第3章 3=13 愚者
このエピソードは元勇者視点です。
ユウトはクロードに語った。10年前、自分がパートナーであるクルミと交わした約束を、10年間自分は変わらずクルミを愛し続けたこと、奇跡的に異世界に戻ってきた自分はクルミに会いに行ったがすでに死んでいたこと、クルミは自分が元の世界に戻った1年後に他の男と結ばれたこと、更に1年後に子供を授かったらしいこと。
話を聞いてクロードは口を開いた。
「10年前に行方不明になったクルミにそんなことがあったんだな。
ユウト、お前の気持ちが分かるとは言わない、でも心が変わることは仕方のないことじゃないのか。」
ユウトは小さくコクリと首を縦に動かすと、小さな声で喋り始めた。
「永遠なんて無いことは知ってる、心が変わることも仕方ない、
でもこれが絵本の中のお話ならば、たった一つの願い事を異世界のために願った俺に、奇跡が起きてハッピーエンドを迎えるのかな。」
クロードはうなだれたユウトに駆け寄ろうとした。
しかしユウトの話はまだ終わっていなかった。
「でも現実は残酷だ、結局俺の手には何も残らなかった。だからさクロード、俺はやり直すことにしたんだ、なんで俺が魔女様に味方したか聞いたな、魔女様は女神を殺せば願いを叶えてくれると約束してくださった。
俺は一度 異世界を救った、なら俺には、異世界を壊す権利があるはずだ。」
クロードはユウトの目に狂気の光を感じた、ユウトは壊れてしまったのかもしれない。ならば自分が止めよう、かつての仲間のために。
2人の剣は再び小さな火花を散らしてぶつかり合う、その間もクロードはユウトを説得しようとした。
「もう止まれユウト、魔女が願いを叶える力を持ってるなんて聞いたこともない、魔女は人の心の弱みに付け込み利用してるだけだ、騙されるな。」
クロードの問いかけにユウトは唇を噛み締める。
「仕方のないことだって、自分が間違っているって、頭では分かってる。それでも心の中の怪物が止められないんだよ。
無抵抗のセリーヌを俺は切ったんだ、たとえ嘘でも魔女にすがるしか俺にはないんだよ。」
ユウトは悲痛な叫びを上げる、クロードは決意して大きく体をねじり剣に反動をつける、隙だらけになろうと構わず剣を大きく振った。勢いのついた剣が狙ったのはユウトが持つ剣である、剣と剣がぶつかり片方の剣が宙に舞う。
「全く、手間かけさせやがって。」
クロードは剣を失ったユウトに対して呆れ顔で言った。
剣をはじかれ丸腰になったユウトは膝を折りその場にしゃがみこむ、クロードは項垂れたユウトに対して言い放った。
「魔女なんかに縋るなよ、俺に縋れ、お前には昔の借りがある。昔ユウトは俺を信じた、だから今度は俺がユウトを信じる番だ。」
「俺は、仲間を、セリーヌをこの手にかけたんだ、もう後戻りなんてできるかよ。」
クロードの言葉にユウトは絶望の混じった表情をして反論をする。
クロードはユウトに手を差し伸べると言った。
「俺が一緒に頭を下げてやるよ、それに言いたかねえがセリーヌはお前のことを許さすだろうさ、アイツにとってお前は今も昔も勇者様だろうからな。
これ以上、魔女を信じて罪を重ねるな。」
ユウトはクロードの胸に飛び込むと、耳元で囁いた。
「魔女を信じたことなんて、ただの一度だってないさ。」
クロードは目を丸くした。ユウトの意外な言葉に、そしてその言葉を聞かされた一瞬後に自分の腹に険を突き立てたユウトに対して。
ユウトは消え入りそうな声で言った。
「馬鹿だなクロード、この世界には信じるに値しない奴がいるんだよ。」
「それでも…俺は…信じ…て………。」
クロードは最後まで言い切ることができずに力尽きた。
剣を突き立てた相手に対しての最後の言葉が信じている、馬鹿だ、大バカ野郎だ。ユウトは心の中で何度も馬頭した。
血塗れで倒れているクロードを見てユウトは呟く。
「信じた結果がコレだ。」
ユウトの手には肉を刺した感触がまだ残っている、血がベットリと付いた自分の手を見てユウトは怒りの混じった口調で言った。
「信じた結果がコレだ。」
ユウトの血に塗れた手に上から水の粒が落ちる。水滴は血と混じることなく地面へと染み込んだ。
空は雲一つない快晴であった。




