第1章 1-7 虫の知らせ
魔物退治は日が沈み始めるまで続いた。
青くキレイだった青空は少し薄暗くなり、もうすぐ夜が訪れる。
「お疲れ様」
ルティはそう言って俺の肩を叩く。
今日はここまでなのだろう、そう思い剣を鞘へと戻す。
「しばらくは安全な聖都を拠点に魔物退治をして剣のレベルをアップして行こうと思うけどいいわよね?」
異世界のことに詳しくない俺はルティの意見に従おうとした、がその時、頭に何かが一瞬よぎった。
「聖都に戻っちゃダメだ」
ルティは怪訝な顔で俺に説明を求めた。
「最初のうちは聖都を拠点に活動するのは基本よ。
女神様の武器が有るからこの先に進んで行っても問題はないけど、何が起こるか分からないでしょ」
聖都に戻っちゃ行けない。どうしてかと言われても説明は出来ない、しかし予感というよりも確信に近い何かが心に強く訴える。
「聖都は危険な気がするんだ、何でか分からないけど」
ルティはキョトンとした顔をしている。
この異世界で一番安全と説明されたのだから当然だ、しかし俺が固くなに折れないのでルティは仕方なく首を縦に振る。
「ここから一週間もしない所に次の村があるわ。幸い旅に必要な物は揃っているからこのまま目指すことにしましょう。
魔女を一日も早く倒して平和にするに越したことはないしね」
こうして早くも次の村を目指すことにした。
異世界の生活二日目に早くも野宿を体験する羽目になったが、聖都から離れられたことに安堵する。
道中には様々な魔物と戦うことになったが苦戦するような敵は現れなかった。
そうして遂に聖都から出発して五日後が経った頃に次の村に辿り着いた。村に着いた頃には日は沈み暗闇が辺りに広がっていた。
「やっとベットで寝られるー」
魔物との戦闘よりも野宿の際に土の地面で眠る方が体には堪えた。
つい声に出して叫んでしまう、俺とは対照的ルティは平然としている。
「ようやくお風呂に入れるわ。水浴びじゃなくてお風呂に浸からないと気持ち悪いのよね。」
宿を探し夕食を取るやいなや、ルティはすぐに浴槽に向かう旨を伝えて消えてしまう。
俺はベットに倒れこみすぐに深い眠りへと落ちていった。
心地よい睡眠を邪魔するように騒音が聞こえる、外が騒がしい。俺が窓のカーテンを開けると日はすでに昇っており朝を迎えていた。
「大変よ、ツムギ」
ルティは大慌てで部屋に入って来るとまだ寝ぼけている俺の肩を激しく揺さぶった。
こんなに慌てるルティを見るのはこの世界に来て初めてだ、俺は魔物でも襲撃して来たのかと思い、ベットから飛び起き戦闘態勢をとる。
魔物が来る気配はまるでない。
宿の外も混乱はしているが魔物の姿はまるで見かけない、見当違いかと胸をなでおろす。
「魔物に襲撃されたわ」
ルティの言葉に再度剣を構えて周囲を見渡す、しかしルティの言葉の続きを聞き俺は愕然とした。
「聖都シャイナスが魔物に襲撃されたの。信じられないけど、そこで導師タウ様が殺されたらしいわ」
(女神側の最強の魔導士、じゃなかったのかよ。)
「導師タウ様を殺したのは魔女側の黒い仮面をかけた奴らしいわ」
俺の予感は最悪の形で的中したのであった。




