005「欠けて行く月」
✿注意✿事故現場の表現が、少し詳細に書かれています。
「欠けて行く月」
今年も、バレンタインデーが近付いてきた
そして、今日もやっぱり・・・胸に苦い思い出が甦る
俺は、恋人が事故に遭った時
約束の事をすっかり忘れて、友達と近くを歩いていた
事故現場から走り去る救急車に恋人が乗っている事も知らずに
事故現場を覗き・・・
歩道横の電柱に巻かれた、黄色と黒の鉄板から滴る血液
こびり付いた長い人毛、歩道にできた血溜り
道路に続く血痕、コロコロと散らばったフロントガラスの破片
その中に小さな紙袋と、女物の片方の靴と鞄を見て
『こえ~なぁ~・・・こんな事故には遭いたくねぇ~な』
と、笑いながら話し・・・
女友達に逆チョコ渡して玉砕した男友達を慰める為の
「失恋した友人を慰める会」と、銘打ったカラオケに出掛けて
その後もずっと、彼女の訃報も知らないで
合コン状態を本気で楽しみ、笑い遊び呆けていた。
鞄の中で何度も鳴ったであろう携帯は、女友達の手で電源が切られ
友達と一緒に居る時に逐一、携帯をチェックしない俺が
恋人の死を知ったのは・・・
夜も更けた、補導されても仕方がない時刻
コンビニの敷地内での事故を見て笑った、そのコンビニの前
そう、遊びの見返りを求める女達を追い帰した後で・・・
コンビニで買った物をその場で、食べ散らかしながら
男友達だけで集まって、雑談をしている時だった。
今では、優しく接してくれるのだが・・・
今でも、あの時のあの男の目を鮮明に思い出せる
俺の恋人と仲の良い、いけ好かないクラス委員長の言葉が
一度しか言われなかった言葉が、何度でも容赦なく
俺の胸に突き刺さる、今でも突き刺さり続けている
委員長は自転車に乗って現れた
汚い物でも観る様な目で睨みつけてきて、俺の恋人の死を告げた
『恋人が死んだ場所で談笑とは、偉い身分だな
本当は事故じゃなく、お前が殺したんじゃないのか?』
俺は最初、訳が分からず怒り・・・一瞬、不安になって
恋人と連絡を取ろうと、鞄から携帯を取り出した。
何故か、俺の携帯は電源が切られていた・・・
俺に携帯の電源を切った覚えは、無かった
そりゃそうだ、俺はそんな事していない・・・
やったのは、多分・・・何時も、胸を押し付けて来ている女だろう
俺は苛立たしげに、携帯の電源を入れた
初期化するか?という質問にNOと答え携帯を起動させる
沢山のメールが来ていた、留守電も入っている
それらを無視して、俺は恋人の携帯に電話を掛けた・・・
静かな交差点に小さく着信音が響いた。
委員長の様子がおかしくなった
俺は勘違いして、ホッとして恋人の名前を呼んだ・・・
呼んだのに返事は無かった
おかしいと思いながら、音のする方向へ俺は足を進めた
向かう先は、塀と・・・事故の悲惨さを見た電柱のある場所
近付くに連れ、何故か心拍数が上がっていく
辿り着いた先には、誰もいなかった
塀と電柱の先の歩道にも誰もいなかった
着信音は消え、留守電につながっていた・・・
俺はもう一度、電話を掛ける
塀の中を覗き・・・
自分の足元から着信音が聞こえて来るのに気が付いた
そんな場所に居る筈なんて無いのに・・・
俺は、恋人を求めて大きな石でできた側溝の蓋を抉じ開けた
蓋が転がる大きな音が響き、友達と委員長が様子を見に来た
俺は乾燥した大きな側溝の中へ入り、砂だらけの携帯を拾い上げる
血の気が引いて行く、俺はその場で座り込み
昼過ぎに見た、この場所の光景を思い出していた。
少し薄暗い街灯の明かりの中
事故現場は、綺麗に跡形も無く事故の痕跡を片付けられていたのに
生々しく思い出せる惨状
俺の顔色がよっぽど酷かったのだろう
委員長が心配そうな顔で、俺を側溝から引張り出す
友達が、側溝の蓋を戻そうとして騒いでいたけど
もう、そんな事どうでもよかった
俺は無言で、自分の携帯の留守電とメールを徐に確認する
『嘘だ・・・そんな事ある筈がない』
内容が信じられなくて次々と見た内容を消していく
普段使っているアプリを起動すると・・・
俺の知らない所で、彼女は俺に捨てられた事になっていた
それを書き込んだのも、俺に胸を押し付けて来る女だった
最初の書き込みから考えて・・・
俺の恋人が死ぬ前に書き込まれていた
「約束忘れられて、放置されて自殺するんじゃない?」
って、言うのが・・・予告染みていて腹立たしかった
非情な書き込みの為に、自殺説が先行し
何処でどんな事故に遭ったのかは書かれていない
勿論、恋人の搬送先も・・・
『死んだなんて嘘だ』俺はまた呟いていた『皆、嘘吐きだ』
何処かで理解しながら、俺は理解できなかった
俺の知りたい事は・・・
携帯で繋がる範囲に落ちていないのかもしれないと、感じた
恋人の携帯の画面に書き掛けのメールが映し出されていた
「約束を忘れてても、ずっと待ってる」
『待ってるって、どこにだよ』
俺の言葉に友達は答えてくれはしなかった。
隣で溜息が聞こえた
『会えるか分からないが・・・会いに行ってみるか?』
委員長の言葉に俺はよろけながら歩き従ったが・・・
結局、恋人に会う事はできなかった
葬式も密葬で・・・もう2度と会う事が叶わなかった
携帯は恋人の親に取り返され・・・
変わりに『これを読んで反省しろ』と、日記が投げ付けられた
渋い顔をしながらも付き添ってくれた委員長も
俺の恋人の事を好きだったのだろう・・・
遠くから出棺を見詰める顔には、深い悲しみが見て取れた。
大切なモノの優先順位を間違えては駄目です。
運転中は・・・
目的地に早く着く事や、走りの爽快感ではなく「安全」を!
恋人と友人関係の場合は・・・基本、恋人を優先するべきで
そもそも、恋人を会うわせられない友人を持つべきではないし
一緒に連れて行けない様な恋人を持つべきでもない
と、私は思う




