004「一対になりゆく者」
「一対になりゆく者」
中学時代から愛用していた自転車を失い・・・
駅までの道程が、バス通勤になってしまった
なけなしの接点が消え失せてしまった事を、とても残念に思う
バスの到着時刻から、彼と一緒の電車に乗る事も難しい事に
気が付いた後は・・・ちょっと、悲しくなった。
部署が違う為、会社でも・・・
遠く離れた自分の席から眺める程度しかできないだろう
だからと言って、自転車を買うにも・・・
近所に自転車を売っている店事態が存在しない
この時期、この馬鹿みたいに寒い季節に自転車を買って
遠い道程、家まで乗って帰る・・・と、言う選択肢は
いくらなんでも、ちょっと選べない・・・選びたくない
私は、行き付けのコンビニにも立ち寄れなくなってしまい
会社帰り、気晴らしにウインドウショッピングに出掛ける事にした。
バレンタインを意識した服屋の洒落た雰囲気のディスプレイ
明るい色彩の春物の洋服達
会社では、基本スーツなので気にならなかったが・・・
今更ながら、親が買ってきた服をそのまま着ている
自分の普段着に疑問を感じる
あちこち見て回っている内に、
自分の持ち物が、時代遅れな様な気になって
今の自分が、女として枯れている様な気がしてきた。
彼との接点が欲しい一心での、コンビニに通いで
序の事だとコンビニで揃えていた、コスメ・・・捨てる事にした
『今日は・・・散財してしまおう』
私は気合を入れて、デパート一階の化粧品売り場に足を踏み入れ
こんな場所に買い物に来たのは、初めてかもしれないと怖気付く
選択肢が殆どなかった場所からの出発
困っていると・・・
誰もいないのに、誰かが私に語り掛けてきてくれている様な
奇妙な錯覚に襲われた。
そして、気が付くと・・・
デパートを出て、ドラックストアの店内にいた
呼ばれた様な気がして振り向くと、良さ気な商品が目につく
まるで、誰かに勧められるかの様に手を伸ばし
買い物カゴに入れる
その繰り返しで・・・
コスメだけではなく、服や靴に鞄・・・色々な小物に
最終、下着に至るまでを買い漁っていた。
馬鹿みたいに買ってしまった買い物の大荷物を抱えているのに
思ったより、お財布に厳しくない御値段
何時もは、店員に勧められるまま購入し
買ってから、御金を払ってから直ぐに後悔する私・・・
普段の買い物では得られない充実感に、私は浮足立った
帰りの電車の中、バスの中・・・
家に帰りついて、一緒に住む親に買ってきた物の量を
驚かれた後も・・・充実感は続いていた。
生まれて初めて購入したアロマオイルに
同じ香りのボディークリーム・・・これも初めて買った物
なのに、ずっと使ってきたみたいに私に馴染んでいる
『明日は、休みだし・・・部屋の模様替えをしようかな?』
独り言で言ったのに、何だか楽しい気がしてくる
何故なのだろうか?
不思議に思ったけど、嬉しさや楽しさで忘れてしまった
自転車が大破した日から・・・
何故だか、自分が少しづつ
生まれ変わっている様な、そんな気がしていた。
それ程、上手ではなかった化粧が・・・
手際が悪くて、美味しく作れなかった料理が・・・
寧ろ、下手だった片付けが・・・
アドバイスをくれる、目に見えない何かの御蔭で
コツを掴み、要領良くできる様になった気がするのは・・・
気のせいではない筈だ
私はその存在に安心し、感謝しながら・・・
色々な事に自信を持って、挑戦する様になっていた。
自分にできる幅が増えれば、仕事ででもできる幅が増える
私は1個づつできる事を増やし、彼の居る場所に近付いて行った
但し、近付けば・・・
今まで見えなかったモノまで見えて来る
遠くからでは見えなかった事実に、噂以上の「獣さん」加減に
ちょっとドキドキしてしまった。
『ずるいなぁ・・・雰囲気イケメンの癖に』
女性の扱いが上手過ぎて、
彼が取る距離感が時々、凄く近過ぎて
「自分の事を好きなんじゃないか?」って、勘違いしそうでヤバイ
私は、近付き過ぎない様に距離を取る事にする
幾ら好きでも・・・嘗ての友人の様に、弄ばれたくは無い!
『でも、そんなんでも好きなんだよねぇ・・・』
吐息と共に、零れる呟きに嘘は無かった。
そうこうしている内に、一年が過ぎ・・・
今年も、バレンタインの季節が近付いてきた
寒いけど・・・
去年の暖かくなった時期に購入した自転車での
駅までの通勤は止められない
私は、また・・・
朝、私が目にする事ができる唯一の素顔の彼を
一瞬見る為だけに、自転車に乗る様になっていた。
前と違うのは・・・
乗っている自転車は勿論、私の服装や持ち物にメイク
凄く変わった事は、彼と挨拶を交わす様になった事
最近の進展は・・・
彼が待っていてくれて一緒の電車に乗る様になった事
片思いしたまま、友達の様になってしまった現在
此処からドウスレバヨイノデショウカ?
時期だし・・・バレンタインに告白する?
それとも、友チョコ渡して様子を見てみる?
彼に弄ばれたくなくて・・・
今の関係が、壊れて素気なくされるのも嫌な私は・・・
今年も、女子社員全員から贈る予定のチョコ以外に
もう1個、渡すかどうか思案しながら
バレンタインデーを指折り数えていたりする。
今年は・・・初めて、彼用に購入してしまったのだけど
もしかしたら、自分で食べる事になるかもしれない
彼が、どんなチョコが好きなのかも・・・
そもそも、彼がチョコレートを好きなのかも・・・
私は知らないのだ
買った事をちょっと後悔しながら
家でチョコレートを眺める日々が続いていた。
プラトニックな恋愛が、希少な存在になった現代
恋愛のリスクって・・・平等じゃなくなりましたよね




