006「押し付けられ系保護者」
「押し付けられ系保護者」
また、今年もバレンタインが近付いてきた
また今年も、何時も以上に・・・
元恋敵が、当たり前の様に馴れ馴れしく俺の傍に擦寄って来る
愛おしいと、本気で好きになった同じ1人の女性の死を
悼む気持ちは、同じなのかもしれないが・・・
その愛おしい女性が亡くなった時の当時の彼氏
しかも、その女性を事ある毎に泣かせていた駄目彼氏の面倒を
何故に今も、俺は見続けているのか・・・
訳が分からないし、ぶっちゃけ解せない
寂しくなると・・・猫の様に寄って来る
自分に女が寄って来ると・・・不誠実に遊んで捨てる
捨てた後、寂しくなっては・・・俺の所に帰って来る
本当に解せない状況だ
そして高校卒業で、切れると信じていた縁が・・・
就職して働き出してからも、ずっと続いている。
家庭の事情で、進学が選べず
これまた、家庭の事情で・・・
地元企業に就職せざる得なかった、その家庭の事情が恨めしい
特に、進学が選べていれば・・・奴との縁は切れた筈だった
でも、地元に就職となると・・・
奴の成績でも、俺の行く会社に入る事ができた
で・・・今に至る。
『彼は、とても寂しがり屋な人なの
寄って来たらかまってあげてね・・・虐めないでよ?』
情けない事に、本気で好きだった彼女の言葉に縛られ・・・
奴の事を、故意に避ける事もできない自分が少し情けない
寧ろ今は、奴の存在に慣れてきってしまっていて
『委員長』と、奴が俺の事を呼びながら
俺の所に来なければ、来ないで・・・それなりに心配になる
最近は、それが嫌だ
そして奴は今日も、俺のデスクの横を陣取って
にこやかに・・・当たり前の様に・・・
『委員長、今日の商談に持ってくプレゼンの資料
おかしくないか、チェックしてくれよ』
なんて事を言って、仕事の相談をしにやって来る。
因みに、奴は営業だが・・・俺は経理だ
奴に大口顧客が数件付いているのと
奴に構ってても、俺が仕事に支障をきたさない為
誰も文句言って来てくれなくて辛い
気付けば・・・
大口の契約の時には、付き添わされる羽目にも陥っている
営業の仕事に経理の人間が付き添うとか、変じゃないか?
と、俺は思うのだが・・・
『個人の成績が大事なんじゃない!
会社の成績が優先されるべきで、大事なんだ!』と、言う
社長の方針から、何だか変な構図が了承されている。
そして今夜は・・・仕事を終え家に帰ると奴がいた
『契約取れたよ~ありがとぉ~和牛サーロイン買って来ちゃった♪
美味しく焼いてくれよぉ~』
何故こんな事になってしまったのか・・・
同じ父子家庭と言う環境に、共感を得たのか・・・
彼女が死んだ日、泣きじゃくる奴を捨て置く事ができなくて
連れて帰って来て、飯を食わせたのが悪かったのか・・・
炬燵の上に生肉の塊を置き
奴と家の親父と俺の幼い弟の三人で、俺の帰りを待っていた。
俺は自宅に帰って来たばかりだが、会社に帰りたくなる・・・
シュールな光景に、泣きたくなるのは俺だけなのだろうか?
俺が帰ってきた場所、狭い家の中には・・・
図体のでかい、料理のできないヤローどもが3人
炬燵を囲み・・・
生肉を眺めながら、ポテトチップスを食べていたのだ
逃げ出したくなる心を抑え、帰って早々・・・
米を高速炊飯で炊き、味噌汁を作り
休日に作り置きしていた煮物と漬物を並べ・・・肉を焼く
共働きの家の主婦の様な日常に、虚しさが襲う
食後、奴は感慨深く言う
『委員長が女なら・・・嫁にしたいくらいだよ・・・』
俺は「冗談でも嬉しくねえよ!」との言葉を飲み込んで
『寝言なら、家に帰って寝てからにしとけ』と、告げた。
俺は、心底願った・・・
奴と、俺の親父に「家事のできる奥さん」を与えてください
俺の切なる願いは、誰かに聞き届けて貰えるだろうか?
と、思った翌日の夜
仕事から帰ると、奴が・・・
大人しそうな女性を、俺の家に連れて来ていた。
普段、奴の周りに居る女とは違う種類の・・・
奴の亡くした恋人と似たタイプの・・・
と、良く見たら・・・会社にいる同期入社の娘だった
彼女は、俺が家に帰ってきた事に気付く事無く必死になって
何故か俺の弟に「さんすう」を教えている
俺は取敢えず、見なかった事にする。
時刻は20時、我が家では標準の夕食の時間
俺は無言で、キッチンに立つ
『お肉あるよぉ~鳥の唐揚げが食べたいなぁ~・・・』
奴が冷蔵庫から、パック詰めの鳥の腿肉を持ってきて催促してくる
今夜の夕食は、昨日の晩に煮込んでおいた
奴持ち込みの牛肉を使ったカレーライスと、鳥の唐揚げ・・・
奴がアボカドとトマトを持って来たので・・・
それで何か作る事にした。
夕食を作っている最中、遠くから・・・
『あの・・・お・・・御邪魔してますぅ』と、声が聞こえてきたが
『大丈夫だよ!委員長は君の分も作ってくれるから!』
奴の言葉に、彼女が驚き・・・部屋の方が騒がしくなっただけだ
飲み物をつぎ・・・
御飯とカレーをよそい、そこに唐揚げをトッピングして・・・
取り分ける皿が無かったので、サラダボールに入れた
アボカドとトマトと微塵切りオニオンのドレッシングマリネを
そのまま持って行き・・・
初めての御客様以外のは、自分で取りに行かせた。
俺は・・・
奴が連れてきた同期の娘を、じっくり観察する
見れば見る程、昔の事を思い出した・・・
奴と・・・俺が好きだった奴の恋人との姿が
今の奴と、今ここに居る彼女に被る
懐かしい切ない思いに、少し笑えてきた
『兄ちゃん、どうしたの?』
俺の表情を見て、弟が不思議そうな顔をして話しかけてくる・・・
『ん?あぁ・・・手の掛かる生き物だと思ってな・・・』
俺は、奴の肩に軽く手を乗せ・・・
ふかぁ~い・・・深い、溜息を吐いた。
就職難なので・・・
大卒で、地元企業に就職するのは難しいらしいです。
大学行けるくらい頭の良い人が、地元企業に就職するのは
それほど、難しくないそうです・・・
初任給が、大卒より安い上に・・・
給料なかなか上がらないそうですけどね




