第2章 2=8 魔人VS巫女
このエピソードは元勇者視点です
二人は対峙して一瞬の沈黙が場を支配した。
「影武者か、本物は何処にいる」
ユウトは対峙した女性に乱暴に尋ねる。
「うふふ、10年振りとはいえ一緒に旅した仲間の顔を忘れるなんてヒドイんじゃなくて」
イタズラっぽくセリーヌは笑い頬を少し膨らませる。
ユウトは対峙した女性を観察した、確かに面影が微かに感じられた。
10年前にセリーヌと別れた時は確かセリーヌの年齢は9歳くらいだったはず、そう考えれば様変わりしていても不思議ではないかとユウトは思い直した。
ユウトが驚くのも無理はなかった。今のセリーヌは姿形だけでなく、喋り方や仕草、そして何より、10年前には平らであった胸が今では女性の中でもかなり大きいと思える部類に入るほど成長していた。
「驚くのも無理はないわよね、私がユウトと旅をしていた時は髪も短かったし、自分のことは僕って呼んでたものね。魔女を倒した功績で女神の巫女なんて大役を押し付けられて、言葉遣いや仕草やら女神の巫女に恥じないようにって厳しく叩き込まれたのよ。
誰かさんの旅に同行なんてしたせいでね」
セリーヌそんなことを言って、またイタズラっぽく笑った。
しかし、ユウトの表情はピクリとも動かなかった。
「セリーヌ。もし、君が女神のために戦わず何処かで静かに暮らすなら見逃そう。しかし、女神側に加担するならかつての仲間であろうと排除する」
ユウトは静かにセリーヌに問い質した。
「導師タウ様を殺したはユウトなの?」
「ああ、女神の忠犬は俺が殺した」
セリーヌの問いにユウトが答える。セリーヌは先ほどまでとは打って変わって、ユウトの声には怒りが籠っているのを感じた
「理由を教えて頂けませんか」
「簡単なことだ、女神に加担する者は誰であろうと殺す」
「私は女神の巫女です。私は魔女によって苦しむ人々がいれば、女神様側の人間として戦います」
セリーヌは強い口調で言うと、ユウトに対し座り直して背を向ける。
「でも、ユウトと戦うこともしません。ユウトが私をどうするか決めて下さい」
ユウトは黒い仮面を付け直しすと、静かに剣を振り上げた。
「私は女神の巫女だから傷ついた人々を救っているわけではありません、ユウトが傷ついた人を救うのを見て、私もそうありたいと願ったからです。
ユウトが私を切るというのならその理由があると私は思います。魔女を倒したから勇者なのではなく、自分の身が危険になろうとも傷ついた人を助ける為に戦うユウトこそが、私にとっては勇者様だったから」
セリーヌは言い終えると満足した顔で目を瞑った。
ユウトは振り上げた剣を振り下ろすことが出来ずにいた。歯を強く噛み締めて剣を振り下ろそうとするが、体か、もしくは心がそれをさせなかった。
(自分は絶対に女神に復讐をすると誓ったはずだ、その為にかつての仲間を殺すことになろうとも)
ユウトは心の中で何度も自分に言い聞かせたが体は動かなかった。
すると黒い仮面からユウトの頭に直接声が響いた、(我らが復讐を止めることは許されぬ)ユウトの意思とは関係なく体が勝手に動き、剣が振り下ろされる。
「逃げろっ」
ユウトが言葉を言い終える前に振り下ろされた剣はセリーヌを切り裂いた。
血まみれで倒れるセリーヌを見てユウトは渇いた笑いを漏らす。
「ハっ、ハハっ、ハーハハハっ、待っていろ女神、俺が、俺たちが受けた以上の苦しみを、絶望を、お前に味わわせてやる」
その日、ユウトの心は人ではなく、誰にも止められない怪物へと変わった。




