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第3章 3-7 一触即発

 周りは初代勇者の名前にざわめき立ったが、その中で2人だけは取り残されていた。それはツムギとレオンであった。異世界アヴェルトの住人で知らぬ者はいないが、他の世界から呼ばれた2人にはその意味が分からなかった。

 ツムギは隣にいたフランに初代勇者に付いて尋ねた。


 「初代勇者って何?それと初代勇者の力ってのが何なのか聞きたいんだけど。」


 「今までの勇者様は全部で13人、今回は仮にツムギさんが魔女を倒したらツムギさんが14代目勇者様の称号が与えられるわけです。」


 フランは今までの勇者の人数を教えてくれたが、肝心の初代勇者の説明がまだなのでツムギはフランの説明の続きを待った。


 「今までの13人の勇者様の中で最強は誰かと聞かれたら、異世界アヴェルトの人の大半は初代勇者様と答えます。初代勇者様は異世界アヴェルトに来て、ただの1度も負けたことはありませんでした。何故なら未来を予知する力があったからだと伝えられているからなんです」


 フランの説明を聞いてツムギはピンときた、ルティは未来が見える初代勇者の力と、自分が偶々危険を予知した力の事を重ねていっているのだと。

 しかし、自分が聖都を離れようとしたのは何となくだし、巫女セリーヌの事に至っては悪夢を見て気が動転した為に心配になって駆け付けたからである。未来を予知したと言えなくもないが、多少どころか大分話を盛っている。

 ツムギは急いでルティに駆け寄ると小さな声で耳打ちをした。


 「俺にそんな力無いよ、聖都の件やセリーヌさんの件は嫌な感じがしたって程度なんだから」


 ツムギの抗議の声を受けて今度はルティがツムギに耳打ちをした。


 「いいのよ別に、初代勇者様の力だって200年近く昔の話なんだから多少誇張されているはずよ、それにツムギの力も初代勇者様の力と比べると月とスッポンなんて可愛いレベルの差じゃないと思うけど似たような感じの力じゃない。初代勇者の力を受け継ぐ者なんて噂されれば強い仲間がわんさか来るようになるわ。」


 ツムギは話の内容など頭に一つも入らなかった。女の子に耳打ちなど今までの人生で一度もなかったうえに、レオンたちに話を聞かれないようにするため、ルティは体を密着させたのでルティの胸がツムギの腕に当たっていた。ツムギの頭の中はお花畑と化していた。


 「未来予知だ、ハッ、嘘くせえ話だな。」


 レオンは馬鹿にしたように鼻で笑った。


 「ちょっと前に女神の巫女セリーヌ様の危険を予知して私たちが駆け付けたのよ、黒い仮面を付けた魔人をあと一歩のところまで追いつめたんだけどね。」


 ルティは自慢げに話していたが黒い仮面の魔人を追い詰めたどころか対峙すらしていない。そのことを知っている唯一の人物であるツムギの頭の中は未だにお花畑で話など聞いてはいなかった。

 ルティの話を聞いた周りで信じている者は皆無であったがフランが一言付け加えた。


 「セリーヌ様は大怪我をしていました、ツムギさんとルティさんがいち早く駆け付けてくれなかったら命があったか分かりません。セリーヌ様の命の恩人だからこそ私はお二人の旅に同行しているのです。」


 セリーヌの弟子であるフランの発言で周りは懐疑的であるがもしかしたらと思う者が出始めていた。


 「何偉そうに言ってんのよー、アンタが最初に駆け付けないといけない立場でしょうがー。」


 同じセリーヌの弟子であるセシリがフランに罵声を浴びせると、ごめんなさい~、とフランは小さくなってペコペコとセシリに謝った。


 「そうか、そいつはちょっと邪魔だな、俺が勇者様になるのによ。」


 レオンはそう言うと武器を握りツムギに突き付ける。

ツムギはレオンが導師タウに言った言葉を思い出した、勇者候補が勇者候補を殺しても問題はないのかと。

 緊張の空気が辺りに張り詰めた。


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