第2章 2-6 予知夢
ツムギとルティが女神の巫女の住む村に着いたのは日が落ちて暗闇が辺りを覆う夜になってからであった。すぐに巫女であるセリーヌに会いに足を運んだが、すでに就寝していると警護の者にいわれ追い返されてしまった。
「さて、仕方ないからセリーヌ様への面会は明日もう一度来るしかないわね」
ルティは首を横に振って、やれやれといった態度で近くの宿屋で部屋をとった。
「勇者候補である証を見せても追い返されるって、この世界の勇者候補って立場低くない」
ツムギはルティと宿屋で食事を取りながらルティに不満を口にしていた。
「仕方ないわよ、証が偽物の可能性だってあるし、勇者候補から奪って証を悪用していたなりすまし勇者候補も過去にいたりしたらしいからね。
それでも勇者候補の証を持つ人間とそのパートナーである私がいるんだから明日にはちゃんと面会の場が用意されるわよ」
ルティはツムギに説明を終える。
ツムギの目にはこの街に着いてからルティが少しソワソワとしている用にうかがえた。気のせいかと思ったが、やはりそうとは思えず尋ねることにした。
「ルティ、この街に着いてから少し変じゃない?何かソワソワしてるっていうかさ」
ルティは少し顔を赤くして照れくさそうに理由を説明した。
「セリーヌ様に会うのが楽しみなのよ。過去に先代勇者のユウト様に命を救ってもらったのは話したわよね、セリーヌ様はユウト様のパーティーの一人で共に旅をしてたんだから、ユウト様について勿論いろいろと知っているはずだからユウト様についていろいろと聞きたいのよ」
顔を少し赤らめて話すルティにツムギは苛立ちを覚える。
「この世界を命掛けで救って、何でも叶う願いごとをこの世界のためにするなんてまるで聖人君子だよね。自分は元の世界に戻るっていうのに、俺には理解できないよ」
「そんなお方だから歴代の勇者様の中でも人気が高いのよ。ツムギが理解するなんて無理無理」
ツムギは宿屋の食堂から出て自分のベットに向かう、ルティが先代勇者の話を恋する乙女のように話すのを聞いていると、どうにも虫の居所が悪くなる。
しかし、先代勇者の聖人君子ぶりを聞いているとツムギは疑問に思った。
(先代勇者がもし現在不幸になっていたら、たった一つの願い事を自分とは関係ないこの世界に使ったことを後悔していないだろうか)
そんな事を思いながらツムギは眠りへと落ちていった。
ツムギは夢の中にいた。自分でこれは夢の中なのだなと何となく分かった。
ツムギは自分の視界がいつもより少し悪いことに気付く、まるで仮面か何かを被っているようだ。ツムギは剣を握っていることに気付いた、その剣には真っ赤な血がこびり付いていた。
視線を下に移すと女性が倒れていた、白い服は血で赤く染まり、血で水たまりが出来ている。その水たまりを覗きこむと、黒い仮面を被った自分がいた。
「うわーーーーー」
ツムギはベットから飛び起きた、同じ部屋で寝ていたルティは驚きすぐに目を覚ました。
「突然どうしたのよ」
ルティが心配して尋ねるがツムギは混乱していて答えることが出来ない、しかしベットから飛び出し走り出した、ルティも慌ててツムギの後を追う。
ルティはツムギが何処に向かっているのか途中から気付き始めた、この村に最初に向かった場所だ。巫女であるセリーヌ様のいる建物だ。
ルティはようやくツムギに追いつくと、ツムギは茫然と立ちすくんでいた、ルティはツムギの立っている部屋を覗き込むとそこには女性が血まみれで倒れていた。その女性は巫女であるセリーヌであった。
横でツムギがポツリと呟く声が聞こえた。
「間に合わなかった」




