第3章 3=11 魔人と魔人
このエピソードは元勇者視点です。
元勇者であるユウトは空を見上げていた。10年前に見た異世界の空はあんなに澄み切っていたのに何故か今は濁って見える。
自分が変わったのか、いや、自分は変わってなどいない。ただこの異世界の真実に触れたことが自分を復讐者に変えたのだ。
「ふっ。」
ユウトは後ろをチラリと見ると軽く笑った。目には見えない程の小さな魔物が自分を監視している、魔女は自分を信用などしていない。そんなことは百も承知だ。
自分は魔女を少しでも信用させる必要がある、そのために必要なことをやらなければ。
しかしユウトの足取りは重い、自分のやろうとしていることを思えば当然かもしれない、それでも止まるわけにはいかないのだ、絶対に復讐しなければならない相手が自分にはいるのだから。
「久しぶりだな。」
ユウトは広い草原で立っている1人の男に声をかけた。
「久しぶりだなユウト、随分と趣味の悪い恰好をするようになったな、まあ今のお前にはお似合いかもしれないがな。」
ユウトが声をかけた男は皮肉たっぷりにユウトにと言葉を返した。
「相変わらず目つきも悪ければ口も悪いな、久しぶりに会う仲間だってのに、なあクロード。」
「久しぶりの仲間を、それも女を切りつけたお前がいえたセリフかよ、ユウト。」
クロードと呼ばれた目つきの悪い男はかつてユウトと共に魔女を倒したパーティーの1人であった。しかし今は怒りで身が震えていて、今にもユウトに切りかかってくる勢いである。
するとユウトは黒い仮面を付け、そして弁明を始めた。
「セリーヌには手を差し伸べたさ、共に魔女様の下にくるならば最高の待遇をするつもりだった、だが女神の巫女として救いを求める人々を見捨てるわけにはいかないとさ。馬鹿な女だ、他人のために自らを犠牲にするなんてな。」
ユウトの言葉を聞き我慢の限界だとばかりにクロードは剣を抜きユウトに突きつけた。
「ユウト、昔のお前は綺麗事ばかり言ってる甘ちゃんでムカつく奴だったが、今のテメエにはヘドが出る、その口をもう開くんじゃねえよ。」
「どうしたクロード、お前も昔は魔女様側の人間だっただろ、魔女様側に付けば金も女も欲しい物は用意してくれるぞ。それともセリーヌを好いていたのか?
確かにいい女になっていたからな、ならば魔女様に頼んで似た女を攫ってくればいいさ、そうしたら好きにできるぞ。」
クロードの怒りは頂点へと達した。
「もう口を開くんじゃねえっつってんだクソ野郎!」
クロードはユウトに躍りかかると剣を真上から振り下ろす、ユウトは自分の剣でそれを受けると剣と剣のキィィィン、という高い音が辺りに響き渡る。
こうしてユウトとクロード、魔人と元魔人の戦いの火蓋が切られた。




