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Pandora Ark Online.  作者: ミッキー・ハウス
守るための刃編
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第54話

ベルゼの大剣が目の前で銀髪の鬼人族に打ち上げられた衝撃は、思ったほど強くはなかった。

しかし、次の瞬間、その体当たりは予想を遥かに超えた威力をもってベルゼの身体を数メートル吹き飛ばす。


視覚と身体感覚のあまりの乖離に、ベルゼの脳は一瞬理解が追いつかない。

だが、鈍痛に呼び覚まされるように条件反射で防御姿勢を取りながら、足に力を込めて滑るように停止した。


「あ、お前……一体どこから……」


震える声で問いかけるベルゼに対し、鬼人族は刀を構え直し、冷ややかな圧力を纏いながら答えた。


「私の質問に答えるのが先だろう」


威圧にたじろぎ、言葉を続けられず黙るベルゼ。

目の前の鬼人族は一瞬、女と見間違えるほど中性的だが、薄い体躯とは裏腹に圧倒的な存在感を放つ。

大剣を打ち上げられ、当身で吹き飛ばされる経験など初めてで、驚愕と恐怖に顔を強ばらせた。


「逆らった奴らに制裁を下していただけだ」


静かながらも鋭い声で告げる鬼人族に対し、ベルゼは嗤う。


「けっ、賊はこの村の連中だ!俺はギルドのA級冒険者。妨害行為なんざ許されん!」


だが、その挑発に冷静に返す鬼人族。


「ならば、状況を第三者に判断させるか?」


そう言うと、軽く腕を上げた。ベルゼが相手を警戒しながら視線を上げると、空中に静かにホバリングする小型ドローン型の記録装置があった。


目にした瞬間、背筋が凍る。

これは単なる映像記録ではない。偽造不可能な証拠の宝庫。過去には国家間の政治決着さえも左右した代物だ。


「……くそ、どうすりゃいい……」


冷や汗が額を伝い、焦りと恐怖に苛まれながらも、ベルゼは虚勢を張る。


「テメェ、俺が誰だと思ってやがる!ベルゼ・ナトリュー!貴族にしてA級冒険者だ!」


しかし、鬼人族は嘲笑う。


「貴族を名乗る割には、ノブレス・オブリージュすら知らんのか」


その言葉にベルゼは青筋を立て、怒りに震える。


「生きていられると思うなよ!」


「そんな些細なことで生死が決まるのか。ホーンボア並みに単純だな」


ホーンボア――初級モンスターの猪突猛進攻撃と同等に扱われ、ベルゼの血が逆流した。


「殺す……ブチ殺してやる!」


怒りのまま大剣を振りかざすが――その剣先は、まるで風のように軽やかにかわされた。

ベルゼは大剣を横に大きく薙いだ。だが、その刃は服にすら触れないほど、紙一重でかわされた。

剣圧は確かに伝わっているのに、鬼人族の身体はまったくブレていない。


何度繰り出しても当たらない。苛立ちが膨らみ、ベルゼは手当たり次第に剣を振り回すようになった。

その無鉄砲さを見透かしたかのように、鬼人族はただ剣を避けるだけだった。


しかし、ふとした瞬間、剣をかわしたと思うや否や、鬼人族は鋭く距離を詰めた。

そのままベルゼの顔面へ柄頭を思い切り叩き込む。


ベルゼはまったく見ていなかった。見えていたとしても、ベルゼの身体能力では避けられなかっただろう。


グシャリ――。


鈍い音が一瞬だけ響き、続けてベルゼの体が吹き飛ばされ、まるでボールのように地面を跳ね回る。

跳ねるたびに装備が砕ける音が周囲に響き渡る。


「は、はひゅ……っ?」


鼻と歯、顔の骨が砕け、顔はぐちゃぐちゃだ。

しかし、あまりに突然の出来事にベルゼは自分の状況を理解できず、ぼんやりとしている。


顎も外れ、口は閉じられない。

外れた顎を戻そうともがき、呻き声を漏らすが、顔面には激痛が走り、鼻からは血が流れて呼吸もままならない。

口からは折れた歯茎から大量の血が溢れ、咳き込み、もがき苦しんだ。


「A級だという割には、こんなものも避けられないのか?」


いつの間にか間近に来ていた鬼人族の冷たい声に、ベルゼはぼんやりと視線を上げる。


そこにあったのは、翅を毟られた羽虫が必死にもがく様を見るような無関心な瞳。


途端に全身が震えた。

高ランクモンスターを目前にした時のように、手足が震え、体を支えきれなくなっていく。


見た目は優男のようでも、彼は鬼人族――戦闘種族だった。


鉄の侵略者との激突から数年、鬼人族はほぼ姿を消し、実力を目にする機会はほとんどなかった。

報告書や伝聞はあっても、貴族や冒険者の大半はその戦闘能力を過小評価していた。

魔法が攻撃手段として強いとされるのは常識であり、そう考える風潮が強いのが人間族である。貴族間では顕著にそう思われていた。


魔法耐性がない種族が、戦闘に秀でているなど誰が信じる?

鉄の侵略者の撃破は、他種族も協力した記録がある。その中で先陣を切ったのが鬼人族であるというだけのことだと、戦場から離れた安全な場所にいた(とうと)き血を自負する者達は「誇張だ」と鼻で笑っていた。


ベルゼもまた、その一人だった。


彼らは希少種族であり、奴隷や娼館で高値がつくだろうとしか思っていなかった。

貴族として増長し、実際の鬼人族の強さを知ろうともせずに生きてきた。


「鬼神の如し――」


かつて聞いた言葉を嘲笑い、退役兵に一蹴されたこともあった。


だが、今、目の前の鬼人族は伝説の一端すら見せていないのに、圧倒的な壁としか感じられない。


敵わない――。


これまでの数年の経験がなくとも、ベルゼはそれをはっきりと悟った。

脱出の望みをかけて魔人を召喚しようと懐に手を伸ばすが、砕けた魔石に理解が及ばない。


「何が……起こっている……」


息が詰まるような苦しさに喘ぎながら、現実を理解するのを拒むベルゼは混乱し続けていた。

【ホーンボア】

PAO序盤のモンスター。

攻撃は猪突猛進のみ。

しかし小回りが利く上に、かなりしつこいのでスタミナ切れで初心者は体当たりを食らった後、突進のままに転がされてマップ外に押し出されるか、HP切れで街に死に戻りしたりと色々歓迎されない初級モンスターだ。

スタミナか回避を上げれば安易に倒せる。

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