食事の前に
昔は出来たのに、今は出来ないことって有ると思う。
一体何が原因なんだろう。
恥ずかしくなった? 面倒になった? 大人はやらなくて良い?
理由はいろいろ有るかもしれない。でもそれは単なる言い訳にしかならないと思う。
これはそんなはなし――
とある飲食店に僕はいた。店はあんまり広くなく、全席カウンター席のお店だ。
お昼の時間。お店は全席埋まっている。年齢層はバラバラだ。中学生、高校生、社会人がこのカウンターテーブルに座っている。
僕の隣にはちょっと内気そうな高校生が座っていた。
僕は店員の方に注文する。
店員さん、いつもの……。
とは言わない。そんなに頻繁に来るわけでもないし。僕は無難にAセットを注文した。
高校生も注文した。セットではなく、単品。
先に僕の頼んだメニューが運ばれてきた。うん、相変わらず食欲を誘う香りだ。これがマンガやアニメだったら僕のお腹の所に「グー」という効果音が付いていたに違いない。
次に高校生の方にも料理が運ばれてきた。
さて、頂きますか。
僕は備え付けのスプーンを手にとって、料理へダイブ! しようとしたときだった。
「いただきます」
簡潔な一言が聞こえてきた。
誰だ! いただきますと言ったのは!
隣を見る。両手を合わせ料理へ軽く礼。いただきますのポーズだ。
高校生だ。高校生が「いただきます」と言っていたのだ。
僕は驚いた。感心し、関心し、歓心した。
それから、自分に寒心した。
何時からだ。何時から僕は食事の時に「いただきます」と言わなくなったのだろうか。
自覚はない。気が付いたら言わなくなっていた。
周りを見る。中学生、社会人。
中学生達に運ばれてきた。何も言わず食べ始める。
社会人に運ばれてきた。何も言わず食べ始める。
僕は思った。一体どっちが普通なのだろう。
食事の前に「いただきます」というのが普通なのか。
何も言わず、黙々と食べ始めるのが普通なのか。
恐らく、いや、普通は「いただきます」と言って食べるのが当たり前なのだろう。
街頭調査なんてしていないが、殆どの人が「いただきます」といって食べる方が正しいというと思う。
でも、その答えた人に「貴方は食事の前にいただきますと言っていますか?」と質問したらどうなるだろうか。
結構な方が答えに詰まってしまうのではないだろうか。
おっと、そんなことを考えている内に完食。
高校生もちょうど食べ終わったようだ。
では、手を合わせて――、
「「ごちそうさまでした」」
チラッと高校生の方を見る。
目があった。
笑った。