第4章 4-2 判決
魔女裁判はそこそこに広い部屋の一室で行われた。
ツムギの前には5メートル程度離れた距離で長机を挟んで老人が座っている。その老人は見た目70~80歳くらいであろうか、髪は白く腰は曲がっている。その老人こそが賢人会(賢人会とはルティ曰く、異世界の政策など様々なことを決定する権限を持つ重要機関らしい)の一席を預かるレクターであった。
部屋の一室にはツムギと、少し離れた後ろにルティ、フラン、ヴィルヘルムがいた。ツムギの対面のレクターの近くには護衛?と思しき屈強そうな男が何人か控えていた。
レクターはツムギに問いかけを始めた。
「汝、勇者候補の1人である、ツムギ エニシよ、此度の件の申し開きはあるか?」
「申し開きなんて有るに決まってるでしょ。ふざけんじゃないわよっ」
レクターの問いかけにツムギの少し後ろに座っているルティが声を上げる。
「貴様に発言の許可を出した覚えはないぞ、小娘。勇者候補のパートナーにこの様な者が選ばれるとは実に嘆かわしい」
「勇者候補とそのパートナーは女神様が決めてんのよ、文句があるなら女神様に言ってみなさいよね。このジジイ」
レクターの言葉にカチンときたのかルティが反論する。
「ルティさん、賢人会の1人であるお方にあまり乱暴な言葉遣いはマズいですよ」
ルティの言動にフランは慌ててルティに注意を促した。ヴィルヘルムはその光景を見てケラケラと笑っている。
ツムギは自分の印象が悪くなる前に早いところ誤解を解こうと喋り始めた。
「魔女と内通しているなんて誤解です、自分は魔女と話したこともなければまだ見たことすらないんです。危険を回避したのだって只の偶然ですよ」
「そうよ、そもそも噂話を真に受けて根拠も無いのに勇者候補を魔女裁判にかけるなんてどうかしてるわよ」
ツムギの発言にルティが更に被せてきた。
ルティの言葉を聞いてレクターは重々しく口を開いた。
「最近になって魔物の軍団を討伐する女神側の討伐隊がことごとく裏をかかれて壊滅の憂いにあっておる、まるでこちらの動きや作戦を知っておるかのようにな。
そんなとき、とある名家のご子息から勇者候補の中に未来を予知することができると嘯いている者がおると聞いてな。
こちらの情報を魔女に流し、魔女が攻め込むときには自分は安全な所に避難しているという結論に至ったわけじゃ」
ツムギは情報提供者にピンときた。レオンのパートナーであるギーシュにはめられたのだ。
ルティがレクターに抗議の声をあげた。
「こちらの情報を流すって、ツムギがそんな情報どうやって手に入れたっていうのよ?」
「ふむ、方法は不明じゃ、仮に方法が分かっておったら裁判などでなく問答無用で処刑しておるわ。それで自らの無実を証明できるかな?勇者候補殿」
ツムギは無実の証明のしようがなかった、レクター側は情報をどう仕入れたか不明のままに有罪にしようとし、ツムギはやってもいないことを証明しなければならない。ツムギは相手の無茶苦茶な言い分に憤りを感じイラだった。
「では判決を言い渡す、有罪。と言いたいところではあるが、温情で汚名を雪ぐ機会を勇者候補殿に与えようではないか。よもや断りはしないであろうな?」
ツムギに選択の余地などなかった。納得はいかないが従う他ない。
レクターは無言のツムギに対して構わず話を続けた。
「では重要な任務を言い渡す。と言いたいところだが、この任務に協力してくれるもう1人の勇者候補殿と先に顔合わせを済ますかな」
扉から杖を持った1人の少女が現れた。勇者候補の1人 サイトウ ユナがそこに立っていた。




