第3章 3-1 来訪者
ツムギは目覚めるとベットで横になっていた。自分の記憶をたどってみたが、巫女セリーヌが血塗れで倒れていたところから先の記憶が思い出せない。黒い仮面を付けた自分が巫女セリーヌを殺した夢を見て、慌てて巫女セリーヌの下に駆け付けた。
ツムギは何処からが夢で何処からが現実なのか混乱した。もしかしたら異世界に来たこと自体が夢なのではないかとベットから起きて周りを見渡した。その時にガチャっと音をたててドアが開いた。
「あらっ、起きたんだ。」
ドアから見知った顔が入って来たのを見てツムギは胸をなでおろす。異世界に来たのは夢じゃなかった、それよりも、ルティと一緒に旅をしていたことが夢ではなかったことに安心をした自分がいた。
「記憶が混乱しているから確かめたいんだけど、俺たちは巫女であるセリーヌの所に行ったんだよね?」
ツムギは恐る恐るルティに尋ねた。
「私たちはセリーヌ様の所に行ったわよ、そこで血塗れで倒れてるセリーヌ様を見て、あんたもぶっ倒れたのよ。情けないったらないわよね、まあ私もあの現場見た瞬間は少し目まいがしたけどね。」
ルティは無理をして明るい口調で話したが落胆を隠しきれてはいなかった。
ツムギは慰めの言葉を探すが見当たらなかった。それでも何とか言葉を探して口に出した。
「目の前で人が死ぬってのは思ったよりキツイんだね。」
「死んでないわよ。」
「えっ。」
ツムギは驚いてすっとんきょうな声でもう一度聞き返した。
「セリーヌさんは生きてるの?」
「生きてはいるわよ。」
ルティはツムギが気を失った後に何があったのかの説明を始めた。
「ツムギが気を失ったすぐ後に異変に気がついて人が何人かきたの。その中にセリーヌ様の弟子の女性もいてセリーヌ様の傷はすぐに治して命は何とか助かったわ。でも、目を覚ます可能性は限りなく低いわ、呪いをかけられたみたいだからね。」
「呪いって?」
少し間が空いてツムギの問いにルティは答えた。
「呪いは闇の魔法の一種よ。前に話したと思うけど闇の魔法は魔女に与した者しか使えないわ。セリーヌ様の警護をしていた人はほとんどが気を失ってたんだけど、意識を失う前に黒い仮面を付けた奴を見たらしいわ。」
ツムギは夢の中で自分も仮面を付けていたことを思い出してドキリとした。ルティはツムギの変化には気付かず話を続けた。
「黒い仮面を付けた魔人といえば、導師タウ様を殺害した奴と同一人物の可能性が高いわね。」
「それよりも結局セリーヌさんを仲間に出来なかったし、俺たちは次はどうするわけさ?」
ルティは困ったように軽く頭をかいた。
「先代勇者であるユウト様の仲間で居所が分かるのはセリーヌ様ただ一人だけなのよね。」
(仮にも魔女を倒した英雄たちが、一人を除いて居場所が皆分からないってのも凄いな)
ツムギは心の中で呟くだけにとどめてルティの次の言葉を待った。
「仕方ないから旅を続けて強そうな奴がいたら仲間にしましょう。」
計画というにはとても大雑把なプランでツムギは頭が痛くなった。だが、異世界について右も左も分からない自分には、代案などあろうはずもなくルティに付いて行くしかなかった。
女神側の重要な人物は次々と消え、魔女から命を狙われながら当てもなく旅を続けて魔女を倒せるのだろうか、いやむしろ無事に魔女の前まで辿り着くのだろうか。そんな事を考えてまた頭が痛くなった。
ツムギは重い足取りで宿のドアを開けて外へと出た、するとすぐ目の前でとんがり帽子を被った少女が頭を軽く下げて自分たちへと喋りかけてきた。
「どうか私を仲間にして下さい。」




