邪魔をしてんじゃないわよ」
ルティは首の無い魔物に剣を突き立てトドメを刺した。
ルティの後ろからフランも走って来た、フランはすぐにユナの治療を開始した。
「頼む、ユナを助けてくれ」
ライオスはフランへと懇願した。
「絶対助けます、女神の巫女セリーヌの弟子の名に懸けて、このフラン・ディスペルが。」
普段頼りないフランであったが打って変わってその目と声には力強い意志が宿っていた。
ルティは護衛の集団に大声で叫んだ。
「アンタたち、ユナと治療中で無防備なフランをしっかり守りなさいよ。ライオス、アンタも2人を体張ってでも守りなさいよ」
「命に代えてもユナには指一本触れさせない」
ルティは今のライオスの言葉をユナに聞かせたら泣いて喜ぶだろうと心の中で思いその場から離れた。
今回の作戦の鍵であるユナが倒れた今ツムギは絶体絶命の状況にある。自分が向かったところで何ができるわけでもない。それでもパートナーである自分は傍にいなくては、そう思いルティはツムギのいる場所へと走り出した。




