007「心奪われる彼女」
気軽にパンク修理とかして貰える、自転車屋さんが減りましたよね
ホームセンターとかで、自転車を安く買えるけど
そこでは、修理は無理な場合が多いし・・・
と、言っても・・・
100均で部品や、修理セットも売ってるから
自分でパンクと、前輪のブレーキくらいなら何とかなるのだけど・・・
「心奪われる彼女」
初めて、彼と帰りの電車が一緒になった。
混み合う電車の中・・・
彼が徐に私を見詰め、優しく笑い抱き寄せてきた
私の鼓動は高鳴った・・・
が、しかし何の事は無い・・・
彼は自分がいた、扉の横のスペースに『転びそうだから』と言って
私を移動させてくれただけなのである
ある意味、凄く嬉しくて幸せな気分を味わえたのだけど
彼は何時も・・・
自分に言い寄って来るまでは「フェミニスト」なのだ
私は「勘違いしちゃ駄目」と、心の中で何度も呟きながら
御礼を言った。
降りる駅に着き、私と彼は雑談をしながら一緒に改札を出る
『自転車置き場、こっちだろ?
俺、買い物して帰るから途中まで一緒に歩こ』
彼の言葉に「深い意味は無い」と言う事を自分に言い聞かせ・・・
私は「一緒にゴハン食べに行かない?」って誘えば良かったって
後悔しながら、彼と喋りながら歩く
スーパーの近くの月極め駐輪場・・・
彼が店に入って行くのを見送り、私は自転車を出す
そして、ある事に気付いて脱力した
『うっそぉ~・・・自転車パンクしてる』
泣きたくなった・・・
彼が店から出て来るの待ってたら、変に思われて
嫌われるかもしれないので、駐輪場を後にした
私は自転車を押しながら、とぼとぼ歩く
運を使い果たして、不運になってしまった気分だった。
『あれ?どうしたの?』
彼が入った店と違う、雑貨屋から出て来て驚いていた
私も驚いているのに気付くと・・・
『この店、さっきのスーパーとトイレ共用でね
密かにS字になって繋がってるんだよ』と、言って笑った
『私の方は、自転車パンクしちゃってて』
と、言い終わらない内に・・・
彼は、私の自転車の後輪がぺったんこになっているのに気付き
自転車の後輪をしゃがみ込んでチェックする
『一緒においで、修理できる奴の家に行く所だから』
彼は、左側に自転車を置く私の「自転車のハンドル」にある手に
左側から、手を重ね『ちょっと貸して』と、言う・・・
重ねられた手に、近過ぎる距離感
ドキドキし過ぎて平常心が保てなくなりそうなので
私は自転車から手を離した
ハンドルから手を離すと・・・
あっという間に、私の主導権は彼に握られてしまっていた。
駅から程近く、少し入り組んだ場所にある
古風な2階建てアパートの駐輪場に、彼は自転車を止め
躊躇なく、1階の端にある部屋の扉の鍵を開けた
彼が扉を開けると・・・
部屋の奥から中学生くらいの男の子が顔を出す
『なんだチャラ兄かぁ~・・・取敢えず、おかえりぃ~
今日は、昨日の残りの肉のカレーみたいだよ』
此処は誰の家なのだろうか?
それと・・・チャラ兄とは?何処発信の渾名なのだろうか?
どうして良いかわからなくて私は困惑してしまった。
そんな私の様子に気付いて、彼が説明してくれる
『ここ、高校時代のクラス委員長やってた奴の家で
これが、その弟・・・安心して入っておいで』
奥に居た子も私に気付いて
『寒いから、早く入りなよ』と、言ってくれた。
通された先は、ファンヒーターで暖められた炬燵のある部屋
炬燵の上には、算数ドリルが広げられている
『おねぇ~ちゃんは算数得意?』
にこやかな笑顔に、私は取敢えず笑顔で答えたが・・・
算数は意外に難しかった
「xyz」使わずにどうやって解くんだったっけ?
真剣になって問題を解いていたら
いつの間にか、部屋中に良い香りが広がっていた。
私が顔をあげてきょろきょろすると
『委員長が帰って来て、夕食作ってるんだよ』
と、彼が言う・・・
私はあわてて挨拶をしに行ったら・・・
直接の・・・ではないけれど、上司がいた
『あの・・・お・・・御邪魔してますぅ』
若干、声が裏返ってしまう
『大丈夫だよ!委員長は君の分も作ってくれるから!』
私は「そんなつもりじゃなかったのに!」と、更に慌てた
だけど結局、私は夕食を御馳走になり
この凄く寒い中・・・
その委員長さんに、自転車の修理までして貰ってしまった。
『御礼はね、この貯金箱に500円玉入れておくといいよ』
彼が、キッチンのテーブルの上にあった
貯金箱を手に持ち入れる様に支持してくれた
『それ、お前の仕業だったのかよ・・・』
「100万円」と缶に印刷された貯金箱を見て
委員長さんは、溜息を吐く
『仕業とか言うなよぉ~・・・いっぱいになったら
お前と一緒に蟹食いに行く予定になってるんだから』
彼の言葉に委員長さんは・・・なんだか諦めた表情をしている
『俺も行きたい!』
委員長さんの弟君が、手を挙げ自己アピールを始める
『良し行こう!じゃあ、頑張って早く溜める為に
俺は毎日、此処に飯食いに来なくちゃな』
嬉しそうな彼、委員長さんは苦笑いを浮かべていた。
私は早速、500円玉を探したけど見付からない
500円玉が無いので、1000円札を入れようとすると
彼が私の手を掴んで止める
『500円玉あるよ!』
今まで気付かなかったけど、意外と彼は几帳面な人らしい
『もしもの時用に、いっぱい持ってるんだ』
彼の小銭入れには、500円玉がいっぱい入っていた
両替して貰って、私がその2枚を缶に入れようとすると・・・
もう割合いっぱいで、斜めにしないと入らない
『後、ちょっとなんですね』と、言ったら
彼は昔、彼女と一緒に居る時だけ見せていた様な
無邪気な笑顔を見せてくれた。
『おい、そこのチャラ男!明日も仕事だぞ・・・
俺の自転車貸してやるから、彼女を家まで送ってやれ』
『はぁ~い!じゃあ、明日は朝ご飯食べにくるからよろしくな』
彼と委員長さんの関係は、分からないけど・・・
凄く仲良しで、何だか・・・
何故だか心が温まり、私は嬉しくなってしまった。




