終章 end-8 ショコラ
フランとセシリの諍いはセリーヌの登場によって何とか終結した。
リーナはある方向を睨むとツカツカと1人の女の子のもとへ歩いた、リーナから隠れるように人混みの影に隠れていたその女の子の耳をリーナは引っ張ってフランたちが居る場所まで引きずってきた。
「何でお前が居るのに2人を止めないんだ、ショコラ」
「いやいや、何で私がフランとセシリの仲裁なんかしないといけないのよ。私は争いごとは見て見ぬふりするのが信条なのに」
リーナが耳を引っ張って連れてきた女の子はショコラという名らしい、そして見た目からは自分と然程変わらぬ年齢だろうとツムギは思った。
ショコラはフランやセシリ、そしてリーナと顔見知りの様である。そのことからツムギはショコラが何者であるか何となく想像がついた。
「セリーヌ様に教えを受けてる姉妹弟子なんだから当然だろ、それに貴様はちゃんとセリーヌ様の仇である先代勇者の奴を捜してるのか?」
リーナはショコラに詰め寄ったがショコラは目を逸らして小さな声で言い訳をした。
「セリーヌ様が負けた相手に私たちが戦っても勝てる見込み無いと思うの。
それに私たちが怪我でもしたらセリーヌ様が悲しむよ、だからセリーヌ様のことは諦めて私たちはノンビリ安全な所でお茶でもするべきだと思うわ」
ショコラの言い分を聞き終えたリーナは拳を握るとショコラの腹へとめり込ませた。
ショコラは体をくの字に曲げて息を詰まらせた、そんなショコラにリーナは顔を近づけて耳に手を当ててもう一度ショコラに尋ねた。
「良く聞こえなかったわね、セリーヌ様の弟子であることを自覚してもう1回言ってくれるかしら」
「わたっ、私はセリーヌ様の為ならたとえ火の中水の中、先代勇者を見つけたら差し違える覚悟で戦う所存です。」
ショコラは腹に強い衝撃を受けたせいか息を詰まらせながらリーナが満足する言葉を口にした。
リーナは満足そうに頷く、そして流石はセリーヌ様の弟子だとショコラの肩をポンポンと叩いた。
「婆あが、魔女との戦いで背中から魔法で火だるまにしてやるから覚えとけよ」
ショコラはリーナが背を向けて自分から離れたのを見計らって小声で毒づいた。
リーナは再び振り向きショコラの方に歩いて行く、ショコラは慌てて冗談であると訴えたがリーナの拳は再びショコラの腹にめり込んだ。
ショコラは膝と頭を地面に着けた、喋っていた最中に腹に強い衝撃を受けたせいか先ほどは体がくの字であったが、今度は先ほどよりも苦しそうに体をへの字にして悶えた。
「先代勇者のことで話があるんだ」
そんな光景をドン引きで見ていたツムギであったが先代勇者の件をリーナに伝えることにした。
先代勇者が崖から落ちて生死不明との話を聞いたリーナは首を横に振った、そしてリーナはツムギに現在のセリーヌの状況を語った。
「セリーヌ様は未だに昏睡状態だ、先代勇者が崖から落ち重傷であるかも知れないが死んではいないのだろうな」
ツムギはリーナからの話を聞いてやはりか、そう思った。先代勇者が崖から落ちる時に見せた表情をツムギは思い出した。
ツムギはもう一度先代勇者と戦う予感がしていた、そして次の戦いが最後であるとツムギは感じた。それはツムギの中の『何者か』がツムギにそう語り掛けていたからである、その何者かの声は日増しに大きくなっていた、断片的に声のほとんどをツムギは聞き取ることは出来なかったが何か重要なことを伝えようとしていることはツムギにも伝わっていた。




