第3章 3-10 大人の階段
ツムギは頭が真っ白になった。これは世にいう逆ナンではないのだろうか、しかも相手は凄い美人ではないか、今日自分は大人への階段を上ってしまうのかだろうか、ツムギは心臓が高鳴った。
そのとき不意にルティの顔が頭を過る、ツムギは立ち止まると相手の手を振り払った。
「すいません、俺には好きな子がいるんです」
ツムギは断腸の思いで誘惑を断ち切る、すると相手の女は腹を抱えて笑い始めた。
「ぷっ、あははは、純情なんだね君は、だけど無理やりにでも僕に付いてきてもらうよツムギ君」
相手はツムギの腕を無理やりに引っ張り強引に引きずって行く、ツムギは振り払おうとしたが相手の力の方か強く抵抗できなかった。
ツムギは人通りの少ない宿屋の部屋に無理やり押し込まれた。
「安心してくれ、痛い思いはさせないから」
ツムギはここまで迫られて拒むのは相手に悪いのではないか、そんな思いがこみ上げてくる。それに相手は美人だ、下心も同時に込み上げてきた。
「おーい、勇者候補君を連れてきたよー」
相手は大声を出すと部屋に1人の老人と、取り巻きのゴツイ男が4~5人部屋に入ってきた。
「そのような恰好をして、剣聖の名を受け継いだ者の自覚が少し足らないのではないか、ヴィルヘルム殿」
老人は金髪美人の女をヴィルヘルムと呼ぶとヴィルヘルムは胸に手をツッコミ何かを取り出す、するとヴィルヘルムの胸は先ほどと打って変わって真っ平になった。
ツムギは色々思い出す、するとヴィルヘルムは美女ではなく美男の疑いが浮上した。嘘だ、そんな訳ない、ツムギは必死に否定する。
一瞬とはいえ自分は男に胸を高鳴らせてルティを裏切ろうとしていた事実にツムギは死にたくなった。
「いやー、この恰好ならツムギ君も素直に付いてきて来ると思ったんですけどね。本当に未来が見えるのか結局力尽くで無理やりに連れてきましたよ」
ヴィルヘルムは笑いながら老人に話しかける、すると老人はしかめっ面で口を開いた。
「未来を見通すなど嘘に決まっておろう、こ奴が今まで危険を回避したのは魔女と通じていたからに決まっておる。勇者候補の身で魔女と通じているなど万死に値するわ。」
自分が魔女に通じている?何故そんな根も葉もない疑いを持たれているのかツムギには全く分からなかった。
「勇者候補、江西紬は魔女に加担した魔人の疑いにより、
魔女裁判にかけることをここに告げる」
ツムギは混乱していた、自分に声をかけてきた美女は実は男でその上自分は魔女と内通している疑いを持たれている。もう訳が分からなかった。
ただ一つ分かることは、ツムギが上ろうとしていた階段は大人への階段ではなく、死刑台へと続く階段であるということだけだった。




