第1章 1-1 新たな勇者がやってきた
突然の状況で頭が混乱している、自分は学校から帰ってきて疲れていたので少し仮眠を取ろうと布団で寝ていたはずだ。
目が覚めたら広い草原にいた。夢かと思いベタではあるが頬っぺたをつねった、頬っぺたに痛みが残る。
今度は更に強く頬っぺたをつねる、先ほどよりも更に強い痛みが頬っぺた残るが痛みなどどうでも良かった。目の前の状況が夢ではないことに感動する、よほど手の込んだドッキリでもない限りこれって、やっぱり、
「異世界に来ちゃったんじゃないの~」
自分でも驚くような大声で叫ぶ。仕方がない、だって中学生、高校生が憧れる、いや大人にだって憧れる人はいるであろうシチュエーション。高校生になって間もない自分にはドストライクである。
「ほっほっほっ、元気がいいのう」
年寄りの男の声が突然語りかけてきて驚いた、驚いたが始めからその年寄りは自分の目の前にいたではないか。興奮のあまり視界から外れていたのだ。
人がいることに気づき、先ほど大声で叫んだことを思い出し、恥ずかしくなり苦笑いをしてごまかしてみた。
「初めまして、江西紬君。ようこそ、女神様の作りし異世界へ。」
目の前の年寄りが自分の名前を呼んできた。自己紹介もしてないのに名前を呼ばれたことに驚いたが、年寄りの格好を見て納得をしてしまって。
背は小さく、白い立派な髭は腰まで伸びていて、マントを羽織、手には杖を持っていた。
絵本に出て来るような魔法使いそのものではないか。
「ワシの名は導師タウ、女神様に仕える者じゃ。自己紹介をしたところで、君を異世界になぜ召喚したかの説明をしたいのだがいいかな?」
年寄り、いや、導師タウは自分を召喚したと言った。
魔法使いとは違うらしいが、導師なんて魔法使いの親戚のようなものだろうから、自分の予想は概ね正解みたいなものだろう。
最近ありがちな異世界に呼ばれたが、呼んだ本人が居なくて右も左も分からず彷徨うことにならなくて良かった。まともに洗濯や料理などやったことない自分は間違いなく詰むだろうから。
ただ、王道ならここは、召喚者は美少女であって欲しかった。
まあ目の前に美少女が居たらまともに会話を成立させられるか怪しいんだが、でも仕方ない、今まで彼女居たことないし、クラスの女子とも話すのが精一杯で遊びに出かけたことないし。
自分は頭は良くないし、運動神経は普通だし、顔も普通・・・よりちょっと下くらいか。
改めて思いなおすと、美少女でなくホッとしている自分に悲しさを覚えた。
「とっとと説明を始めてくんねえかな、ずっと待ってんだからよ」
後ろからイラついた若い男の声が聞こえて振り返る、そこには男女5人、男が3人と女の子が2人居た。
「それでは説明を始めようか諸君」
導師タウの言葉を聞いて理解した。
「あっ、異世界に呼ばれたの俺だけじゃないんだ」
自分の全てが人並みか、もしくは少し下回るくらいかと思っていたが、念願の異世界に呼ばれ、運だけはEX級かと思い直したが。運も人並みだったようだ。
異世界の青い空を見上げてポツリと呟いた。




